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御命頂戴!〜ポンコツ王妃は今日も元気に王の命を狙ってる〜

掲載日:2026/07/21

頭からっぽにして気軽にお楽しみください(*´∀`*)






 とある国に、ちょっぴり変わり者の王妃がいた。


 どう変わり者かと言うと……


「御命頂戴致します!」


① 声高らかに暗殺(?)宣言

②刃物とか毒とか、なんかやらかす


 嫁いだ日から一年、これを繰り返しているのである。それも毎日。


 今日は扇に仕込んだ極太の針だった。


 ちゃんと刺されば暗殺できる長さもある。


 シャキーーーン!


 謎のポーズで扇に仕込んだ針を露出。


「とうっ!」


 謎の気合いと共に国王に突っ込む。


「あいたっ!」


 そして近衛兵の手刀を喰らい、ぽろりと扇を取り落とす。


 落ちた扇(きけんぶつ)はすかさず近衛がハンカチ越しに回収した。


 針の先にはご丁寧に毒が塗ってある。殺意高めだ。


「はい、ダメ〜」


 楽しそうに笑う国王が、のんびりとダメ出しする。


「くぅ〜、無念!」


 手刀を受けた手首(痛くない)を悔しそうにさする王妃。


「今のは惜しかったね」


(どこが!?)


 国王のコメントに近衛たちがツッコむ。脳内で。


「せっかく扇を使うのなら、舞を踊りながら標的に接近すれば良かったんだよ」

「な、なるほど!」


 目から鱗の王妃である。


 朝の謁見に向かう途中の通廊。いきなり踊り出す時点で色々おかしいのだが、誰も突っ込まない。


「いいかい? 例えばこうステップを踏んで、タン、タン、トトーン、くるりと回って、シャキーン、プスー!」


 国王が見本の動きを見せると、王妃がそれを真似る。


 この国の王がめっちゃダンス上手なのは世界の共通認識だ。単純に見えた短いステップだが、真似しようとすると、まだ修行中の王妃には難しかった。


「うう、足がもつれますわ」

「ほらちゃんと体幹を意識して、軸足だけの力で回ろうとせずドレスの遠心力を利用するんだ」

「ここでシャキーン(エア扇)」

「腕の角度はこう、手首のスナップをきかせるのがコツだよ(エア扇)」


 もはや王が王妃を可愛がってるシーンでしかない。


 通廊のど真ん中で。


 近衛たちはこれに耐えてる。毎日。


 王妃は何度もステップを繰り返して、王直伝の技を身につける。


「タン、タン、トトーン、くるりと回って、シャキーン、プスー!」

「ブラッボー! パーーッフェクト!!」


 華麗なターンを決めて細い腕を突き出す王妃に、王が盛大な拍手を送る。


 近衛たちも拍手した。お愛想で。


 軽く息の上がった王妃。白い肌はしっとりと汗ばんで頬が紅潮し、健康みが増している。


「これで次こそ扇で仕留められますわね」

「ん〜ん」


 王が首を横に振る。


「毒針はダーメ。うっかり自分の指にでも刺さったら危ないでしょ? 僕を仕留める前に君が星になっちゃうよ?」

「そっ、そこまで迂闊ではありませんわ……たぶん」

「ダメです。今後、毒針は禁止します」

「……どうしても?」

「どうしても」

「先っちょだけなら」

「ダメ、です」


 可愛らしい上目遣いにも、王は揺るがない。


 王妃はしょんぼりと項垂れた。


「はい、それじゃあペナルティとして私室で謹慎ね」


 王が目配せすると、近衛の一部が粛々と王妃を取り囲み、ドナドナして行く。


「くぅ〜、覚えていらっしゃい!」


 元気に捨て台詞を残して王妃は退場した。


 本日の謁見も王妃不在である。


「ふふふ、可愛いねぇ」


 ご満悦の笑みで王妃を見送った王は、居住まいを正して謁見室へと向かった。





***** * ***** *




 王妃が最初に暗殺を仕掛けたのは、初夜のこと。


 古臭い立会人制度はとっくに廃止されているため、寝室にはふたりきり。


 清純路線の真っ白フリフリな寝衣でオシャレした王妃がいきなり


「御命頂戴致します!」


 と宣言してナイフを振り翳したのである。


 真っ青な顔で、ぶるぶる震えながら。


 自身も手練れの王は、あっさりと王妃を取り押さえてナイフを没収。


 近衛を呼ぶことなく彼女をソファに座らせ、手ずから茶を淹れテーブルに並べた。


「それで、どうしてこんな事したのかな?」


 泣きべそをかいている王妃はわずか十歳。


 長年続いた隣国との戦争に、終止符を打つための政略結婚だ。


「お父様が、暗殺しないとマリーを星にするって」

「マリーってお友達?」

「マリーはわたくしの専属侍女だ(・)っ(・)た(・)の」

「ふぅ〜ん、そっかぁ〜」


 穏やかな微笑みを浮かべながら、王のはらわたは煮え繰り返っていた。


(は? 十歳の子どもに暗殺命令? 侍女を人質にして? 人の心がないのかな?)


 煮えたぎる内面をおくびにも出さず、王はぽんと王妃の頭に片手を乗せた。


「それじゃあ、がんばって暗殺しないとね」


 王妃はびっくりして目を見開く。涙に濡れた、綺麗な瞳だ。


「でも……」

「んふふ、僕はね、とぉっても強いんだ。だから、君が暗殺しようとしても星になったりしないよ。だからね、」


 王はにっこり笑った。


「安心して仕掛けて来なさい。そしたら、マリーも無事だよ?」


 王をじっと見上げる王妃の涙は、もう止まっている。


 十歳。


 大人の言葉を鵜呑みにするには、もう育ちすぎている。


 細い指がおずおずと王の袖をつまんだ。わずかな希望にすがるかのように。


「本当に、星になったりしませんか?」

「しないよ」

「陛下も、マリーも?」

「うん」


 すん、と王妃が洟をすすった。


「じゃあ頑張ります」

「よし、じゃあ、今夜はもう寝ようか。結婚式と披露宴で疲れたね」


 その夜、ふたりは仲良く並んでぐっすりと眠った。












 隣国の王が代替わりしたのは、輿入れから僅か二年後のことであった。





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