silence‐静寂‐
明けましておめでとうございます。
これから少しずつ改訂版を更新していこうと思います。詳しい説明(弁明?)は後書きで。
2008年1月2日
月が煌々と輝く夜。
雲一つ無い夜空に浮かぶ幾つもの星達は月と共に瞬き、共鳴し、微かな光となってこの世界に降り注ぐ。その光は深淵のように暗い森を照らし、奈落より深い黒色の海を照らし、人々が寝静まる真夜中の街並を照らし出す。
永遠とも言えるほどの長い時の中で月や星はただ輝いているだけだった。何も求めず、何も感じず、世界の闇に光を指し続ける。それはおそらく昔から変わらない。だからきっと、今も光続けている。
それはまるで、漆黒色の絶望で溢れるこの世界に指し込むわずかな希望のようだ、と彼は思った。
「何考えてるの? ディレン。」
その光が照らす静かで薄暗い街の裏路地に大小二つの影があった。木造の壁に背を預けて空を見上げていた大きな影が声のする方を見ると、そこにはよく見慣れた小さな影がこちらを覗き込んでいた。
「どうしたの?具合でも悪いとか?」
スカイブルー色のパッチリとした大きな瞳に年相応の幼い顔立ち。少し大きめの黒いコートを着ており、袖からわずかに指が出ているその風貌はとても可愛らしい。一見すればまるで可憐な少女のようなその少年は、眉間に皺を寄せて不安そうな顔をしながら真っ直ぐ自分を見つめていた。
「…いや、大丈夫だ。」
ディレンと呼ばれた大きな影はそう呟くと、冷たいそよ風に揺れて右目にかかった黒い前髪をゆっくりと払った。整った凛々しい顔立ちに少し吊りあがった漆黒の瞳。その鋭い目付きは自然とクールな印象を与える。少年と同じ色の黒いコートを優雅に着こなしているその容姿は、誰もがかっこいいと思うだろう。彼は腰に飾りつけの無いシンプルな長剣を携えている。
「本当に?」
「ああ。気にするな。」
そう言いながらディレンは笑みを浮かべ、少年の頭にポンッと優しく手を置いた。
「ん…それなら良いけどさ。」
ディレンが少年の青い髪を撫でてやると少年の不安そうな顔は段々と綻び、ついには気持ち良さそうな笑顔になる。まるで猫みたいだな、と言うと怒るので、ディレンは心の中でだけ呟いておいた。
「それにしても、本当にここに来るの? なんかそんな気配全く無いんだけど。」
「間違いなく来る。例え来なくても、また一からやり直せば良いだけだ。」
ディレンはそう言うと少年から手を離し、着ている黒いローブのポケットに手を入れた。それを聞いた少年は、えー、と嫌そうな顔をする。
「一からやり直すのだけは嫌だなぁ。そうなったらディレン一人でやってよ。」
「そう言うな。『太陽の宝玉』が関係している可能性もある。」
「…あんなチンピラが持ってるとは思えないけど。」
少年はその可愛く幼い風貌とは裏腹に、目を細めて、チッ、と舌打ちした。
「…そんな顔をするな。」
「だってあいつら、僕のこと女と間違えたんだよ? 極刑という名の断罪を行使するべきだと思うね。あのロリコン共。」
まだ年端もいかない少年が言ったとは思えない言葉が次々と並べられ、ディレンは思わず目を丸くする。
「……ケイ、そんな言葉どこで覚えた。」
「ん? この前リアンがくれた本に書いてあったよ。あれ、使い方間違ってた?」
「いや、あってるが……。」
ディレンは、まるでなんとも思っていないケイになんとも言えず、引きつった笑みを浮かべた。
「だよね。意味はリアンとファニアに教えてもらったから完璧だよ。」
「……そうか。」
子供になんという言葉を教えるのだろうか。ディレンは小さくピースをしながら笑顔を浮かべるケイを見ながら、別行動しているであろう二人の女を後で説教することを心の中で誓うのだった。
とその時、じゃり、という足音が聞こえた。二人が咄嗟にバッと音のする方へ振り向く。が、視界には薄暗い空間が広がるだけで姿は見えない。よくよく耳をすませばそれだけではなかった。他にも複数の同じ足音とカチャカチャという音が、小さいが確かに聞こえ、そして近付いている。
「来たな。」
「良かった。これでこの依頼も終わりだね。」
「…いや、これからが本番なんだが。」
思考の噛み合わない二人の前に暗闇から現れたのは、体格の良い5人の男だった。その誰もが腰に剣を携え、その姿からは明らかに殺気を醸し出している。
「ディレン=ストラードだな。」
ピリピリとした緊張感の中、一番前に立つ白い髭を生やした男が低い声を放った。一方のディレンは何も答えず、男達を見据える。
「答えぬか……まぁいい。それで、何の用だ?」
「お前を捕まえに来たんだよ。」
ディレンの隣に立っているケイはそう言うと、ザッ、と前に出る。白髭の男はその姿を見て目を見開いた。
「お前は…あの時の小娘か。」
「僕は男だ! このクズ共! あの時はリアンに無理矢理カツラをさせられてだな……。」
「ケイ、話がこじれるから少し下がってろ。」
ディレンは未だ興奮気味のケイを後ろに下がらせ、男達の目の前に立った。一方の男達はケイが男だったという事実に驚いているのか、目を開いたまま唖然としている。
「…リール=カイラス。」
ディレンが唐突にそう呟くと、驚いていた男達の眉がピクッと吊り上がった。
「リリア国有数の製薬会社を経営し、更に国の医療魔法機関も統括する権力者。が、裏では非合法の薬を生産しそれを売る闇の商人。」
「…良く調べたものだ。」
白髭の男はそう言うと手を口にあて、くっくっく、と笑った。
「客にしては少しおかしいと思っていたのだよ。まさか騎士だとは思っていなかったがね。」
「残念だが、俺は騎士ではない。」
「ほう……ならば貴様らは何者だ?」
騎士ではないという発言に目を見開いた白髭の男が興味深そうに聞くが、ディレンはそれ以上何も言わなかった。その様子を見た白髭の男は感心したように二、三度頷く。
「なるほど、それも答えぬか。君は頭が良い。」
「そんなことどうでも良いからおとなしく捕まれよ、クズ。」
ディレンの後ろにいるケイが白髭の男を強く睨みつける。白髭の男は、ふっ、と見下すかのように嘲笑した。
「まぁそう慌てるな、小娘。」
「僕は男だ!」
「ケイ、頼むからちょっと黙っててくれ。」
ケイはまだ何か言いたそうにしていたが、ディレンに鋭い目で睨まれて、ぐっ、と口を閉ざした。
「一つ聞きたいことがある。」
ディレンは白髭の男に向き直ると、唐突に口を開いた。
「『太陽の宝玉』を知っているか?」
「…『太陽の宝玉』?」
白髭の男は一瞬不思議そうな顔をするが、何かを思い付いたように薄笑いを浮かべた。
「……その答えはこいつらに聞くと良い。」
白髭の男は後ろにいる四人の屈強そうな男達を指でさすと、突然ディレン達に背を向け一人歩き出した。
「どこへ行く。」
「帰るに決まっているだろう。客で無いのなら私の相手ではないからな。時間を無駄にしたくないのだよ。」
「待てよ。質問に答えろ。」
「その必要は無いな。何者かは知らんが、捕まえに来たという輩にわざわざ教える馬鹿もいまい。」
「じゃあ捕まえて意地でも吐かせる。」
ケイがそう言った瞬間、白髭の男は突然ピタッと立ち止まりこちらを振り返った。
「…面白い。やれるものならやってみよ。華奢な小娘が。」
白髭の男はそう言うと、口角を吊り上げいやらしい笑みを浮かべた。その言葉にケイは一瞬険しい顔をし、そして白髭の男と同様に笑みを浮かべる。そのこめかみにはくっきりと青筋が立っていた。
「……仏の顔も三度までだよね。後悔するなよ、くそジジイ。」
「おい、ケイ……。」
完全に切れたケイは懐から短剣を取り出し、ディレンの呼びかけにも答えずに一気に男達の中へと突っ込んで行った。男達は腰につけている剣を抜き、ケイに襲いかかる。完全に置いて行かれたディレンは一人頭を抱えた。
「……やれやれ。」
目の前には、うおおお、と大声を出してケイに剣を振りかざす四人の男と、その刃を器用に避けるケイの姿が繰り広げられている。この様子では寝ている近隣の住民がそのうち気付いてしまうだろう。そうなればせっかくこの真夜中という時間帯に呼び出した意味もなくなってしまう。もっと穏便に行きたかったディレンは、はぁ、とため息をつくと、シャッと腰の長剣を抜いた。
「……まぁいいか。」
ディレンはそう呟くと、修羅場と化すであろう小さな戦場に身を投じた。
その翌日。
情報管理機関により出された号外の一面には、こう書かれていた。
『リール=カイラス氏、薬の違法製造及び違法取引の容疑で逮捕される。』
こんにちは、作者のアレイシアです。
更新を停止してから約二か月くらいでしょうか。その間色々考えました。
スランプに陥ったり、忙しかったり、挙句の果てにはこの作品を投げそうにもなりました。
けれど、この『小説家になろう』に投稿された数々の作品を見ながら、やはりラストまで書きたいという思いが強く、また書き始めることにしました。
まだまだ若輩者ですが、それでも自分なりに精一杯頑張りたいと思います。目標は
「せめて読めるくらいの作品に。」これ以上は望みません!
ですのでこれからもよろしくお願い致します。
2008年 1月2日