【第十九羽】
今回はちょっと短め(4000字)です。
2016/1/13:【第十八羽】の食事シーンで、寝ぼけて書くのを忘れていたシュノワとのやりとりを追加しました。本編に影響がないほのぼのシーンですので読む必要はありません。
《視点:???》
くっちゃくっちゃ―――ゴクンッ
ああ……今まで食いモンは丸呑みしてきたが、噛み潰して舌で味わって喰うってのも悪くネェナ。
最初は慣れなかったが、慣れてみりゃ色々できて結構オモシレェいい体ダゼ。まだ前の体のほうが馴染むがヨ。
ヘハハッ。これからこの森は俺様の餌場になるンダ。あのクソドリだってもういやしネェ……全部俺様のモンダ。
アイツ喰ってからオモシレェ体と力が手に入ったンダ。今ならちったぁ感謝してやらんこともネーカ?……ネーナ!ヒハハハッ!
くっちゃくっちゃくっちゃ―――ゴクンッ
さぁて、良く増える食いモン共は、今頃あんま増えネェ食いモン共を潰して増えてるトコかネェ?やっぱ食いモンは多くなくっちゃナァッ。
増えたヤツ等をたくさん食って、減ったヤツ等はまた増える。喰えば喰うほど俺様はもっと強くナル。もっと増える。ヘヒヒッ、いいねぇ。
強くなればもっと美味いモンが喰えるかもナァ。クソドリも味だけは悪くなかったもんナァ?
ああ……楽しみだナァ。もっと強くなって、もっと美味いモン喰って。俺様が最強だ。笑いが止まんネェナァ。ヘヒャヒャヒャッ!
くっちゃくっちゃ―――ゴクンッ
ガサガサガサッ
アン?食いモン共の見張りが戻ってきたか?つーことは上手くいったのかネェ?
「シャアーッ」
「ア?んだよ、5体送ったはずダゾ?なんでお前だけなんだよ。オラッ早く吐ケヤ?」
…………ア゛ァ゛?食いモン共が全部ぶっ殺されただぁ?おい、オイオイオイふざけんじゃネーゾ!
あんな少ねぇし増えねぇ食いモンがやったってのか?……あ?耳が長くて毛玉の丸っこいヤツにやられただ?
で、そいつの見張り4体残してお前だけ報告に戻ってきただ? 耳長……毛玉……丸っこい……
「ああ、昔喰ったことがアルワ。ありゃ小さくて少ねぇが味は悪くねえ食いモンだったな、弱すぎて力になりゃしネェガ――」
――グジャッ
「ギジャアッ!?」
「テキトーこいてんじゃネーヨ。あんな草食ってるだけのヤツに負けるわけねーダロガ!!」
チッうぜぇ……だが、少なくともあの数の増える食いモン共をぶっ潰せるヤツが俺様以外にいるってノカ?
よくよく考えてみりゃ、こいつ等俺様に嘘の報告なんて出来ねーヨナ?
あー……ペシャンコになっちまった。あーあ、ワリィな殺しちまっテヨ。
つまりだ。俺様みたいに簡単に強くなれる毛玉でもいるってことか?そいつを潰して喰えれば、もしかしたらもっと……ヒヒッ
「――おいテメェ等、その毛玉探して持って来い。ついでに代わりの増える食いモン共も見つけてキナ」
くっちゃくっちゃくっちゃ―――ゴクンッ
「俺様の餌場に入って邪魔しやがったこと、後悔させてやるゼェ……ヒヒッヘヒヒヒッ」
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《視点:マティアス》
どうも、マティアスです。
ランチタイムからこっち、なんだか襲い掛かってくる蛇が増えてきました。
まぁ、こっちから蛇の巣に向かってるんだから増えて当然だと思いますけれどね。
4匹襲い掛かってきた蛇は全員倒してしまった。力加減を間違えたシュノワが捕まえてたやつの喉を握り潰しちゃってね。
まぁ、いきなり筋力が4000も上がったら力加減の間違いくらい起こるよね?シュノワは進化したばっかりの初戦闘だしなおさらだ。
いきなり6万も上がったボクも気をつけないと……
でもナティがこの蛇がどっちから向かってきたのか歴史読みで教えてくれたので何の問題もない。流石ナティだね。
ってあれ?だったら最初から1匹捕獲する必要もなかったんじゃ?…………ま、いいか。
それはそうと、こいつ等は強さの割には結晶で増える能力値が妙に低かった。
増えた能力値を考えると最下級程度だったのに、実際の強さは下級でも強いほうって感じ。蛇使いもボクの庇護と似たような特異能力があるんだろうね。
『獲得できた技能はなかなか有用でございますね』
『うん、【毒生成】と【赤外線感知】だね』
【毒生成】は【酸生成】の毒版だ。今はまだ試していないけど、蛇の毒って神経毒か出血毒のどっちかが基本らしいね。
昔ラノベもどきを書いてた時に調べた知識だから詳細はよく知らないけど、どっちも強くなると命の危険が伴うのは間違いないよ。
でも【酸生成】のレベルが高くなって溶かせるものがだいぶ増えてきてるから、毒はあんまり使う機会がないかも?
個人的には【赤外線感知】が嬉しかったかな。【熱源感知】を統合する感じで手に入ったんだけど、精度が全然違うんだね。こっちのほうがはっきり熱源を感じることが出来るみたい。
赤外線の中でも遠赤外線って分類されているものは物体なら必ず放出されている。つまり生き物以外でも感じる取ることができるってことだね。これもラノベ執筆時代の半端知識だから詳細は不明だ。
話は変わるけど、全部の感知系技能を合わせて使うとなんていうか360度全方位の高感度センサーを搭載したみたいな状態になる。これをナティにマップ化してもらうことで森を迷うことなく進むことができているわけだ。
感知系スキルがなかったら森で迷子になって遭難してたかもしれない。そう考えるとRPGなんかのオートマップ機能って相当なチート機能だと思う。昔は紙を用意して自力でマッピングしてたらしいけど。
感知といえばシュノワも負けてない。フクロウの耳って右と左で位置が違うんだけど、この構造のおかげで立体的に音を捉えることができるんだ。
音で対象の位置と距離を掴むという点ではウサギの耳をも上回る可能性を秘めているのがフクロウの耳というわけ。つまり――
「ギュヂィ!?」
――進化で成体に近い姿になったシュノワが早々に狩りをしだしても何もおかしくないってこと。なんか気がついたら隠れてたらしい結構大きな地ネズミっぽいのを捕まえてた。
誇らしげに耳を揺らしながら狩ったネズミを咥えてボクの背中に戻ってくるシュノワ。進化してもやっぱり背中がお気に入りの場所らしい。
同じくらいの大きさになってるし、爪も鋭くなってるんだけど、高い耐久値やら【もふもふ】やらで毛皮に傷がつくことはない。シュノワも手……足加減して掴んでるしね。
「はくっはくっ――ごくん」
「きゅゆー」
背中のシュノワを耳で撫でながら森を進む。
進めば進むほど蛇の比率が高くなって……なって……
『って多すぎるわー!!』
『あ、あたり一面が蛇で埋め尽くされておりますね……』
もう、なんていうか、前方の見える範囲一面が蛇の海だ。地面にも木にも無数の蛇が蠢いている。
割とグロテスクな状況も平然と流してたナティもこの光景には軽く引いているみたい。珍しいね。
これは……ボクが蛇使いの元にたどり着くのを阻止しているってところかな?ということは、標的はこの先で間違いないみたいだ。
うーん、ボクだけなら問題ないと思うけど、シュノワは進化したりボクの庇護でパワーアップしたとはいえまだこんな大量の蛇とやりあえるほどじゃない。
空を飛んで避難してもらおうにも、こんな木の上も埋め尽くされた状況じゃそれも難しい。
『じゃあ――逃げよっか。前に向かって』
『あの、それは突撃というのでは……しかし、この蛇を統べている蛇使いを倒さないとジリ貧ですから、それが良いと思います』
シュノワの掴む力も相当強くなってるから振り落とされることもないだろうし。ちょっとスピード出してみようかな。
ちょっとしゃがんで前足で地面をタンタンと叩いて今から走るよーという合図を送ると、背中を掴む力がちょっと……いや、結構強くなって体勢を低くしてた。昨日怖がらせちゃったもんね……
よし、それじゃあ行ってみようか。3・2・1……GO!
瞬間、風景が吹き飛んだ。ボクも感覚を集中させてようやく認識できてる感じ。……ちょっと力篭めすぎた!
前方にいた蛇も吹き飛んだ。なんかバラバラになって宙を舞ってるヤツもいる。
あいつ等の何匹かはどこかの異世界に転生したりして。なんてね。
横や上にいた蛇も飛び掛ろうにもこっちが速すぎて体を撓めた時にはすでにその場にボクはいない状態だろう。
いやぁ、ボクもだいぶ強くなったもんだ。
こんな速度を一切緩めず木を避けながら走るだなんて、1ヶ月前の家族でのんびり過ごしてた頃では考えられないよ。……ぐすっ。
ああいかんいかん、前方不注意は事故の元だ。今はここを突っ切って、はた迷惑な親玉をぶっ飛ばすことに集中しよう。
5分程度の時間を掛けて――5分も掛かったともいう。どんだけ多かったんだよ――蛇地帯を抜けたので速度を緩めていく。
「クルルル!」
ようやく速度が緩んで余裕ができたからか、シュノワが抗議の声を上げる。
ごめんね。でもああでもしないとシュノワが危険だったからさ……
『マティアス様。前方に強い瘴気を感じます』
『うん、ボクにもわかるよ。洞窟の中で感じた母フクロウのものより強いね』
これが蛇使いの気配だろうか……あれ?蛇使いって人族じゃないってことかな?
瘴気は純粋なこの世界の生き物ほど強く出やすい。つまり基本的に人族からは瘴気は出ていない。
体内の魔力が関係しているので抑えようと思えばいくらでも抑えられるけどね。
つまり人族以外の強くて抑える気が無いヤツほど強い瘴気を放つというわけだ。
多分ボクも出そうと思えば出せるけど、魔物を引き寄せたり威圧するくらいにしか特に意味ないし出す予定はないね。
魔物は引き寄せようと思わなくても寄ってくるし、威圧にしても【美味しそう】に負けて襲い掛かってくるし……
っと、気を取り直して先に進もう。強いヤツが待ち構えているのは間違いないんだから慎重にね。
周囲の気配を探りながら森を進んでいく。そこには――
「ア?なんだこいつハ?……毛玉……ああ、テメエが……ヒヒッ」
――全身蛇柄のタイツっぽいもので全身を固めた変態チックな男がそこにいた。
「ヘヒヒヒッ。テメエが今、俺様が一番欲しいと思ってたヤツカ!」
そして変態チックな言葉と共にゆっくりと立ち上がり、ぬらりとした足取りでこっちに向かってきた。――へっへんたいだー!?
へんたいがあらわれた!
この回を書いていて、純粋に胸糞悪くなるキャラクターを描写する難しさを理解しました。ただの変な人になっちゃって……




