御命頂戴!〜ポンコツ王妃は今日も元気に王の命を狙ってる〜
頭からっぽにして気軽にお楽しみください(*´∀`*)
とある国に、ちょっぴり変わり者の王妃がいた。
どう変わり者かと言うと……
「御命頂戴致します!」
① 声高らかに暗殺(?)宣言
②刃物とか毒とか、なんかやらかす
嫁いだ日から一年、これを繰り返しているのである。それも毎日。
今日は扇に仕込んだ極太の針だった。
ちゃんと刺されば暗殺できる長さもある。
シャキーーーン!
謎のポーズで扇に仕込んだ針を露出。
「とうっ!」
謎の気合いと共に国王に突っ込む。
「あいたっ!」
そして近衛兵の手刀を喰らい、ぽろりと扇を取り落とす。
落ちた扇はすかさず近衛がハンカチ越しに回収した。
針の先にはご丁寧に毒が塗ってある。殺意高めだ。
「はい、ダメ〜」
楽しそうに笑う国王が、のんびりとダメ出しする。
「くぅ〜、無念!」
手刀を受けた手首(痛くない)を悔しそうにさする王妃。
「今のは惜しかったね」
(どこが!?)
国王のコメントに近衛たちがツッコむ。脳内で。
「せっかく扇を使うのなら、舞を踊りながら標的に接近すれば良かったんだよ」
「な、なるほど!」
目から鱗の王妃である。
朝の謁見に向かう途中の通廊。いきなり踊り出す時点で色々おかしいのだが、誰も突っ込まない。
「いいかい? 例えばこうステップを踏んで、タン、タン、トトーン、くるりと回って、シャキーン、プスー!」
国王が見本の動きを見せると、王妃がそれを真似る。
この国の王がめっちゃダンス上手なのは世界の共通認識だ。単純に見えた短いステップだが、真似しようとすると、まだ修行中の王妃には難しかった。
「うう、足がもつれますわ」
「ほらちゃんと体幹を意識して、軸足だけの力で回ろうとせずドレスの遠心力を利用するんだ」
「ここでシャキーン(エア扇)」
「腕の角度はこう、手首のスナップをきかせるのがコツだよ(エア扇)」
もはや王が王妃を可愛がってるシーンでしかない。
通廊のど真ん中で。
近衛たちはこれに耐えてる。毎日。
王妃は何度もステップを繰り返して、王直伝の技を身につける。
「タン、タン、トトーン、くるりと回って、シャキーン、プスー!」
「ブラッボー! パーーッフェクト!!」
華麗なターンを決めて細い腕を突き出す王妃に、王が盛大な拍手を送る。
近衛たちも拍手した。お愛想で。
軽く息の上がった王妃。白い肌はしっとりと汗ばんで頬が紅潮し、健康みが増している。
「これで次こそ扇で仕留められますわね」
「ん〜ん」
王が首を横に振る。
「毒針はダーメ。うっかり自分の指にでも刺さったら危ないでしょ? 僕を仕留める前に君が星になっちゃうよ?」
「そっ、そこまで迂闊ではありませんわ……たぶん」
「ダメです。今後、毒針は禁止します」
「……どうしても?」
「どうしても」
「先っちょだけなら」
「ダメ、です」
可愛らしい上目遣いにも、王は揺るがない。
王妃はしょんぼりと項垂れた。
「はい、それじゃあペナルティとして私室で謹慎ね」
王が目配せすると、近衛の一部が粛々と王妃を取り囲み、ドナドナして行く。
「くぅ〜、覚えていらっしゃい!」
元気に捨て台詞を残して王妃は退場した。
本日の謁見も王妃不在である。
「ふふふ、可愛いねぇ」
ご満悦の笑みで王妃を見送った王は、居住まいを正して謁見室へと向かった。
***** * ***** *
王妃が最初に暗殺を仕掛けたのは、初夜のこと。
古臭い立会人制度はとっくに廃止されているため、寝室にはふたりきり。
清純路線の真っ白フリフリな寝衣でオシャレした王妃がいきなり
「御命頂戴致します!」
と宣言してナイフを振り翳したのである。
真っ青な顔で、ぶるぶる震えながら。
自身も手練れの王は、あっさりと王妃を取り押さえてナイフを没収。
近衛を呼ぶことなく彼女をソファに座らせ、手ずから茶を淹れテーブルに並べた。
「それで、どうしてこんな事したのかな?」
泣きべそをかいている王妃はわずか十歳。
長年続いた隣国との戦争に、終止符を打つための政略結婚だ。
「お父様が、暗殺しないとマリーを星にするって」
「マリーってお友達?」
「マリーはわたくしの専属侍女だったの」
「ふぅ〜ん、そっかぁ〜」
穏やかな微笑みを浮かべながら、王のはらわたは煮え繰り返っていた。
(は? 十歳の子どもに暗殺命令? 侍女を人質にして? 人の心がないのかな?)
煮えたぎる内面をおくびにも出さず、王はぽんと王妃の頭に片手を乗せた。
「それじゃあ、がんばって暗殺しないとね」
王妃はびっくりして目を見開く。涙に濡れた、綺麗な瞳だ。
「でも……」
「んふふ、僕はね、とぉっても強いんだ。だから、君が暗殺しようとしても星になったりしないよ。だからね、」
王はにっこり笑った。
「安心して仕掛けて来なさい。そしたら、マリーも無事だよ?」
王をじっと見上げる王妃の涙は、もう止まっている。
十歳。
大人の言葉を鵜呑みにするには、もう育ちすぎている。
細い指がおずおずと王の袖をつまんだ。わずかな希望にすがるかのように。
「本当に、星になったりしませんか?」
「しないよ」
「陛下も、マリーも?」
「うん」
すん、と王妃が洟をすすった。
「じゃあ頑張ります」
「よし、じゃあ、今夜はもう寝ようか。結婚式と披露宴で疲れたね」
その夜、ふたりは仲良く並んでぐっすりと眠った。
隣国の王が代替わりしたのは、輿入れから僅か二年後のことであった。




