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神界から追放されし少女は叫ぶ。絶対目にもの見せてやるからな!!  作者: 万年亀
第一章 辺境の街モーリス

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鍛冶屋の看板娘と街を襲う影

 モーリスの街から東へ半日ほど歩いた山間部に、鬱蒼とした木々に囲まれた湿地帯が広がっている。

 分厚い苔と腐葉土に覆われた地面は常に水を多く含み、足を踏み入れるたびに泥が靴底に吸い付くような重苦しい感触を返してくる。

 立ち込める空気は水気と腐敗臭が入り混じり、息を吸うだけで肺が重くなるような陰鬱な場所だ。


 その沼地の浅瀬で、泥水に腕を突っ込みながら作業をしている一組の男女がいた。

 彼らはモーリスを拠点とする中堅の冒険者コンビである。


「ぷはっ……あんまり見つからねえもんだな……」


 男の冒険者が、泥だらけになった手を水面から引き抜きながら愚痴をこぼす。

 その手には小指の先ほどの大きさしかない、くすんだ青色の石が握られていた。

 わずかに魔力を帯びているそれは、低純度の水属性の魔石だ。


「仕方ないわよ。手探りで泥の中を漁ってるんだから。それにしても、ベイナード子爵からの依頼だっけ、この魔石探し」


 岸辺から網を使って泥を掬い上げている女の冒険者が、額の汗を手の甲で拭いながら応じる。


「正確には、子爵の息子のアルナック様だな。なんでも、あいつが身に着ける装飾品やら、街で遊び歩くための着飾る金が要るんだとさ。この沼地の底で採れる魔石は加工すれば質が良いらしくて、本格的な採掘事業に乗り出す前の事前調査だってよ」


 男は採れた小さな魔石を腰の革袋に放り込み、再び泥水の中へ両腕を沈める。

 水底のぬかるみに指を這わせる感触は、決して気持ちの良いものではない。


「ぬかるむし、臭いし、汚いし……。これでこの報酬額? もっと色をつけて貰いたいもんだわね、あのキザ男から」


 女冒険者が不満げに鼻を鳴らす。


 辺境の街において、領主一族の依頼は絶対に近い。

 だが、その内容が息子の遊興費稼ぎの事前調査となれば働く側としてもモチベーションが上がるはずもなかった。


「しゃあねえだろ。まさか貴族様が、こんな泥だらけの場所に直々に調査しに来るわけもいかねえしな。俺たちみたいな下っ端が泥水をすするのさ」


 男が諦め混じりに笑い声を上げた、まさにその時だ。


 ゴポッ。


 ふと、男の目の端で、沼の中央付近の水面が不自然に盛り上がった気がした。


「ん? なんだ?」


 泥から手を抜き、目を凝らす。

 沼から湧き出るガスによる気泡だろうか。

 それにしては、波紋の広がり方が大きすぎる。


「ちょっと、やめてよ。変な冗談言わないでよね」


 女冒険者が怪訝そうに男の視線を追う。

 だが、それは冗談でも見間違いでもなかった。


 ゴポポポポッ……!


 水面のうねりが局所的なものから、沼全体へと急速に広がっていく。

 そして、泥水がドーム状に大きく盛り上がったかと思うと、その中からぬらりとした光沢を放つ『何か』が、次々と姿を現し始めたのだ。



 ◆◆◆◆



 一方その頃、モーリスの街。

 鍛冶屋『スーパーアックスボンバー』のカウンターで、マリエルは頬杖をつきながら暇を持て余していた。


 昼時のピークが過ぎ、通りを行き交う人の数もまばらになっている。

 店主のバーバラは奥の鍜治場で何やら新しい鉄の仕込みをしているらしく、リズミカルな打撃音が遠く聞こえてくるのみだ。


(……このまま、この埃っぽい街に骨を埋めることになるのかな)


 マリエルは窓の外の青空をぼんやりと見上げながら、ふと郷愁に耽る。


 かつて神界にいた頃は、こんな風に何もしないで時間を持て余すことなど皆無だった。


 下界の天候を管理し、地脈の魔力バランスを調整し、時には世界そのものの綻びを繕う。

 神人として与えられた強大な魔力を惜しみなく振るい、休む間もなく世界のために奔走していた日々。


 それが今や、ただの武器屋の店番である。


 もちろん、あの場所での扱いは最悪だったし、理不尽に全てを奪われたことに対する憎悪は未だに彼女の腹の底で黒く渦巻いている。

 夜な夜な鍜治場で鉄に憤怒を叩きつけずにはいられないほどに、その怒りの色は濃い。


 だが、一度冷静になって現実を見つめ直せば、自分が神界へ復帰する手段などどこにも存在しないのだ。


 彼女の膨大な魔力の制御と、外部への放出を司る器官であった『天輪』と『光翼』。

 体内に魔力は満ちているが、それを外の世界へ向けて大規模かつ精密に行使することができない。


 このまま諦めて人間として慎ましく生きるしかないのだろうか。

 それとも、この命と引き換えにしてでも、残された僅かな力を全て復讐の呪いに捧げるべきか。


 叶わぬ願いと燻る怒りの狭間で、マリエルの思考が堂々巡りを始めた、その時。


「おい! 早く門を閉めろ!」


「怪我人をこっちへ運べ!」


 突如として、表の通りが騒々しくなり始めた。

 怒号が飛び交い、重い足音が慌ただしく石畳を駆け抜けていく。

 荷車が乱暴に方向転換する音や、人々の悲鳴に近い声が入り混じっている。


「ん? 何事?」


 マリエルは弾かれたように顔を上げ、カウンターから身を乗り出す。


 騒ぎを聞きつけたのか、鍜治場からバーバラも顔を出した。

 手には重いハンマーを握ったままだ。


「はて……? 冒険者や兵士の連中が、こぞって慌てて街外れの方へ向かってるみたいだけど。なんだい、魔獣の群れでも出たのかね」


 バーバラが眉をひそめ、店の外の様子を窺う。


 すると、ガタンッ! と大きな音を立てて店の入り口から一人の冒険者が転がり込んできた。

 いつもこの店で武器の手入れを頼んでいる顔馴染みの戦士だ。

 彼の顔は蒼白で息は大きく乱れ、肩で息をしながら血相を変えて叫んだ。


「二人とも! 武器なんか放り出して、すぐに街の反対方向へ逃げろ!」


「なんだい、いきなり。あんた、そんなに慌てふためいて」


 バーバラが冷静に問いただす。


「沼地だよ! アルナックの坊ちゃんの依頼で山間の沼地を調査してた連中が水底を刺激しちまったせいで……サラマンドロスの群れが、一斉にこっちに向かってきているんだ!」


 その言葉に、バーバラの顔色がサッと変わった。



 ◆◆◆◆



 街外れの防衛線。

 モーリスの街を囲む簡素な木柵の前に、急遽集められた冒険者や自警団の兵士たちが横一列に並び、武器を構えていた。


 だが、彼らの顔に浮かんでいるのは戦意よりも圧倒的な疲労と絶望だ。


「クソッ、次から次へと……! 全然減らねえぞ!」


 前衛で大剣を振るう冒険者が、悪態をつきながら迫り来る魔獣を両断する。


 彼らの眼前に広がるのは、うごめく赤褐色の絨毯。

 体長は中型犬ほどもあり、ぬらりとした粘液に覆われたサンショウウオのような姿をした魔獣――『サラマンドロス』の群れだ。


 一匹一匹はそれほど強大な魔獣ではない。

 鋭い爪もなければ、人間を噛み砕くほどの巨大な牙も持っていない。


 だが、この魔獣の恐ろしさは別のところにあった。


 一匹のサラマンドロスが喉を大きく膨らませ、黄色く濁った毒液を吐き出す。


「ゲコォォォッ!!」


「うわっ!」


 盾で防ぎきれなかった飛沫が、冒険者の革鎧に付着する。

 ジュウゥゥゥ、と嫌な音を立てて革が焼け焦げ、刺激臭が立ち上った。


「気をつけろ! 毒をまともに浴びるな!」


 毒自体は一撃で致命傷になるほど強力なものではないが、酸のように皮膚を焼き、吸い込めば呼吸器を侵す。

 それを無数の群れが一斉に吐きかけてくるのだ。

 何度も浴びれば確実に命を落とす。


 そして何より、彼らを絶望させている最大の要因。


「斬った端からくっつきやがる……! どうなってんだこいつら!」


 冒険者が放った剣撃がサラマンドロスの胴体を深く切り裂く。

 身体を斬り裂かれ、本来ならそこで絶命するはずのダメージ。


 だが、サラマンドロスの切断面からは赤黒い肉芽が瞬時に溢れ出し、まるで磁石のように引き合って、ものの数秒で傷口を完全に癒着させてしまうのだ。


 驚異的な再生能力。

 頭を潰すか、原型を留めないほどに細切れにするか、あるいは強力な炎の魔法で細胞ごと焼き尽くさない限り、奴らは何度でも立ち上がり、這い寄ってくる。


「魔法使い! 火力はまだ出ないのか!」


「無茶言うな! 連中、魔力に対してもそこそこの耐性を持ってる! 俺たちの魔力じゃ、焼き尽くす前にこっちが魔力切れだ!」


 後方で火球を放ち続けている魔術師が悲鳴のように応じる。


 倒しても倒しても再生し、毒を撒き散らしながら前進を続ける赤褐色の波。

 数が多すぎる。

 即興で作り上げた防壁の丸太も酸性の毒液を浴びて至る所から煙を上げ、今にも崩壊しそうに軋んでいる。


「くそ、このままでは街に侵入されるぞ!」


「どうすれば……誰か、高位の魔術師か騎士団でも呼んでくれ!」


 防衛線が限界を迎えようとしている。

 冒険者たちの間に敗北の二文字が色濃く浮かび上がっていた。


 その防衛線の後方、少し離れた安全圏からマリエルは惨状を静かに見つめていた。


(……ひどい有様)


 マリエルは自分の両手を胸の前で見つめる。


 神界にいた頃であれば、こんな下級魔獣の群れなど、光の雨を降らせて一瞬で浄化し、灰燼に帰すことができただろう。

 彼女の持つ魔力の絶対量は、今この場にいる全魔術師のそれを束ねても遥かに凌駕している。


 だが、今の彼女にはそれを放つための「出力器官」がない。


(魔力はあっても、制御と放出を司る『天輪』と『光翼』が無い今、一度に扱える精密な魔力は比較にならないほど少ない……)


 歯痒さが胸を焦がす。

 目の前で人間たちが苦しんでいる。

 かつての自分なら容易く救えた命が、今まさに失われようとしている。

 だが、自分にはどうすることもできないという無力感。


(ここにいても、邪魔になるだけか……)


 マリエルは唇を噛み、街の方へ避難するために背を向けようとした。


「マリエルちゃん!」


 その時、背後から大きな声が響いた。

 振り返ると、手押し車に何やら大量の木箱を積んで、猛烈な勢いで走ってくるバーバラの姿があった。


「バーバラさん? なんでこんなところに……逃げろって言われたんじゃ」


「逃げてる場合じゃないさ! マリエルちゃん、これ運ぶの手伝ってちょうだい!」


 バーバラは手押し車を乱暴に止めると、積まれた木箱の蓋を蹴り飛ばすようにして開けた。


「……え、これなんですか」


 マリエルは木箱の中を覗き込み、目を瞬かせた。


 そこに無造作に放り込まれていたのは、剣、短剣、槍の穂先といった、数え切れないほどの武器の束。

 だが、それらは通常の鉄の輝きを持っていなかった。


 刃はどれも光を吸い込むようにどす黒く濁り、そこからゆらゆらと、陽炎のように黒いモヤが立ち昇っている。

 近づくだけで肌が粟立ち、耳の奥で誰かの恨み言が聞こえてくるような錯覚を覚えるほどの強烈な負のオーラ。


 触れただけで、斬ったり刺したりした相手を確実に呪い殺せそうなほどの『呪詛』が、金属の分子レベルにまでみっちりと練り込まれているのだ。


「あんたが作った武器だよ!!」


「……えっ」


 マリエルの口から、間の抜けた声が漏れる。


「えっ、じゃないよ! あんたが毎晩毎晩、鍜治場で『許さない』だの『クズどもが』だの叫びながら、恨み辛みを叩き込んで作ってた裏在庫の山さ! 売り物にもならないから、地下の倉庫に厳重に封印してたんだよ!」


「あ……」


 マリエルは、ここで初めて自分が何を作り出していたのかを理解した。


 鍜治場でハンマーを振るっている間、彼女の意識は神界への憎悪に支配され、トランス状態に陥っていたのだ。

 全ての感情を鉄にぶつけることだけを考えており、出来上がった武器がどのような性質を帯びているかなど全く気に留めていなかったのである。


 そういえば自分が打ったはずの剣やナイフが、一度も店頭に並べられているのを見たことがない。

 不思議には思っていたが、ドワーフの厳しい基準では売り物にならない失敗作だったのだろうと勝手に納得していたのだ。


 まさか、すべてが特級の『呪いの武器』と化して封印されていたとは。


「ちょ、ちょっとバーバラさん! こんな禍々しいもの、どうするつもりですか!?」


「どうするもこうするもあるかい! 今あそこで戦ってる連中に使わせるんだよ!」


 バーバラは木箱から黒いオーラを放つ長剣を無造作に一本掴み出すと、マリエルの鼻先に突きつけた。


「あいつら、斬っても斬っても再生するんだろ!? だったら、再生すら追いつかないほど内側から腐らせる強烈な『毒』か『呪い』をぶち込めばいい! あんたのこの武器で攻撃すれば、多分……いや、確実に死ぬ!」


「は、はい!」


 マリエルはバーバラの気迫に押され、反射的に頷いた。


 断言されるのもなんだが、自分の生み出した呪詛が、まさかこんな形で役に立つ時が来るとは思ってもみなかった。

 しかし今は四の五の言っている場合ではない。


「おーい! あんたたち!」


 バーバラが防衛線で苦戦している冒険者たちに向かって大声を張り上げる。


「普通の武器じゃ埒が明かないだろう! こいつを使いな! 切れ味は保証しないが、効果は絶大だよ!」


 バーバラとマリエルは手押し車から呪いの武器を掴み出し、前線で戦う冒険者たちに向かって次々と慎重に手渡しする。


「な、なんだこの不気味な剣は……! 持ってるだけで腕が冷たくなるぞ!」


「文句言ってないで使え! 噛みつかれるよりマシだろ!」


 冒険者たちは戸惑いながらも手持ちの刃こぼれした武器を捨て、バーバラたちが配った呪いの武器を握り直した。


「ゲコォォォッ!!」


「う、うおおおおお!」


 目前に迫るサラマンドロスが、毒液を吐き出そうと口を開ける。

 それに対し、呪いの長剣を手にした冒険者が、半ばヤケクソ気味に刃を振り下ろした。


 刃がサラマンドロスの肩口を浅く切り裂く。

 傷は決して深くはない。これまでの彼らの常識であれば、数秒で肉が盛り上がり、元通りに再生してしまう程度の浅手だ。


 だが、次の瞬間。


「ピギィィィィィィィィィィィッッ!!!!」


 サラマンドロスが聞いたこともないような甲高い断末魔の悲鳴を上げた。


 冒険者が切り裂いた傷口から、どす黒いモヤが生き物のように侵入し、傷の周囲の肉を急速に黒く変色させていく。

 再生を促すはずの細胞が呪詛の魔力によって瞬時に壊死し、ドロドロに溶け落ちていくのだ。


「な、なんだこれ……!?」


 斬った冒険者自身が、その凄惨な光景に驚愕して後ずさる。


 サラマンドロスは苦痛に身体を激しくよじり、地面をのたうち回る。

 その傷口からは絶え間なく黒い煙が立ち上り、やがて全身の皮膚がひび割れ、内側から崩壊するようにして完全に動かなくなった。


 再生能力など全く機能していない。

 かすり傷一つが死をもたらす猛毒となっているのだ。


「おい、見たか!? 浅く斬っただけなのに、死にやがったぞ!」


「こっちの槍もだ! ちょっと突いただけで、魔獣が泡を吹いて溶けちまった!」


「なんだこの武器……どんな怨念を込めたらこんなおぞましいモンが出来上がるんだよ!?」


 冒険者たちは手にした武器の異常な威力にドン引きしながらも、同時に爆発的な歓声を上げた。


「凄い! これなら、群れごと駆逐できるぞ!」


「なんて凄まじい呪詛なんだ! まるで地獄の底から引きずり出してきた死神の武器だぜ!」


「信じられん! これほどの呪いを武器に意図的に込めるとは! あのドワーフおばさん、ただの鍛冶屋じゃねえ!」


 防衛線は一気に息を吹き返した。


 冒険者たちは呪いの武器を振るい、次々とサラマンドロスの群れを死の淵へと叩き落としていく。

 先ほどまでの絶望的な消耗戦が嘘のように赤褐色の波は黒い呪詛に侵され、泥のように溶けて消えていく。


「やれやれー! 一匹残らず呪い殺してやれー!」


「この剣、最高だぜ! ちょっと持つだけで悪夢を見そうだけどな!」


 戦場には魔獣の断末魔と冒険者たちの狂喜乱舞する声が響き渡る。

 街の危機は今、去ろうとしていた。


 だが、その狂騒の只中でマリエルは一人、顔から火が出るほど赤面していた。


(う、うわぁぁぁぁ……)


 冒険者たちの称賛という名の、ドン引き混じりの畏怖が彼女の耳に痛い。


『どんな怨念を込めたら』


『おぞましい』


『地獄の底から引きずり出してきた死神』


 彼らが口にする言葉の一つ一つが、マリエルの過去の所業を正確に言い当てており、彼女の羞恥心をこれでもかと刺激してくるのだ。


 自分が毎晩、顔を悪魔のように歪ませながら「許さない」「クズどもめ」と叫び、ドス黒いオーラを垂れ流して作り上げた呪詛の結晶。

 それが今、衆人環視の中で堂々と大活躍し絶賛されている。


 自分の心の最も暗く、醜い部分を形にして世界中に見せびらかしているようなものだ。

 神界の連中への復讐心は消えていない。

 だが、それとこれとは話が別である。

 恥ずかしいものは恥ずかしい。


「マリエルちゃん! やっるぅー! あんたの呪詛、特級品だよ!」


 バーバラが満面の笑みでマリエルの背中をバンバンと叩く。

 悪気はないのだろうが、その褒め言葉は今のマリエルにとっては拷問に等しい。


「……あ、あははは……良かったですぅ……」


 マリエルは引きつった愛想笑いを浮かべながら、両手で熱くなった頬を押さえた。


 街を救った英雄的な行い。

 しかし、その手段はあまりにもアレだった。


(……うん。いくらムカつくからって、鉄に呪いを込めるのは、ちょっと自重しよう……)


 周囲で魔獣が呪い殺されていく阿鼻叫喚の地獄絵図を眺めながら、元神人の少女は人知れず恥ずかしげにそう固く決心したのだった――。

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