【第二十二羽】
大変長らくお待たせいたしました。
2章ラストのお話になります。
どうも、マティアスです。
今回ボク達がやってきたのは……なんと森の中!
……え?さっきと同じじゃないかって?うん、間違いなく同じ名前の森の中だけど、実はちょっと違うんだよね。
ここはさっきよりも木が密集している場所だ。ボクには十分なスペースだけどあの大蛇にとってはかなり狭いだろう。
さらに木々の一つ一つが細く折れやすい。ここなら聴覚だけで蛇男の位置が丸わかりになるって寸法だ。
とはいえ、とはいえ、相手は図体が大きくとも音を出さずに行動するプロフェッショナルみたいな生き物だ。油断しないようにしよう。
最初はいっそ全く隠れる場所がない平原まで移動しようと思ったけど、逆にボクが魔法を使う余裕もなくなりそうなので作戦変更した。
この場所で蛇男がボクに襲い掛かろうとすれば絶対に破砕音が出る。あとは鳴った場所に魔法を放つだけだ。ナティに説明しつつ周囲の魔素を吸収し、魔力を練っていく。
ヤツが気配を殺すように慎重に動く分、ボクは魔法を構築する時間が稼げる。
さっき木を使ってあいつの僕共を一網打尽にしたのが効いたのか、あれだけ派手に追いかけてきておいて今さら冷静になったのか、想定してたより慎重になって行動しているみたい。今回は残念ながらそれは悪手だ。
魔法を覚えて日は浅いけど、覚えたての頃に比べれば魔導力も【魔導の理】もかなり成長してる。
これだけ魔力を練る時間が得られるなら、ちょっとデカイうえに面倒くさいだけの蛇野郎を一撃で倒すくらいなんてことはない。はずだ。
自信を持ちつつも冷静に丁寧に、かつ本気で蛇男を一撃で倒せるだけの魔法を形作っていく。
森の中を束の間の静寂が流れていく。
全身を心地よい風と木漏れ日が包み込んでいる。こんな状況でもなければみんなで昼寝のひとつでもしたいもんだ。
よく考えたら蛮族の行軍を見つけてからちゃんと寝てないな……そう考えたらこの騒動の発端である蛇野郎にさらに殺意が沸いてきた。我ながら安い殺意だ。
なけなしの緊張感が途切れかけた頃、穏やかな空気の中に微かな異音を捉えた――瞬間、急速に周囲の空気が冷え込み圧倒的な魔力と冷気に視界が白く塗り変わっていく。
数秒も経って視界が晴れた時、そこにはちょっと想定外な状況が広がっていた。
『不味い、な……』
『はい、少々、いえ、結構不味い状態でございます……』
晴れた視界に飛び込んできた状況を見て真っ先に感じた感情は、焦り。
『だよね。まさかこんなことになるだなんて……』
『私も想定が甘かったと申告せざるをえません。申し訳ありませんマティアス様』
背中から脂汗がにじみ出てくるような緊張感がボクを襲う。ちょっと胃のあたりも痛くなってきた気がする。
『いや、ナティは何も悪くない。ボクが……って責任の所在を奪い合ってる場合じゃないね』
『そう、ですね……』
いや、ホントにもう――
『『やりすぎ(まし)た……』』
うん、やりすぎた。目の前には大口開けた大蛇だけでなく、見渡す限りあたり一面が氷結して真っ白に染まっている光景が広がっていたのだから。
ある意味圧巻とも言える景色だけど、これは使った魔法の余波だ。
そもそも余波が出るってことはボクの魔力制御がまだまだ甘いってことなんだけど、全力で魔法を使うのはこれが初めてと考えると森の半分が氷結しなかっただけ十分抑えられたほうだと思いたい。
というか今回の魔法、こんな広範囲に影響を出すイメージじゃなかったんだけどな……もっと精進しないと環境破壊も甚だしい。もっと頑張りましょう。
それはそうと蛇男だ。周囲の数百倍の冷気によって全身を瞬間冷凍されているから、多分自分が凍ったことすら気づかず凍死したんじゃないかな。
魔法のイメージとしては「溶けない氷」を意識したから、ボクと同等かそれ以上の魔法で相殺でもしてない限りは半永久的にこのまま凍り続けるはずだ。
ということは当然余波で凍った森も魔法でなんとかしないと凍り続けたままということに……それは流石にまずいと思う。生態系的な意味で。
周りの森を元に戻さないといけないし、それの影響――というかまた制御不足の余波――で蛇男の氷まで溶けられても困るし、ささっと壊してしまおう。
まるで今にも動き出しそうなほど精巧な氷像――つい数秒前まで本当に生きてたんだけど――に内心おっかなびっくりしつつ近づいていき、大きく開いた下顎に魔力を篭めた前足で触れる。
途端に触れた部分からシャラシャラと綺麗な音を立てながらゆっくりと蛇の体が崩れていく。元がアレとはいえ、ちょっと幻想的な光景だ。
「クルルルルルゥッ」
おお、大天使シュノワ様がご降臨なされた。
真っ白な森の中に濡羽色の羽を散らして舞い降りるその姿はなかなかカッコいいなと思いながらシュノワを出迎える。
と、ボクのすぐ目の前に降りてきた彼女はまるで甘えるように全身を擦り付けてきた。前言撤回、可愛いわこの子。おーよしよし。
……って、甘えるにしては徹底的というか、容赦がないというか――
『あらあら、ずいぶんと心配させてしまったようでございますね』
『あー、なるほど』「きゅゆーきゅーきゅゆー」
「クルル、クルルルゥッ」
自分に死の恐怖を与え、つい逃げ出してしまうほどの相手と戦っていたんだ。心配もしちゃうか、実際に何度か出血もしたしね。
安心させるようにボクからもすりすりし返していく。隣には微笑ましそうな、ちょっぴり羨ましそうな視線を向けてくるナティ。うん、いつもどおりの光景だ。
そうやって家族団欒を楽しんでいた時、蛇男の体が崩れた場所からキラキラした何かが浮かび上がった。
特に害意を感じなかったからか、遅れた反応が追いつく前にソレはボクとシュノワを包み込んできた。ん、やっぱり悪い感じはしないけどなんだろう?暖かい感じがする。
よくわからないうちにボク達を包んでいたキラキラした何かは空に向かって薄れていった。
「クルルルル。クゥルルルル」
そんなキラキラに向かってシュノワが優しげな声色で鳴いていたのが印象的だった。
その様子になんとなく、あのキラキラがなんだったのか察することができた。まぁ、そうだったらいいなっていうボクの願望も混ざってるけど。
あなた自身の代わりにはなれないけど、ボクが意地でもこの子を立派に育てていくからね。お母さんと一緒にシュノワを見守ってやってください――もう一人のお父さん。
少しの間、3人――2羽と1人?――揃って白い木陰から覗く青空を眺めていた。
さてと、大蛇も排除したし魔法の余波も元通りに直したし、これで森も少しは平和になったかな?
なんだかんだあったけど、無事エルフ達のアフターケアも済んだことだってことで、あとは平原に戻るだけだね。
大蛇の元へ向かったり大蛇を挑発して逃げた時、平原に向かった進路を取ってたからもう目と鼻の先のはず。
ドンパチした際に――っていうか明らかに最後の魔法の所為で――周囲の動物や魔物は逃げ出してたから、特に時間を取られることなく歩けると思う。
『いよいよでございますね』
『うん、いよいよだ』
抑えきれない気持ちの表れか自然と早足になっているのを自覚しながらも、ナティとのやりとりを楽しむ。
シュノワはボクの背中の上でご満悦のようだ。喉をクルクル鳴らしているのが可愛らしい。
そんなことを考えながら歩くこと1時間、ついに森の先が開けて念願の景色がボクの目に映りこんできた。
『ただいま!そしてようこそ、故郷へ!』
「クゥルルルルゥ!」
ボク達の思念会話が聞こえたわけでもないだろうに、合わせたようにシュノワが鳴き声をあげた。流石は自慢の娘だ。
『ふふっ、お邪魔します』
『んー、ボクとナティは一心同体の相棒だし、そもそもこの草原の穴底で出会ったんだから――"ただいま"のほうが正しいんじゃないかな?』
『……そうですね。それでは改めまして、こほん……ただいま♪』
うんうん、ここはボク達の故郷なんだからね。
とはいえ、ここはまだ平原の端っこだからボクが住んでいた場所からは遠くてまったく見覚えがないんだけど。まぁ、草原の端も故郷といえば故郷なのだ。
すでにナティから過去にボクがどのへんで暮らしていたかは教えてもらっている。あとは真っ直ぐ向かうだけだね。
★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★
……あった。間違いなくボク達が生まれて暮らしてきたあの巣穴だ。
そういえば、なんだかんだで生まれてからたった1ヶ月しか過ごしてなかったんだっけ。
でも、ちゃんと帰ってきたっていう実感が沸く。うん、ちゃんとここはボク達の家だ。
懐かしい……でも、懐かしさの中に確かな違和感がそこにはあった。
それは、本来そこにいたはずの者がいないから。両親も弟妹達も。この場所に暮らしていたはずの家族が、誰もいなかったから。
つまりあれから弟妹達は誰もこの場所に戻ってきていないということで……
どこか、変わらず家族がここで暮らしていることを期待していたんだ。でも、そう上手い話はなかった。
巣穴の前には微かな痕跡があり、プティスを遥かに超越した五感はうっすらと残ったその匂いを嗅ぎ取ってしまう。
その場所は狼に両親が襲われた場所だ。他の動物に持ち去られたのか遺体は跡形もない。あれだけ長い時間放置されてたんだ、仕方がない。仕方が……ない。
現実から逃避したかったのか、ボクはその痕跡から視線を逸らしていた。その先には最後に弟妹達と遊んだ原っぱがあった。
平和な光景だ。柔らかな日が注いで、緩やかな風が草を揺らしている。どこからか小鳥の囀りも聞こえてくる。そんな穏やかな景色。
だけどそんな穏やかな風景だからこそ、物悲しさを感じてしまう。この場にその平和を享受するはずだった弟達がいなかったから。
脳裏に楽しかった、家族との団欒の記憶が、浮かんでは消えていく。
クソッ、やめてくれ!ボクの家族を過去のものにしないでくれ!!
ナティとシュノワがボクに心配そうな顔を向けている。切り替えないと、そう思うけどうまくいかなかった。
心のどこかに押し込めていた気持ちがじわじわとボクを侵食していく。
きゅうううぅぅぅ―――
ふと気がつけば、辺りにどこか物悲しい音が拡がってることに気づいた。
一体なんだと耳を傾けてみれば……なんてことはない、その音はボクの口から漏れていたものだった。
ああ、だから2人ともそんな心配してくれてたんだ。ナティなんて泣きそうな顔しちゃって。
遂にシュノワがこっちに駆け寄って体を擦り付けてきて、その暖かさがボクは一人じゃないって言ってくれてるようで……
……ああ、もう。ああもうっ。情けない!気をしっかり持て!
悲しいのは仕方ない、どうしようもない。でも、だからってナティとシュノワに心配かけるのは話が別だろ!
生まれたばかりで両親を失ったシュノワに慰められるとか、最低のダメ親父にも程があるだろ。
それを言ったらボクだって生後2ヶ月弱なんだけど、それはそれだ。シュノワに心配かけてごめんという気持ちを篭めて耳でぽんぽんする。
『あー……ごめん、ちょっと――じゃないな。だいぶ取り乱した』
『いえ。こういう別れは辛いものだと私も知っていますから……』
『うん。……えっと』
むぅ、自業自得とはいえ空気が重い。
こういう時ってどう話を展開してリカバリーすればいいんだろう?
ボクのコミュ力ではこの空気の洗浄はハードルが高い。
頭の中でうんうん唸って考えていると、どこからかこっちに向かってくるような足音に気づいた。耳がぴくりと揺れる。
……こんなタイミングでも襲ってくるのか。もう【美味しそう】とかそんなレベルじゃないな。
いやまあ、ちょうどいいか。話題と気分を転換する絶好のチャンスだと思おう。
足音は、複数だな。ひのふの……10数匹か。そのうち半分くらいは他より速く近づいてくる。結構なスピードじゃないか。
魔法――って気分じゃないな。物理的に返り討ちにしてやろう。今のボクは機嫌が悪い、見つけた不運を呪うがいいさ。
わざとテンションを上げるようにして気分を迎撃体制に持っていこうとして、ふと気になることが。あれ?なんか足音から察するに、小さくないか?
少なくともここらへんの肉食動物とか魔物という感じの重量感は感じない。もっとこう、ネズミとか……ウサギ、とか。
は、ははは、いやいやまさか、流石にそんな都合のいい展開はないだろ。現実を受け止めようぜ。
「「「きゅゆぅ~!!」」」
……おかしいな、幻聴かな?また自分の口から漏れた音かな?それにしては遠くから聞こえるな?
なんでだろうな。聞いてると妙な懐かしさを感じたり視界が歪んだりするんだ。変な魔法でもかけられたのかな?
気がつけば1歩2歩と勝手に足が前に進んでて。もう相手の姿も目視できるようになってて。
その姿を見て『ああ、やっぱり幻覚系かー。攻撃受けたら解けるかな?』とか、もう言い訳にもなってないバカなことを考えて。
ついぼんやりしてたら、そいつらの突進をモロに食らってるんだ。ほんと、バカだよな。
ははは、やっぱりおかしいな。攻撃を受けても幻が消えないじゃないか――ってもういいやこのノリ。
こっちに駆け込んできたのは敵なんかじゃなくプティスだった。しかも真っ先に突進してきたプティス達は凄く見覚えのある毛並みばかり。
「どこか痛いの?泣かないで?」と言わんばかりの勢いで鳴き声を大合唱させながら体をぐりぐりぎゅうぎゅう押し付けてくる。嬉しいけどちょっと苦しい。
あとから追いついてきたプティス達は見覚えがなかったけど、ボク達を見てどこか嬉しそうにきゅーきゅー鳴いていた。シュノワはきょとんとしてた。
あーうん、何か色んな状況がいっぺんに飛び込んできてちょっと混乱したけど、まあ、あれだ。
みんな、ただいま!!
みんな、ただいま!
ごめんね、一家離散ルートは作れなかったよ。
【ボクがウサギで異世界転生】は基本的にご都合ハッピールートが推奨されております。
そして今回一言も発さずに季節はずれのカキ氷になった蛇男に合掌。
結局あいつはなんだったんだ……カマセか。
次回から第3章、プティスの村興し編(サブタイ適当)に入ります。
未だ人化のヒの字も無いのにね……一体どういう展開になるのやら。
まだリアルが落ち着いておりませんが4~5月あたりには落ち着いてくるはずです。
それまでまだまだ不定期更新が続きますが、なにとぞご了承くださいませ。




