【第十一羽】
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【2016/01/04】1章最終ステータスを掲載しました。徹夜脳で忘れてたなんてことは……
『ここがあのフクロウの巣か』
倒れたフクロウの横を通り抜けた先、開けた空間の一角が巣になっているのが一目でわかった。……なんというか、凄い。
巣のいたるところに抜けた羽が散乱している。換羽がどうこうなんていうレベルじゃない……多分、栄養不足やストレスでごっそり抜けたんだと思う。
さらに少し奥に進むと血の染み着いた羽と土の臭いがする。もしかして、あいつは自虐してまで耐えていたのか……?
血の臭いが残る周囲より若干柔らかい土の中央。掻き集められて盛り上がった羽束の中にそれはあった。大きさはちょうどボクの半分くらいだろうか?そう、あのフクロウの卵だ。
周囲の凄惨な状況とは正反対に、汚れひとつ付いて無い大きな卵。感覚をその卵に向けると若干動いているのがわかる。そして――
パキッ ピシッ
『マスター。これは……』
『やっぱり、あいつは耐え切ってたんだ。卵が孵る今日この日まで』
コッ コツッ ピキッ
『では、あの親アウルは自分で食べるためにマスターを狙ったのではなく――』
『きっと産まれてくる子供に与えるための食料を狩ろうとしたんだろうね』
あんな、碌に力の入らない身体を酷使して。碌に残っていない理性を掻き集めて。
『子供の為に本当に命懸けだったんだ。そりゃあ、あんな鬼気迫る表情になるよ』
ピキキッビシッ パキッ
『すごい勢いで殻を割っていきますね――あっ、もう少しです。頑張ってっ』
ナビは平静を保ってるつもりだろうけど、後半から思念が駄々漏れである。もう夢中なのが丸わかりだ。
『あんな凄い母親の子なんだ。きっと凄いヤツになるさ』
完全に卵の様子にクギ付けなナビとそんなやりとりをしながら卵が孵るのを見守る。
そして、ついに――
「―――ちちっ。ぴちちちっぴぴっ」
『ああっ、生まれた!生まれましたよ!可愛いです。アウルの雛ですよマスター!』
『ああそうだね。っていうか、なんかもうまったく取り繕う気ないねナビ』
『……はっ!?』
可愛いものを見るとダメになるナビが可愛すぎてヤバイです。
『それはそうと……生まれたばかりの鳥の雛ってこんなだったっけ?』
『えぇと、マスターの知る雛は違うのですか?たしかに孵化した直後というのは平均より若干早いはずですが』
なんというか、すでにうっすら目が開き始めてるうえに、立ち上がろうとしてるんだけど。
ボクが知っている卵から孵ったばかりの雛はほとんど産毛も生えていないピンク色で、目が開くのも何日も掛かっていた気がする。
『……なるほど。この世界はマスターの居た世界より外敵が多いので、どの種もより無防備な時間を減らすよう進化してきたのでしょう』
『そういえば、ボクも自分がもふもふじゃなかった時の記憶とかないや。気がついたらすでに目も開けれたしふさふさだった』
この世界の動物は基本的に馬みたいに生まれてすぐ目を開けて立ち上がるのかな?
確かに多いよね、外敵。バカみたいに強いのばっかりだし。
ボクもオオカミを始めとして、何度死に掛けたことか――ってあれ?
『あー、気のせいかなナビ?なんか気が付いたら雛がボクに擦り寄ってきてる気がするんだけど』
『はい、大変羨ま……いえ、眼福な光け……こほん。フォレスト・キングアウルの雛には刷り込みの習性がありますから、恐らくマスターを親だと思っているのでしょう』
『…………あ』
しまった、鳥にはそういう習性を持った種がいるんだっけ?たしかインプリントがどうのとか。
鳥と接点のある生活なんて送ってこなかったからすっかり失念してたよ。
「ぴちちっぴぴっぴちちちっ」
「……きゅゆ、きゅー」
「ぴちちちっちちっ」
どうしよう、すっごいスリスリしてくるんだけど。と、とりあえず予定通りに母フクロウのところに連れて行くしかないか。
『はわああ……こ、この記憶は永久的に保存することにしましょう』
『それは能力の無駄遣いすぎる気がするよ、ナビ……』
なんだか一部想定外のこともあったけど、気を取り直して母フクロウのところに戻ってきた。
雛フクロウ――生まれて10数分程で、すっかり目も開いて歩けるようになっていた――はボクがどう運ぼうか考えて、とりあえずしゃがんでみたら普通に背中に乗ってきた。何故かすでにリラックスした状態で座ってるけど、気にしたら負けだ。
さあ、早いところ母フクロウにかけた魔法を解いて親子の対面をさせ――
「ぴちちちちっぴちちっちちっ」
パチッ
――え?ボクまだ魔法解いてないよ?目を開けるどころかゆっくり動いてるんだけど?
……あーそっか、そうだよね。この程度の魔法なんて、母の愛の前では無力なものってことか。
それでも起き上がるまでには至っていない母フクロウの前に雛フクロウを乗せたまま近づいた。
また襲い掛かられたらどうしようと思わなくはなかったけど。そうなったらそうなったで対処しよう。
そんな心配をよそに、母フクロウはさっきまでボクに向けていた狂気が嘘のように優しげな雰囲気を纏い、首を伸ばして雛を撫で始めた。
雛もなんとなく自分の母親だと理解しているのか、気持ちよさそうにじっとしてる。
そのあと背中で心温まる親子の団欒を感じながら空気に徹していたんだけど、しばらくした時ふいに母フクロウがボクのほうに顔を向けてきた。
小さなプティスと大きなアウルの視線が交わる。なんとなく目を逸らしちゃいけないと思った。
「クゥルルルル……」
こっちを真っ直ぐ見据えていた母フクロウはボクに向かって一声鳴いたあと、もう一度雛フクロウを撫でてから、そのままゆっくりと首を下ろした。
ボクは元人間だし今はプティスだから、フクロウの鳴き声の意味なんてわからない。でもなんとなく、何かを託すかのような意思を感じた気がする。
でも何を? ――あっ
母フクロウの瞳は、もう、光を宿していなかった。
光の宿っていないその瞳は、最期まで雛フクロウに向けられたままだった。
とっくに限界なんか超えてたんだろう。ついさっきまで子供と頬をすり寄せ合っていたはずなのに。母フクロウはその命をあっさりと手放していた。
「ぴちちっちちっ?ぴちちちっ」
静かな空間に雛フクロウの無垢な鳴き声だけが響く。
ああそうだ。あの母親が誰かに託してでも大切にしたいものなんて決まりきってるじゃないか。
本当は自分の手で成したかっただろうに。見ず知らずのプティスなんかに託して……まったく。まったく!
そんなことされたら偉大な母親の代わりにこの子を大切にしてやるしかないじゃないか!
ちゃんとあんたの意思は受け継ぐよ。だけどその代わり……あんたの魂もこの子と一緒に連れて行かせてもらうからなっ。
『それではマスター、いきますね』
ナビからフォレスト・キングアウルの情報を頭に流してもらい。その情報を元に極力無駄な傷をつけないよう丁寧に母フクロウから【魂核結晶】を取り出す。
遺体は彼女の巣の前に魔法で穴を掘って、その中に埋めた。彼女の遺体に別れを告げたあと、その【魂核結晶】を口に入れた。
ボクの都合のいい思い込みだったのかもしれないけど、能力と一緒に何か暖かいものも一緒に流れ込んできた気がした。
「ぴちちちっ」
しばらく母フクロウを埋めた場所でじっとしていた雛は、一声小さく鳴くとまたボクの背中によじ登ってきた。
生まれたばかりなのに、なんとなくで母との別れを惜しんでいたのかもしれない。うん、多分そうだ。そういうことにしておこう。
『よし、じゃあ行こうか』
『はいマスター。おそらく出口はそう遠くないでしょう』
ボク達も墓前に別れの挨拶をしてこの場をあとにした。
★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★
『うおおぉぉぉ!そぉとぉだあああ!!』
「ちちちっぴちちちちっ!」
巣から離れて1時間くらい進んだところで出口の光が差し込んできた。小さいプティスの身には結構きつい段差があったけど、今のボクには何の問題もなく登れた。
今ならボクが最初に落ちた裂け目から登ることだってできると思う。無駄に時間がかかるだけだから絶対やらないけど。
そんなことより10日振りの外の空気が非常に美味しい。魔族には申し訳ないけど太陽の光も気持ちいい。やっぱり自然はこうでなくっちゃね!
「ちぴぴぴっぴぴーぴぴぴっ」
おーおー、雛フクロウもはしゃいじゃって。やっぱり空が見えるほうがいいんだろうか?……あれ?フクロウって夜行性じゃ?昼行性の種もいたっけ?
『4000万年以上も一日の大半が日中の世界でございますから。完全な夜行性動物は数えるほどしか存在しません』
『なるほどそりゃそうか、太陽が出てるのが大半なんだから普通に考えればそれに適応するように進化していくよね』
つまり前世での夜行性の生き物が日の高い時間からうろついてる可能性もあるのか。吸血鬼とか。いや、流石にそれはないか。……ないよね?
『ここは【ブエナ森林】の入り口から少し離れた場所ですね。この森を抜けた先がマスターの故郷である【シトラ大平原】でございます』
『うへー。洞窟を抜ける時に森まで跨いじゃったのか……ああ、フォレスト・キングアウルのナワバリがこの森なのか』
とにもかくにも、洞窟の次は森を抜けなきゃならないらしい。出来れば早く抜けて家族を探したいんだけど。
まぁ、雛フクロウの食べるものが簡単に確保できそうなのはいいことだね。ついでに木の実とか見つけられたらボクも嬉しい。
ここ数日ずっとコウモリ肉、コウモリ肉、ワーム、コウモリ肉だったからね。こんな偏食生活じゃ毛並みに悪いったらないね。
『ボクとしてはもう森に入って進んじゃっても良いと思うんだけど、ナビはどうかな?』
『そうですね、夜とはいえ洞窟内よりは遥かに恵まれた環境ですからマスターなら問題なく行動できると思います』
『そっか、でも雛フクロウもいるからあんまり無茶な行軍はできないね』
フォレスト・キングアウルはこのあたりではかなり強い部類の生き物だけど、生まれたての雛にそれを求めるわけにはいかないもんね。
下手すると成体のプティスと良い勝負かもしれない。1月もすればあっという間にキングアウルがぶっちぎるんだろうけど。
それにしても……
『この子の体、真っ黒だったんだな』
『ここまで全身が真っ黒なアウルは珍しいですね』
洞窟内では視覚による色識別がなかったからわからなかったんだけど、雛フクロウの産毛は全身がカラスみたいに真っ黒だった。
少なくとも情報内のフォレスト・キングアウルの羽毛の色は全体的に黄土色でところどころ白やら黒の混じったまだら模様だ。
たしか全身の色素が薄い【アルビノ】の反対の特徴で、【メラニズム】とか言うんだったかな?
きっとこの子はその【メラニズム】のフォレスト・キングアウルなんだろう。夜の狩りとか無敵になりそうな闇色だ。
瞳は母親そっくりの鮮やかな金色で、その瞳は黒の体に良く映えている。なんというかカッコいいと可愛いが合わさって無敵に見える。
『そうだ。この子に名前をつけてあげないとね。そろそろナビにもちゃんとした名前を考えたいと思ってたし』
『わぁ、いいですね!マスターにどんな名前をいただけるのか楽しみでございます♪』
『あー、そこまでセンスがいいわけじゃないから期待しすぎないようにね。あ、そうだ』
『マスター、どうしました?』
ふと思いついたことをそのままナビに告げるとしよう。
せっかくナビと雛フクロウの名前を考えようって話題が出たんだから、このくらいいいよね。
『うん。ナビにボクの名前をつけてもらおうかなって』
『え……えぇ!?私が、マスターの御名前をでございますか!?』
『だって、自分で考えた名前を自分で名乗るってちょっと恥ずかしいじゃん。ナビなら変なことはしないって信頼してるし』
『わ、わかりました!精一杯考えさせていただきます!』
そ、そんなに気合入れなくてもいいと思うんだけど。ボクの名前なんだし。
なんだか無二の親友のあだ名を考えるくらいの難易度なのかもしれない。……あ、言っててちょっと悲しくなってきた。そんな経験がない自分に。
「ぴちちっぴちちちっ!」
そんなこと考えてたら雛が背中の上で鳴き出した。かまってってことかな?
ってアタタタッ!?こらっボクの後頭部をつっつくな!ハゲちゃう!
どうやらお腹が空いてきたようだ。たしかに孵化してから結構時間が経ってきてるしね。
しょうがないな。二人――1人と1羽――の名前は森を散策しながら考えよう。狩りでもしてる間にきっと良い名前のひとつやふたつくらい思いつくよね。
……思いつくといいなぁ。
【基本情報】
名前:なし 年齢:0歳(生後45日)
種族:プティス(ローシス・プティス種) 性別:オス
【基本能力値】
筋力: 8960(+3911)
耐久: 8926(+1885)
魔導: 8357(+456)
精神: 10559(+4948)
器用: 10108(+3092)
敏捷: 11997(+1685)
感覚: 14617(+3760)
幸運:532209(+500)
【特殊技能】
もふもふ:Lv17
かみつき:Lv13
ひっかき:Lv9
うさうさ拳法:Lv6
酸生成:Lv11
水鉄砲:Lv7
超音波:Lv12
千里眼:Lv1(New)
解体:Lv1(New)
【特殊能力】
美味しそう:Lv33(Lv2UP)
雑食:Lv6
魔導の理:Lv3(Lv1UP)
体温調節:Lv6(Lv1UP)
剛脚:Lv7(New)
暗視:Lv10(New)
強感覚:Lv11(New)
熱源感知:Lv9
音波感知:Lv12
気配察知:Lv11(Lv1UP)
抗菌:Lv12
酸耐性:Lv11
火炎耐性:Lv1
音波耐性:Lv12
魅惑耐性:Lv1
苦痛耐性:Lv1
自動再生:Lv1
魂核吸収:Lv5
神の英知:Lv‐Ex
適応進化:Lv‐Ex
これにて洞窟脱出編、完結になります!
次回から森林突破編が始まる予定ですが……洞窟編で魔法を覚えさせるつもりはなかったので少々予定が変わっておりまして、少しまとめる時間をいただきたいと思っております。
そして、急遽仲間になることになった(初期案ではガチバトルのあと普通に脱出する予定でした)雛フクロウちゃんのお名前募集中です!
活動報告に一枠作っておきますので、お気軽にお願いします★