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神界から追放されし少女は叫ぶ。絶対目にもの見せてやるからな!!  作者: 万年亀
第五章 学園祭

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水精姫と鍛冶屋

 土埃の舞う大通りには、荷馬車を引き連れた商人や、革鎧に身を包んだ荒くれ者の冒険者たちがひしめき合い、威勢の良い怒号と笑い声が絶え間なく飛び交っている。


 洗練された王都の魔法学園とは対極にある、泥臭くも生命力に満ちた喧騒。


 その大通りを少し外れた裏路地寄りの一角でマリエルの案内に従い、三人は一つの店舗の前に立ち止まった。


 軒先には無数の剣や槍が木樽に無造作に突き刺され、煤と油の匂いが周囲の空気に重く立ち込めている。

 そして、その入り口の頭上には分厚い黒鉄の板に荒々しく削り取られたような字体で店の名前が彫り込まれた無骨な看板が掲げられていた。


 店の名は『スーパーアックスボンバー』。


 初めてこの店を訪れる者は、その看板を見ると決まって「スーパーは余計じゃない?」と心の中で、あるいは直接口に出してツッコミを入れる。


 そんなモーリスの街の名物店だ。


 看板を見上げたルカが端正な顔に少しだけ困惑の色を浮かべて呟く。


「……スーパーは余計じゃないか?」


「あ、私もそれ今思った」


 隣で看板の文字を追っていたセリアも、すかさず同意の声を上げる。


「やっぱり言った」


 予想通りの二人の反応にマリエルは口元を手で覆い、くすくすと楽しげに笑い声を漏らす。

 自分も初めてこの鍛冶屋の前に連れてこられた時、こっそり心の中で思ったものだ。


「さ、中に入ろう。外より鉄の匂いが少し強いかもしれないけど、慣れればどうってことないから」


 マリエルが先頭に立ち、重い木製の扉を開けて店の中へと足を踏み入れた。


 薄暗い店内は相変わらずの様子で、壁一面に様々な大きさの武器が鈍い金属光沢を放ちながら所狭しと並べられている。


 奥からはカンッ、カンッ、とリズミカルで重々しい鍛冶の音が響いていた。

 どうやら店主のバーバラは炉の炎と向き合い、絶賛鍛冶作業中のようだ。


「へー、ここでマリエルが店番をしてたんだねえ」


 セリアが物珍しそうに店内を見回し、少しだけ煤けたカウンターの木目を指先でなぞる。


「そうそう。私がここで働いてた時は今思えば男の冒険者さんの客が異様に多かったかな。用もないのに武器の手入れの相談とか言って、ずっと居座ってたり」


 マリエルが当時の光景を思い返しながら語る。

 当時は営業用の愛想笑いを浮かべて接客していたものだ。


「……それはそうだろうな。男の冒険者が多く立ち寄る店にマリエル嬢のような可憐な少女が店番として立っていれば、街中の男たちが群がってくるのも無理はない」


 ルカが周囲の武器の陳列棚を眺めながら不機嫌そうな、しかし納得したような声でマリエルに聞こえないように呟く。


 彼の脳内で、見知らぬ冒険者の男たちがマリエルにだらしなく鼻の下を伸ばしている光景が再生され、少しだけ苛立ちを覚えているようだ。


「おーい、バーバラさーん! お客さんですよー!」


 マリエルが奥の鍜治場に向かって、明るい声を張り上げた。


 すると、カンッというハンマーの音がピタリと止み、奥からドスドスという重い足音が近づいてくる。


「なんだい、忙しい時に人を呼びつけて……お?」


 煤で黒く汚れた分厚い革エプロンを身に着け、首に手ぬぐいを巻いた恰幅のいい女性が、奥から顔を出した。


 この店の主であり、凄腕の鍛冶師であるドワーフの女性バーバラだ。

 彼女は鋭い眼光で来訪者を睨みつけたが、先頭に立つ小柄な少女の姿を認めた瞬間、その顔がパッと華やいだ。


「バーバラさん、お久しぶりです!」


 マリエルが満面の笑顔を咲かせて、ペコリと深く頭を下げる。


「なんだ、マリエルちゃんじゃないか! 久しぶりだねえ! 突然帰ってくるなんてどうしたんだい! 元気にしていたかい!」


 バーバラは嬉しそうに大股で駆け寄り、煤けた手でマリエルの肩をポンポンと力強く叩く。


「はい! バーバラさんもお元気そうで何よりです!」


「あたしは相変わらず毎日鉄と向き合って汗を流してるよ」


 バーバラは豪快に笑い、それからマリエルの顔をまじまじと覗き込んだ。


「王都の学園は休みかい? ……それにしてもあんた、なんだか雰囲気がずいぶんと明るくなったじゃないのさ! うちを出て行った時よりもずっといい顔してるねえ」


「へへへ、そうですかね」


 マリエルは照れくさそうに頭を掻く。


 バーバラの指摘は正確だった。


 学園での少し騒がしい生活に加え、先日セリアとルカに自分の正体や目的という重い秘密を全て打ち明けたことで、彼女の心にのしかかっていた重圧がすっと軽くなっていたのだ。

 神界での孤立した記憶から解放され、等身大の少女としての柔らかな雰囲気が出ている。


「こっちは学園のお友達かい?」


 バーバラの視線が、マリエルの後ろに立つ二人に向けられる。


「初めまして! マリエルの親友のセリアです! いつもマリエルにお世話になってます!」


 セリアが一歩前に出て元気いっぱいに頭を下げた。


「おーおー、こりゃまた威勢が良くて、とびきり可愛い子だねえ! マリエルちゃんにこんな明るい親友ができて、あたしは本当に嬉しいよ! よろしくね、セリアちゃん」


 バーバラも目を細めてセリアの朗らかな挨拶に応える。

 そして、その視線は次にセリアの隣に立つ静かな少年に向けられた。


「で、こっちの綺麗な顔をした男の子は……」


 銀糸の刺繍が施された特注の制服。

 ただの平民にはない上位貴族特有の洗練された佇まいと、静かな威圧感を放つ少年。


「ああ、俺はマリエル嬢の……」


 ルカが居住まいを正し、丁寧に名乗ろうとした、その時。

 セリアが横からスッと口を挟み、満面の笑みでとんでもない紹介をぶち込んだ。


「こちら、マリエルの恋人のルカ君です」


「なっ……!?」


「っ……!?」


 マリエルとルカの息が同時に詰まる。


「マリエルちゃんに恋人! おお、やっぱりそうかい! あんたならすぐに王都のいい男を捕まえると思ってたよ!」


 バーバラが我が意を得たりとばかりに手を叩き、大声で笑う。


「ちょ、違います違います! 違いますから! なに勝手なこと言ってるのセリア!?」


 マリエルは顔を一瞬にして真っ赤に染め上げ、慌てふためいて両手を激しく振り回す。


 あの大教会の地下実験場でのルカの失言によって、ルカの気持ちをマリエルは知っている。

 だが、だからといって二人が付き合っているという明確な合意や、恋人としての甘い関係性が成立しているわけでは断じてないのだ。


 現在お返事は保留中である。

 まあこの様子では脈無しではないというか、くっつくのは時間の問題だろうが。


「んんー? 何か間違ったこと言ったかな? お似合いの二人だと思うけどなー」


 セリアはどこ吹く風で、ニヤニヤと悪戯っぽい笑みを浮かべながらマリエルをからかう。

 彼女はこの二人の不器用な距離感を楽しむのが、最近のマイブームになっているようだ。


「その、まだ恋人ではないというか……俺の片想いの段階でして、これから徐々に距離を縮めていければと……」


 ルカが耳まで真っ赤にしながら、しかし否定はせずに真面目なトーンで現在の状態を正直に申告する。


 その言葉にマリエルの顔からさらに火が噴き出そうになる。

 なぜそこで変に誠実な訂正を入れるのか。


「なるほどなるほど! まだ恋人の一歩手前ってわけだね! よしよし、若いってのはいいもんだ! 男の子、頑張りな!」


 バーバラはさらに機嫌を良くして、ルカの背中を力強くバンバンと叩く。


「マリエルちゃんは少し鈍いところがあるからね! グイグイいかないと気付いてもらえないよ!」


「あ、ありがとうございます。善処します」


「ルカ君!? なんでそこでアドバイス受け入れちゃってるの!?」


 マリエルが羞恥のあまり頭を抱え、床に崩れ落ちそうになる。


 辺境の店でただ感情を押し殺して働き、夜な夜な呪いの武器を打っていた頃の虚ろな彼女とは別人のように、コロコロと表情を変えて慌てふためく少女の姿。


「あはははは! いいねえ、最高だよあんたたち!」


 その賑やかで温かなやり取りに、バーバラは鍛冶屋の天井を揺らすような、豪快で楽しそうな笑い声を上げるのだった――。

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