【第十四羽】
当作品がまさかの日間6位にランクインしておりました。感無量です!
それもこれも皆様のおかげです、本当にありがとうございます!★
どうも、マティアスです。ただいま森の中を疾走中です。
え?あのまま格好良く蛮族の群れに突っ込むものだと思ってたって?
そんなまさか、死んでも生き返れる勇者じゃあるまいし。
というわけで、ナティから集落までの位置情報を教えてもらって絶賛目的地に急行中だ。
寝床から亜人族の集落までは蛮族の進軍速度で約3時間。ボクが今出してる速度なら30分くらいかな?
ナティに聞くと、件の亜人族は、自然を愛する穏やかな気性の民族らしい。この世界にしては動物を大切にする心も持ってるんだとか。
出来ることなら1人もケガさせずに助けてあげたいのはやまやまなんだけど、流石にあの数をボク一人で抑えるのは無理だ。
最初は善戦出来たとしても、途中から数の暴力にひき潰されるオチが目に見えてる。
だから彼等の集落にひとっ走りして危険を伝えるんだ。そして集落の防衛体制を万全にしてもらいつつ、ボクも加勢する形に持っていこうというわけだ。
時間は有限ってことで、申し訳なく思いながら雛フクロウを起こして背中に乗せながら走ってる。危険だけど流石に置いていくわけにもいかない。
それにしても、まさかさっき獲得した【騎獣】がいきなり役に立ってくれるとは思わなかったよ。
安定したフォームによって、それなりにスピードを出してもあまり雛フクロウに負担が掛からないように移動できる。
そうそう、走っている最中に実はもう1箇所進化によって変化している部分があることに気がついたんだ。それはね――
――何故か両足の先に肉きゅうが出来ていたんだ!ぷにぷになんだ!
なんで肉きゅうだよ!?と思ったけど、肉きゅうって凄いんだね。
走った時の安定感が前とは段違いに良くなってる。さすが狩猟型肉食獣御用達の一品だ。全てを虜する魔性のぷにぷにだけのことはある。
ちなみに基本的にウサギの足に肉きゅうはないんだけど、ミニレッキスやホーランド・ロップといった一部の種には足裏の毛に隠れてるけど肉きゅうがあるんだ。飼ってる人がいたら足の裏の毛を避けて見せてもらうといいよ。
閑話休題。
とはいえ、雛フクロウを背中に乗せた状態じゃ、まだ全力の半分に毛が生えた程度の速度しか出せない。
【騎乗】Lv1だと、まだまだ人馬一体とは行かないみたいだ。正確には梟兎一体なんだけど。
あー、でも今の能力値で森の中を全力疾走なんかしたら前方の木々に激突するか。
雛フクロウは起こした当初は眠そうに舟をこいでいたけど、ボクのスピードにびっくりしてからは必死に背中にしがみついている。ちょっと背中が痛い。
ごめんよ雛。今度美味しいご飯をたくさん食べさせてあげるし、枕役だっていくらでも引き受けてあげよう。
というか、結局ナティと一緒に雛フクロウの名前を決められなかったな……蛮族め、許さん。
途中で【騎獣】のレベルが上がってスピードアップが出来たので、予定よりも6分12秒縮めることができた。
何故か雛が後頭部をあぐあぐしてくるのは甘んじて受け入れよう。イテテ。それよりも、亜人達に蛮族が襲ってくることを知らせないと。――あっ、抜くのはダメだってば!?
前方に篝火を焚いて最低限の光を確保している木製で出来た硬そうな高い柵と門を見つける。どうやらあそこが集落の入口みたいだ。
門があるってことは当然門番がいる。そういえば、骨以外の人間に会うのは初めてだ。穏やかな種族らしいけど、どんな人達なんだろう?
やや緑がかった鮮やかな金髪に端正な顔立ち。顔の横から長い耳が生えている……いやー、まるでファンタジー作品によく出てくるエルフみたいな――
『……ってエルフだこれ!?』
『エフェルト族でございますよ?』
ああ、そういえばさっきナティが種族の名前言ってたね。アレがエフェルト族か。……縮めてエルフってことで!
まぁ名前なんて今は置いといて、早く門番の人に蛮族が来ることを伝えて備えさせないと!
門のそばに駆け寄って、大きく息を吸って――
「きゅっきゅゆー!!」
「うお!?」
「なっなんだ新手の奇襲か!?――って、プティスじゃないか。脅かすなよ……」
…………しまったー!ボクは人間の言葉が話せないんだったー!?
「きゅゆゆ、きゅゆー!」
「なんだ?プティスが森のこんなところまで入り込んで来るなんて珍しい」
えぇい、これじゃあ話が通じるどうこう以前の問題だ。まったく魔神様め。面倒くさい制約を作ってからに……
「ぴちちっぴちちちっ」
「しかも背中に何か乗っけているな。あれは、色は黒いが……アウルの幼体、か?」
「本当だ。いや、わけのわからん組み合わせだな」
なんか長耳美形門番二人組がまるで珍獣を見るような目をこっちに向けてくる。失敬な、ボクは由緒正しい普通のプティスだ。
あ、いや、さっき高貴なプティスになったんだった。ってそうじゃないそうじゃない。
はやく蛮族が来ることを伝えないと。こうなったら――
「きゅ、きゅゆ、きゅーゆ、きゅきゅ」
「ぴちちっぴちちっぴちちちちっ」
「なんだ?今度は変な踊りを始めたぞ?」
「妙に人慣れしたヤツだな。誰かが飼い慣らしたのか?」
『マティアス様がちょこちょこ踊ってます……雛ちゃんも一生懸命まねっこしようとして……ふわぁ、可愛いです』
「だったらフィリトゥリかもな。あいつはしょっちゅう動物と遊んでるし」
「ああ、かもな」
ぐっ、パントマイムも通じないか。ってパントマイムなのに鳴き声出しちゃってるし!そもそも何か伝えられるほど上手くないし!っていうかナティがしれっと傍観側に混ざってるし!?
『……ねぇナティ。どうやったらこの人達に蛮族の襲撃を伝えられるかな?』
『可愛……ハッ!?え、えぇとですね。地面に文字を書いてみるのはいかがでしょうか?』
そ れ だ !
アホかボクは、こっちの世界の言語は読み書き共に知ってるんだから書けばいいじゃないか。喋ることばっかり考えてたよ。
さっそく爪で地面に文字を書いて危険をアピールしてみよう。
「あ、今度は穴を掘りだしたぞ?」
「んー?いや、何か書いてるんじゃないか?これは……文字?」
「フィリトゥリのヤツ……どこまで調教してるんだよ。プティスに芸なんか仕込んでどうするんだ?」
「きゅ~……きゅゆっ」
「お?どうやら書けたようだぞ?なになに…………お、おい。こいつは……」
《バンゾク タイグン オソッテクル アト ニ ジカン サンジュウ フン》
「ば、蛮族の大群だって?」
「流石にこれは――」
おっ!?ようやく通じたみたいだ。あとは人を集めて防衛線を張ってくれれば――
「――いたずらにしちゃ度が過ぎてるな」
へ?
「ああ、夜が明けたら叱ってやらないと。まったく、門衛は遊びではないんだぞ」
い……いたずら扱いされたあぁぁぁ!?
いやっ、そりゃそうだけどっ、ボクだって同じ状況になったらいたずらだと思うだろうけど!!
ああクソッ、こんなやり取りで時間食ってる場合じゃないのに……一体どうすりゃ信じて貰えるんだよ!?
『マティアス様、落ち着いてください。……えいっ』
『落ち着いたっ!……ごめんナティ、またテンパってた』
『最初から信じるつもりのない相手が真実に気づく時というのは、決まって取り返しのつかない状況に追い込まれた時だけでございます』
『うん、それはわかる。じゃあボクはどうすればいい?』
『この門番達が言っていた《フィリトゥリ》という人物に会いに行きましょう』
フィリトゥリって……そういえばいつも動物と遊んでるって言ってたな。
たしかに本人がボクに芸を仕込んだなんて勘違いもしないだろうし、門番にひたすら信じてもらうにはどうするか考えるより有意義だと思う。
こういうのを急がば回れっていうんだっけ?
『それにですね……』
『ん?』
「それにしても、このプティスを見ていると――妙に肉が食べたくなってくるな」
「ああ、お前もか。実は私もさっきからそうなんだ。儀式の時くらいしか口にする機会はないが、正直口に合わんと思っていた。
なのに今は、無性に焼いた肉にかぶりつきたい気分なんだ……ゴクリッ」
『このままここに留まるのは少々危険です』
『わからいでかっ!』
ボクは雛フクロウを首根っこっぽい部分をくわえて、速攻でこの場から逃げ出した。
こんな危険な場所にいられるか!ボクは自分の部屋にもど……じゃないっ、フィリトゥリって人を探しに行かせてもらう!
……肉が好物でもない温厚種族の理性すらも揺らがすのかよ。【美味しそう】Lv43ハンパじゃないな。ボク、もう人前に出られなかったりするのかな?
別にそれならそれでもいいんだけど、人化したあとも人間から食べたそうな目で見られたら普通に対人恐怖症になりそうだよ……
★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★
『で、そのフィリトゥリって人をどうやって見つければいいんだ?』
この柵を乗り越えて集落に進入するのはいいとして、しらみつぶしに家の中を探すわけにもいかないし。
そもそも顔を知らないんだから、誰がフィリトゥリなのかがわからない。
『先ほどの門番からの逃走の際にすでに調べておきました。フィリトゥリという人物は現在、集落の南西にある自宅らしき建物の中で睡眠中でございます』
『いつの間に……というかどうやってそんなこと調べたの?』
『私の知識はこの世界の歴史も含まれます。膨大な量になるので普段は情報をカットしているのですが、やろうと思えば個人レベルの歴史まで閲覧することが可能なのでございます』
なんかもうそれって歴史ってレベルじゃない気がするんだけど。蛮族の行軍理由がわかったのもこうやって森の歴史を調べたからだったのか。……うん、ナティには嘘をつかないようにしよう。
ただ、何でもわかるというわけじゃないらしい。対象の正式名称――偽名だとダメみたい――を知っていること。正式名称を知らない場合は、ボク(を中継したナティ)が最後に直接見た時点からの過去であること。が個人の歴史を調べる条件なんだとか。
今回はフィリトゥリという正式名称がわかったから調べることができた。芸認定されたボクの頑張りも無駄にはならなかったということだ。
『集落の周りには風の結界が施されているようでございますね』
『結界?んー……あ、本当だ。なんか不自然な魔素が含まれた風が流れてるね』
もはや30000に王手が掛かった感覚に魔力を込めて集中すると、たしかに集落を囲うように魔力を帯びた風が流れているのを感じる。
多分この結界に触れると侵入したことがバレるか、結界そのものが迎撃する仕掛けにでもなっているんだろう。
少なくともこのくらいの結界を常時展開しているくらいには防衛に力を入れていることがわかったのは収穫だ。
『マティアス様なら術者に悟らせないように結界に穴を開けることができるでしょう』
『へぇ。能力はあっても経験がないのはちょっと不安なんだけど、ちゃんとできるかな?』
『バレたらバレたで防衛が強化されるという最低限の目標は達成されるので問題はないでしょう』
『なるほどね。理想はちゃんと蛮族の来る方角と数を知らせた上で対策してもらうことだけど、最低限の保証があるなら挑戦しても問題ないね』
それじゃあ早速結界の穴開けに挑戦しよう。穴を開けつつもそれを誤魔化す感じ……いや、風の流れ自体は変えずにこの辺だけ結界の発揮条件をジャミングするような感じかな?
ナティが地下で魔術の火の効果を妨害した時の魔力の流し方を体が覚えていた――その時の出来事そのものはできれば思い出したくない――ことと【魔導の理】のおかげか、初めての割にはなんとなくどうすればいいのかわかる。……お、これでどうかな?
『――さすがマティアス様です♪これでしばらくの間はここから侵入しても結界が効果を示すことはないでしょう』
『よし、それじゃあ早速進入しようか』
念のため柵に触れないように余裕を持って飛び越えよう。
柵を越えた先、集落の中は警備の人が居ないようだ。多分、結界が作動したらちゃんと出てくるんだろうけど、結界の存在を信頼しすぎているのはちょっと減点かな。おかげで楽に目的地に進めるから今は助かってるんだけどね。さて、ナティの情報だとこの家か……
なんか1本の木が中心生えてて、幹を巨大な樽みたいな板材で囲ったまるで植木鉢みたいな家だ。面白い形の家だね。いつかゆっくり見物してみたいな。
入口は結構複雑な模様が描かれた暖簾みたいな大きめの布が掛かっているだけでドアはついていなかった。特に魔法の品というわけでもないみたいだ。
全体的に集落の内側の守りは割と雑みたいだね。それだけ仲間との信頼が厚いんだと思っておこう。はい進入完了っと。
えっと、フィリトゥリさんが寝てるのはこっちの部屋ってことだったよね……おじゃましまーす。
……あっ、これなんとなくオチがわかった。この独特の不思議と甘い印象が漂う空気……これは、女の子の部屋特有の空気だ。
前世で女友達の部屋に遊びに行った経験があるのでなんとなくそういう空気だとわかる。ということはだ――
そんな人物が寝ているらしきベッドによじ登ってその姿を確認したりなんてす――おわっ!?
な、なんだ……急に視界が真っ暗になったぞ?【暗視】がいきなり機能しなくなったわけもないし、一体何事なんだ!?
「むにゃ……ふあふあ……くふぅ……」
いや、わかってるよ?
全身に妙にふかふかした特有の感触を感じてるからね。
対象の人物が動物好きな女性であり、ベッドで寝息を立てている。そこにふかふかなプティスが近づいてきたらと考えれば、ボクがどんな運命を辿るかなんてわかりきったことだ。
結論を言おう――今、ボクは見ず知らずのエルフ女性の抱き枕にされている!!
……あ、この人、意外と力が強い。むぎゅう。
どうしよう、結構緊迫した状況のはずなのに全く緊張感が生まれません……そして話が進んでいません……
マティアス君が抱き枕になりました。【もふもふ】Lv23の抱き心地やいかに!
そして読者様はマティアス君とフィリトゥリさんのどちらに「ちょっとそこ変われ」と叫ぶのか!?(笑)
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