【第十七羽】
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いつもありがとうございます。これからもよろしくお願いします★
どうも、マティアスです。
現在、何故かエルフの人達に平伏されています。
美男美女の集団が揃ってプティスに頭を垂れる光景――しかも周囲は蛮族の死体だらけ――は恐らくシュール以外の何者でもないと思います。……ナンダコレ。
あー、うん。ちょっと、いや結構?居心地がよろしくないかも。なんか恥ずかしいというか……。
そりゃ、こっちの勝手ながら人助けしたわけだから「ありがとうプティス君!」くらいの反応は来るかなと思ってたけどさ。
なんかそういうのをぶっちぎって畏敬の念というか、崇拝されてる感じがヒシヒシと伝わってくるんだよね。あれだ、お年寄りに拝まれてる感じ。
『どうやらこれまでの一連の流れでマティアス様のことを神獣であると認識したようでございます』
『え、神獣……?』
そういえば、戦ってる最中に「シンジュウサマー!」みたいな叫びが聞こえてた気がする。今思えば「神獣様」って言ってたのね。しかもボクに対して。
『神獣とは、この世界が生まれて間もない頃から今なお生存している創世種の一体の俗称でございます』
『それってもう、本当に神様みたいなものなんじゃないかな?』
『そうですね。実力で言えば魔神を除けば、最強の一角なのは間違いないでしょう』
あー、確か動物形態で喋れないっていうメルヘン否定の理由を聞いたときにそんな名前が出てきてたような……ドラゴンと同じような扱いで。
『なんでそんなのと間違われてるのさ……』
『それだけ現在では本来の魔法が規格外なのがひとつ。あとは筆談とはいえ言葉を用いて意思の疎通をしていたのが伝承などと一致したのだと思われます』
なるほど……たしかにプティスが魔法で木を動かしたり圧倒的な数の蛮族を返り討ちにしてたら、「仮の姿で救ってくださった神獣様」みたいに思われても仕方ない……のか?
いや、でも本物ならわざわざこんな回りくどいやり方しなくても指先ひとつで解決できそうなものだと思う。会ったことないけど。
とりあえず、それはひとまず置いておこう。
えぇと……とりあえず今のボクは血みどろウサギ状態だし、話をする前に怖がられないように体を綺麗にしたほうがいいかな?……よっと。
「「「おおぉぉっ」」」
どよめかれました。まぁ血で汚れてるのが急に綺麗になったらそうなるのかな?さっぱりしたから良かったということにしよう。
「さすが神獣様だ……」とか「あの毛ツヤの良さ、神々しい……」とか「あの戦いで傷ひとつないなんて……」とかつぶやいてるのが耳に届く。
神格化してるとその相手が何をしても凄く見えるものなのかね?芸能人効果みたいな。まぁ、自慢の毛並みを褒められて悪い気はしないよねっ。
傷ひとつないのは攻撃をまったく受けなかったからじゃない。実はそれなりに殴られたり引っかかれたりしてたんだけど【自動再生】のおかげで目立つ傷は塞がっちゃったんだよね。
えっと、美男美女揃いの中でもナイスミドルって感じの二本槍の人が多分族長さんだよね?指揮とか執ってたし。
近づいてみると騎士の忠誠のポーズみたいな感じの姿勢を取ったうえで見下ろしてきた。ボクがちっちゃいからこれは仕方が無い。
ふむ、なんか雰囲気的にこの状況でボクが地道に地面に文字を書く光景は違う気がしてきた……じゃあアレを試してみよう。
「きゅゆー」
「神獣様、此度は我等エフェルトの民をお救いくださり誠に感謝いたします」
《気にしないでください。こちらの都合でお節介を焼いただけですから》
「「「おおおぉっ!?」」」
今ボクは地面に光の文字を映している。木を光らせた時の応用だね。後ろの人達はさらに声をあげて、族長さんも表情で驚いてるのがわかる。なんだかちょっと楽しくなってきた。
ちなみに丁寧な口調になっちゃってるのは、底辺とはいえ元社会人の時のクセで年上っぽい人に対してタメ口だと落ち着かなくなるからだ。難儀だね。
「……いえ、あなた様が救いの手を差し伸べてくださらねば、我々はこうして平穏に夜明けを迎えることはなかったでしょう。
是非我等の集落で感謝と歓迎の宴を開かせていただきたい。いかがでしょうか?」
《申し訳ありませんが、ボクには急ぐ用事があるのですぐに出発せねばなりません》
「そうですか……それは非常に残念ですが、お留めするわけにもいきますまい」
正直なところ、結構疲れてるから一泊くらい……と思わなくもないけど、この行為を素直に受けるにはボクの【美味しそう】が怖い。
ただ、こうやって複数の人を見比べると【美味しそう】の効果も人によって違うんだな~と感じる。
神様として崇拝してたり感謝してたりする感じの人がほとんどだけど、感謝してる中で食欲を刺激されてるっぽい人がチラホラ見える。というか時間が経つほどに徐々にそんな感じの人が増えてってる。なんか族長さんとデルさんを始めとして何人か全然問題なさそうにしてる人もいるけど、それは少数派みたい。
多分食欲のあまり襲い掛かってくるまではない――あっても返り討ちにできる――だろうけど、ボクの所為でそんな欲求と無駄に戦わせちゃうのは正直申し訳ない。
まぁそこまでは予想通りなんだけど、なんか食欲とか全く関係ない感情を持ってる人もいるんだよね。主に「可愛い」とか「触ってみたい」とか。やっぱりエルフでもそういう層があるんだね。
あとは「恐怖」が二人ほど。……恐怖?やっぱり強いプティスとか意味不明だし、怖いと思うのも仕方がないかと思ってその二人を見たら、見覚えがあった。
というか、門番してた二人組だね。……あー、なるほどわかった。というか二人のひそひそ話が耳に届いた。
「な、なぁ……私達はどうなるんだろう?」
「あのプティ……いや、神獣様に対して、ろくに信じようともせずに芸を仕込まれたものだと適当に扱ってしまったんだ……」
「ああ、そうだな……。しかもだ、私はあの神獣様を見てあろうことか強い食欲を感じてしまったんだ……」
「それは俺もだろ。その時は神獣様に欲に溺れきった目を向けてしまっていた……最悪の場合は……」
ああ、そうだよね。自分の失態に対して何の反応もない間っていうのは凄い怖い。
ボクも経験あるよ。ネガティブがどんどん加速していって、そんなわけないのに殺される!まで考えが行っちゃうんだよね。だから――
「む、神獣様?」
族長の横を通り過ぎて二人の元へ向かう。出来るだけなんでもないような歩調で。まぁ、それでも最悪殺されるって状況を想定してる二人には焼け石に水かも。
「ひっ」
「うぁ……」
実際こんなだし。まぁ、どんなにやんわり動いても変わらなそうだし普通に行こう。普通にね。
「「し……神獣様!申し訳ありませんでした!我々は神獣様のご厚意を無にするところでした!!」」
見事にハモってる。仲いいねキミたち。
突然の仲間の謝罪に周りのエルフ達は怪訝な表情を浮かべている。一体何をやったんだと。
必死に頭を下げ続ける二人組。……うん、フリじゃなくてちゃんと反省しているみたい。なら、ピョンっとね。
「ひゃっ!?」
情けない声をあげる門番さんその1――まだ名前聞いてないんだ、ごめんね――。ボクが急に頭の上に乗ったからだけど。
「きゅゆー」
そのまま後頭部に垂れ下がるようにお腹をぺしゃっとつけて、頭をぽんぽんする。怒ってないよーって感じで。
「きゅゆゆー」
そのまま門番さんその2――ちゃんと名前聞いておけばよかったね――の頭の上に飛び移って同じようにぺしゃっからのぽんぽん。許してるよーって感じで。
意外と髪さらさらだねキミたち。
この集落ってお風呂とか石鹸とかあるのかな?え?水浴びだけ?凄いねエルフ。最近魔法でちょちょいっのボクが言うのもアレだけどさ。
「「………………」」
ボクが頭から降りても唖然とした表情で頭を触ったりしてる。
周りから「おぉ、神獣様が二人をお許しになったぞ」とか「むしろあれは……祝福しているのか?」とか「羨ましい、私もやって欲しい」とか聞こえる。
その言葉で我に返ったのか、二人同時に動き出す。
「「ありがとうございます!ありがとうございます!!」」
やっぱり仲いいよねキミたち。
あーあー。ボロボロ泣いちゃってまぁ。色男が台無しですよ?
「寛大なお心遣い、感謝いたします」
族長も事態を察したのか頭を下げてくる。まぁ、これであの門番二人組は大丈夫かな?
《では、フィリトゥリさんに預けた子を受け取ったら出発します》
「おお、話に聞いております黒いアウルの子ですな。なるほど、フィリトゥリに――」
言葉の途中で動きを止める族長さん。なんか顔がだんだん青白くなっていって脂汗がにじんできてる。だ、大丈夫かな?
「み、皆の者!急いで凱旋するぞ!そしてフィリトゥリから黒いアウルの子を取り返すのだ!!」
「「「お、おおぉぉっ!!!」」」
……お、おーい?
うわぁ、本当にケガ人かってくらいの勢いで帰っていったよ。大丈夫なのかな?
★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★
「ぴちちちちっ!」
「きゅきゅゆー!」
おお、帰ったよ雛フクロウ!元気そうでなによ――あだだだ!ごめんごめん!置いてって悪かった!だからあぐあぐしないでぇ!?
そんな光景を微笑ましそうに見守るエルフ達+ナティ。できれば止めてほしいナー。あ、今後頭部からぶちって音が……すぐ生えてくるけどさ……
《フィリトゥリさん、雛を預かっててくれてありがとう》
「わっ、光る文字!?本当に凄いねプティス君っ。ああ、お礼なんていいのよ。私も楽しかったもの」
そう言って頭を撫でてくるフィリトゥリさん。彼女のフランクな態度に周りの人達は戦々恐々としていた。
なんだかんだで急に雛フクロウのお守りを押し付けちゃって悪いと思ったけど、全然気にしてないようだ。さすが動物好きだ。
「それより、みんなが私のことどう思ってるか改めて知っちゃったわ……傷だらけの格好で押し寄せてきて、びっくりしたんだからっ」
「それがフィリ姉の日ごろの行いの結果ということだ。悔い改めろ」
デルさんのツッコミにみんなしてウンウン頷いてる。一体何をしたんだろう、このお姉ちゃん。
そうしてフィリトゥリさんの家の前で雑談したり傷の治療をしているエルフ達を少し離れて眺めていると族長さんがやってきた。
「神獣様、こちらは集落の近くで採れる果実でございます。出発する前に是非お召し上がりください」
《ありがとうございます》
族長さんはいろんな種類の果物が入ったかごを持ってきてくれた。ありがたいけど、ちょっと量が多い。食べるけどさ。
っと、食べながらでちょっとお行儀が悪いけどひとつお願いをしないと。大丈夫、喋るわけじゃないからはしたなくない。
《ところで、先ほどの蛮族の魔石――【魂核結晶】のことだよ――を少し分けてもらってもいいですか?》
「蛮族達の魔石ですか。そんな、少しといわず全てお持ちいただいて構いません」
《いえ、全てはいりません。残った魔石はそちらで使って、今以上に集落を守れるようになってください》
蛮族の他より強い個体が何十人かいたので、その分の結晶をもらえれば問題ない。
べ、別にエルフの人達の心配をしたわけじゃないんだからねっ。ただ雑魚の結晶を全部回収するのが面倒だっただけなんだからっ……とかボクがツンデレぶっても気持ち悪いだけなので絶対にやらない。
「……度々のご厚意、痛み入ります。このご恩は今以上に力をつけた時、神獣様のお役に立つことでお返しさせていただきます」
別に気にしなくていいのに、律儀な人だね。じゃあ何か力を借りる必要ができたら頼らせてもらおうかな。
ここの果物美味しかったし、草原で育つなら育てるために種とかもらってみてもいいかもね。
「あ、いたっ。プティスくーん!」
族長と話してたらフィリトゥリさんがやってきた。何かあったのかな?
「こらフィリトゥリ、こちらのお方は神獣様だと言っただろう!」
「いいじゃない族長。ダメならプティスくんも言ってくれるよ。ね?」
確かに変に神様扱いされるよりは普通に話してくれたほうが気が楽だよね。
《普通に話していいよ。どうしたのフィリトゥリさん?》
「うん、皆を守ってくれたって聞いたからお礼をしにきたの。本当にありがとう!」
どういたしまして、と文字を書こうと思ったらふいに体を持ち上げられた。そして――
「お、おいフィリトゥリ!」
『ふわぁ……』
「ぴちち?ぴちちちっ」
えと……キス、されました。おでこにだけど。
「今度ちゃんとしたお礼するから、楽しみにしててね♪」
そう言っていたずらっぽく笑ってウィンクしてくるフィリトゥリさん。
……いえ、その、十分いただきました。はい。
えっと……よし、そろそろ出発しよう。時間は有限だしね!
《また会うことがあったらよろしくね。では、ボク達はそろそろ出発します》
「そうですか、もし何かありましたらいつでもお立ち寄りください。歓迎しますぞ」
「うん、絶対また会おうねっ。アウルちゃんも、またね」
「ぴちちちちっ」
フィリトゥリさんと雛フクロウはなんか仲良くなってた。最初の出会いはあんなだったのにね。まぁ仲良きことはいいことだ。
出発の際、集落のエルフさん達が総出で見送りしてくれた。門番の二人組も心なしかすっきりした表情で敬礼していた。
いい人達だったね。また会いにきたくなるくらいには。うん、ボクの問題が解決したらまた会いたいな。
その後、エフェルト族の偏食が改善したとか、ある二人組が強力な魔物の討伐に成功したとか、森の一部にプティスが住み着くようになったとか聞くのはちょっと先のお話。
いつか本物の神獣と会う事とかあるんでしょうか?
マティアス君は黒企業時代に上司相手に苦労したタイプ。
普通に喋れる人と一緒にいるシーンだとナティちゃんの出番が……何か考えませんとね。
フィリさんは【お姉さん】というより【お姉ちゃん】って感じです。
次回から森編クライマックスへ!