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ボクがウサギで異世界転生  作者: 似星
1章:洞窟脱出編
10/30

【第八羽】

 土下座の続きです。

 土下座とは本来、下々の者が高貴な者の通行の際に、ひざまずいて額を低く地面にすりつけて礼をする行為が起源とされている。

 しかし昨今では、相手に申し訳ないという気持ちを表すために、地面や床にひざまずいて謝る行為を指すのがメジャーだ。平伏とも言う。


 ちなみにウサギ(プティス)が土下座をするその姿は、まさにウサギの服従のポーズそのままである。


 『え、え?あ、や、止めてください。頭を上げてくださいマスター!?』


 ただいま全身全霊の土下座を敢行中だ。正直こんなものでボクの謝意を表すには足りない。けど今ナビに対して出来るのはこのくらいしかない。


 『自分の軽率な行動でナビを危険な目にあわせてしまったんだ!いくら謝っても足りないくらいだ!』

 『その格好は正直ものすごく可愛いと思いま……じゃなくてですねっ、私に謝る必要はまったく無いのでやめてくださいっ!』


 きっと土下座(こんなこと)しなくても、ナビは無条件でボクを許してくれるだろう。でもそれじゃダメだ。

 この件をなぁなぁで許されてしまったら、きっとちゃらんぽらんなボクのことだからすぐに同じ過ちを繰り返すだろう。

 それこそ自分の間違いを「仕方ない」で自己完結したうえで平然と繰り返すような、学習能力の有無が疑われるタイプのラノベ主人公のように。


 『いいや、それじゃあボクの気が済まない!ナビが求めることならいくらでもする。なんでも言ってくれ!』

 『な、なんでもでございますか……?言ったら頭を上げてくださいますか?』

 『男に二言はない!本当にナビがして欲しいことなら必ず成し遂げてみせる!』


 薄暗い洞窟の中でエプロンドレスのスカートをふわりと広げ、女の子座りで悩みだすナビ。

 そんな彼女の前でひたすら土下座を続けるボク。第三者が見たらとてつもなくシュールな絵面だと思う。


 1分1秒が非常に長く感じる。それでも命の危機でもない限り頭を上げるわけにはいかない。


 『そうですね、それでは――』


 そんな長いようで短い沈黙を彼女の美しい声が破る。彼女がどんなお願いを言ってきたとしても叶える心の準備は出来て――


 『それでは……マスターを抱っこしてみたいです』

 『…………へ?』


 一瞬抱いた"そんな簡単なことで良いの?"という思いを抑え込む。

 そのお願いは言葉の響きほど簡単なことではないって気づいてしまったから。


 『マスターのふわふわな毛並みを堪能できたら、きっと私はなんでも許してしまいますよ?』


 ボクは思わず顔を上げてしまった。それほど冗談めかした風を装った彼女の声音が優しくも儚げで、どこか寂しそうな響きだったから。


 彼女は今日のやりとりで体を得た。しかしそれは実のない仮初のもので、あくまでボクの頭の中だけでの話だ。実際に肉体としてあるわけじゃない。

 だから、どれだけ望んでも彼女の手がボクに触れることはない。たとえその関係が一心同体と言っていいほど近くとも。いや、近いからこそ余計に届かない。


 『ふふっ、やっと顔を上げてくださいましたね♪』


 彼女自身はテコでも頭を上げないボクに対するちょっとした意趣返し(いじわる)のつもりのお願いだったのだろう。

 ここで『それはボクにとってご褒美みたいなものじゃないかー!』とか言って合わせてしまえば彼女の思惑通りの展開になるのだろう。


 でも、そのために使ったお願いは、間違いなくナビの本当の望みなんだと思う。出会って10日も経ってないクセにと思われても仕方ないけど、そう感じたのだ。


 多分、叶わぬ願い(それ)を抱かせてしまったのはボクだ。軽いノリで中途半端に体を与えてしまったボクなんだ。

 考えてもみろ。何も触れることができない体なんてボクには耐えられない。彼女に何かに触れてみたいという欲求が芽生えてしまってもなんの不思議もないんだ。


 『もう、冗談ですよ?ここはマスターが小気味よく【つっこみ】を入れるパターンではございませんか?』


 だからボクは彼女のその望みを叶えたい。冗談うそ現実ほんとうにしてやりたい。

 そのためには力がいる。それこそ無から人を作り出せてしまうくらいの、神様のような力が。


 当然ボクにそんな力はない。でも力を得るための能力なら持っている。

 それすらも与えられた借り物の力だけど、知ったことか。自分の力か否か(そこ)は重要じゃない。


 『いや、やるよ。そのお願い、絶対に叶えてみせるから』

 『え?あの……マスター?』


 ちょっと驚いたような戸惑ったような表情を浮かべるナビに背を向け、先ほどの戦いで床に転がった魂核結晶を次々に飲み込んでいく。

 飲み込むたびに力が溢れてくるような感覚が体を包む。でも足りない。この程度じゃ彼女のささやかな願いすら叶えてやれない。

 それでも【魂核吸収】のレベルがひとつ上がった。これでもっと速く力が得られる。


 『まったく、このくらいで遠慮なんてするもんじゃないよナビ』

 『そんな、あの、ですから、今のは冗談で……』

 『あんな可愛いわがまますら叶えてやれなくて何が君のマスターだって話さ。だからさ……任せておけ!』


 彼女に言い聞かせるように、自分に刻み込むように、胸を張ってそう宣言してやった。

 体がプティスだから傍から見たら滑稽だったかもしれないけど。


 『あぅ、その…………はい。お願い、します……』


 ナビはその言葉をしぼり出してうつむいてしまった。やっぱり、本当は叶えたいものだったようだ。

 その瞳の端から小さく光るものがこぼれたように見えたのは、相棒のよしみで気づかなかったことにしよう。


 ボクは何も見なかった。でも、さらにやる気が出ちゃったなー。何も見てないのに不思議だなー。


 さて、新たな目標ができたものの、現状で精神思念体(ナビ)を実体化させる方法なんて皆目検討もつかない。

 一応前世の知識でホムンクルスだとかアンドロイドだとかの概念があるのは知っている。

 その手のものだとクローン技術っていうのが一番しっくり来るのかな?実際どうやるかなんて知らないんだけどさ。


 だからとりあえず、方法は二の次でひたすら自分のステータスを上げていくのを最優先事項にしておくのがいいんじゃないかな。

 せっかく方法がわかっても力不足で実践できませんでしたーなんて、笑い話にもならないからね。


 というか、方法はナビに聞いてみれば案のひとつやふたつ出てくると思う。彼女は世界の知識そのものと言っても過言じゃないし。

 流石に今の空気じゃ恥ずかしくて聞けないから、洞窟を抜け出してからそれとなく話を振って聞いてみよう。聞かぬは一生の恥だもんね。


 まぁ、それはそれとして……

 ちらりと視線を上げると、その先には騒動の発端でもある【宝箱】が見える。

 もう罠なんて残っていないよね?うーん、少なくともそれっぽい感じはしないけど。

 いやいや、これでまた罠にかかったりしたら本物のバカだ。どんな小さな違和感でも見つけだしてやるつもりで調べるぞ!


 …………お、これがさっきバカ野郎(ボク)が掛かったトラップかな?

 うわぁ、えげつないくらい巧妙に隠してあったよ。ただでさえわかりづらいのに長い年月で積もった土埃で更に隠蔽されてる。

 すでに力を使い果たしたのか、もう発動しそうな感じじゃないかな。魔窟が生きてたら再発動するようになってたのかもね。


 『あ……ぐすっ、【罠探知】Lv1を覚えましたよ。マスター』


 ちょっと涙声になっててもちゃんと教えてくれるナビの頭をすごく撫でてあげたい。

 ああいや、ともかく【宝箱】だ。なんとなく今のボクに役立ちそうなものが出てきそうな予感がする。なんちゃって。


 壁の薄い層を崩してやるとそこから何かが転がり落ちてきた。落ちた拍子に金属特有の甲高い音を周囲に響かせる。

 形からして指輪かな?それなりに豪華な装飾が施され、真ん中に丸い気持ち不思議な光を湛えた宝石のようなものが嵌め込まれている。


 『これは……【妖精王の腕輪】でございますね』


 そういってナビが説明してくれる。指輪じゃなかったのか。


 『かつて妖精の女王が勇者に託した妖精族の秘宝――と、人族の文献には記されています』

 『なんか微妙に引っかかる言い方だね?』

 『はい、実際にはおよそ500万年前の勇者が迷い込んだ妖精の里から無断で持ち出したものでございますから』


 うわぁ、勇者なのに窃盗か……いや、他人のタンス漁ったりする由緒正しい勇者的には間違ってないのか……?


 『500万年前の指……腕輪にしては全然汚れてないね。むしろ新品って言われたほうが納得できそうだ』

 『劣化していないのは腕輪に施された自動的に修復される効果によるものでしょう。粉々にでもならない限りは元の状態に復元されます』

 『なるほどね。これって装備したらどういう効果があるの?』

 『魔導力を補助する効果があります。装着した者は魔力の流れを感知しやすくなり、より効果的に魔法を運用することが可能になります。

 魔素や魔力を一切感じることが出来なかった少年が、この腕輪を用いたことで大魔導師の称号を得るに至ったという物語も存在します』


 装備チートによる成り上がりストーリーみたいだな。

 ということはだ。その物語が事実なら、ボクもこの腕輪を装備すれば魔法が使えるようになるってことか?

 なら早速装備しないとな!装備は持ってるだけじゃ意味がないぞって伝統的で偉大なセリフもあるもんな! じゃあ装備……装備?


 『ねぇ……これ、どうやって着ければいいんだろ?』

 『マスターの指には大きすぎますし、腕には小さすぎますね』


 できないじゃん装備!プティス装備不可じゃん!?

 うわぁ、散々持ち上げておいて突き落としてくるとは……これもトラップの一部だったりして、精神的トラップ。はぁぁ……


 『マスターがぐてっとへたれてて可愛い……………………あの、マスター?』

 『……ん~?』


 ハッ、いかん、あまりの落ち込みのあまり生返事してしまった。……何か堪能するかのような間があったのは気のせいだよね?


 『っとごめんナビ。どうしたの?』


 『マスターでしたら装備をしなくても効果を得る方法がございますよ?』


 『え、マジで?どうやって?』


 『この腕輪を【魂核吸収】してしまいましょう』


 ……え?どゆこと?【魂核吸収】って【魂核結晶】を取り込むものじゃないの?


 『では、順を追って説明させていただきます。マスターの疑問の通り、魂以外の物を取り込んでも【魂核吸収】は機能しません』


 あ、疑問が強すぎて思考が漏れてたっぽい。


 『しかし、【エンチャント】を用いて作られた品はその限りではありません』


 『【エンチャント】……響き的には装備品に何か特殊な効果を付与する技術っぽいね?』


 『その通りでございます。【魂核吸収】の技能を持たない生物は【魂核結晶】を取り込んでも得られる能力は微々たるもので、さらに技能を取得することはできないというお話はしましたね?』


 そんな話もあったね。あれはナビに出会ったばかりの日だったかな。


 『5000万年前、ある魔人の研究者が【魂核結晶】をより効率的に扱う方法がないか模索していた際に生まれた副産物の技術が【エンチャント】でございます。

 その研究者は、武具に特殊な手法で結晶を付与することによって結晶に宿る力を引き出すことに成功しました。主に装備した際に基礎能力を上昇させるものと技能の効果を発揮するものの2種類が存在します』


 『へぇ、【魂核吸収】がないのを長年の研究で解決したのか。凄いなその魔人の研究者って人』


 『はい、最終的に本人が望む研究結果は得られなかったものの、この【エンチャント】という技術がマゼトハーレの歴史を大きく動かしたことは事実でございます』


 多分その研究の行き着く果てが【魂核吸収】だったんだろうな。ちょっと申し訳なくなってくるけど、目標の為に必要なものだ。割り切ろう。


 それにしても、そんな凄い装備が【宝箱】に入ってるってことは、これを装備した攻略者はここで死んだということだろう。

 もしかしたらだけど、さっきの魔法を使ってきたスケルトンが持ち主だったのかもしれない。違うかもしれないけどあいつも魔術師だったしね。


 『つまり、【エンチャント】の材料が【魂核結晶】だから【魂核吸収】でその能力を吸い出すことができるってこと?』


 『正解でございます♪』


 『じゃあ早速……じゃなくて、腕輪とか飲み込んで大丈夫かな?とても消化できるようなものとは思えないんだけど』


 もう迂闊なことはしない。しっかりナビに確認を取ってから行動だ。


 『今のマスターでしたら問題ありません。現在の【魂核吸収】のレベルでしたら、口に含むだけで吸収できるようになっております』


 『え?【魂核吸収】ってレベルアップで吸収効率が上がるだけじゃないんだ?』


 ほら、しっかり聞いたら予想以上の情報が返ってくるもんだ。


 ようするに、一定以上のレベルになると吸収に必要な行為が簡単になっていくらしい。

 最終的には指先で結晶に触れるだけで瞬時に吸収できるようになるとか。らくちんにも程があるね。


 『【エンチャント】で加工された【魂核結晶】で得られるのは効果として付与されたものだけになってしまいます。

 今回の【妖精の腕輪】ですと、付与された技能を取得することは可能ですが基礎能力の上昇はありません。得られる技能もいつもの吸収と同じように初期レベルからになります』


 そのくらいのデメリットはデメリットじゃないね。吸収で得た技能も鍛えれば普通にレベルアップするし。


 じゃあ早速いただくとしよう。ぱっくんちょっ。……おぉ、確かに【魂核結晶】を吸収する時の頭がジンジンする感覚。慣れたからか、もう痛みを感じる程じゃない。


 『……はい。問題なく【魔導の理】Lv1と【自動再生】Lv1を獲得できましたよ♪』


 『え?【魔導の理】だけじゃなくて?【自動再生】も結晶の技能だったの?』


 『天神との戦争時に絶滅したゲオルムルグという魔獣の魂核結晶が用いられていたようでございます』


 ほぇー。技能の一部とはいえ、今じゃ絶対に手に入らない【魂核結晶】なんだ。そりゃ妖精族の秘宝にもなるわ。……ぺっ(指輪を吐き出す音)


 というか、戦争時に絶滅した魔物を使った腕輪ってことは、この腕輪は4500万年以上昔に作られたものってことか。

 それを500万年前の勇者が妖精の里から盗みだして、さまざまな人の手に渡って今に至るわけだ。長い旅路だったんだろうね。


 そんな考えが通じたわけじゃないだろうけど、吐き出した腕輪は灰のように崩れて消えた。――【妖精王の腕輪】よ、安らかに眠れ。なんてね。

 主人公に強くなる目的ができました。


 ナビは知識は物凄いのですが、対人能力はそこまで高くありません。億年近いボッチでしたので。(苦しい言い訳)

 あとアニマルセラピー的なアレで主人公に対する隠し事もうまくないのです。(苦しい言い訳)


 ちょっと話の展開が急すぎる気もしますが、私にはこれが限界でした。

 違和感を感じる部分はお手数ですが、感想などで指摘していただくか、脳内変換でいい感じに仕上げてやってください。


 初期案では腕輪にドラゴンの魂核結晶が使われていて大幅ステータスアップ&進化みたいな流れになっていましたので、それよりは急展開度が抑えられている……かもしれません(笑)

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