表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神界から追放されし少女は叫ぶ。絶対目にもの見せてやるからな!!  作者: 万年亀
第三章 五天星

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

15/59

水精姫と顔合わせ

 放課後の日差しが、学園の建物を赤く染め始めている。


 マリエルは指定されたメモを片手に、普段は足を踏み入れることのない貴族棟の廊下を歩いていた。


 平民棟とは比べ物にならないほど豪華な内装だ。

 床には毛足の長い絨毯が敷き詰められ、壁には美しい絵画が飾られている。

 窓から見える中庭の噴水も平民棟のものより一回り大きく、水しぶきが夕日に輝いて美しい。


 そんな豪華な廊下を、平民の制服を着た少女が一人で歩いているのだ。

 すれ違う貴族生徒たちの視線が集まるのも無理はない。


「おい、あんな子いたっけ?」


「あまり見かけない子だな。どこの家柄だ?」


 ひそひそと交わされる声が、マリエルの耳に届く。

 彼女は気にせず歩き続けるが、やがて誰かがその正体に気づいた。


「あの腕章……五天星の証だぞ」


「ってことは、あの子が噂の『水精姫』じゃないか?」


「え、あの子が? あのローランドを一撃で倒したっていう……?」


 驚きと好奇、そして微かな畏怖の混じった視線。


(騒がしいな……)


 マリエルは内心でため息をつきつつも、歩みを速める。

 面倒な注目を浴びるのはごめんだ。

 早くサロンに入ってしまおう。


 サロンが近づくにつれて廊下を行き交う生徒の姿は少なくなっていった。

 五天星という特権階級の集う場所。

 並の生徒は近寄ることすら憚られる、一種の聖域のようだ。


 そして目的の第一サロンの前。

 重厚な木製の両開き扉の横には、黒服を着た初老の執事が静かに立っていた。

 学園の職員ではなく、おそらくは五天星の誰かの個人的な使用人だろう。


 執事はマリエルの姿を認めると深く一礼した。


「『水精姫』マリエル様でお間違えございませんか?」


「あ、はい。そうです」


 マリエルは少し戸惑いながら答える。


(サロンの前に執事が待機してるなんて……貴族棟の特別扱いは凄いな)


「それでは、こちらへどうぞ。皆様、すでに揃ってお待ちでございます」


 執事が扉の取っ手に手をかけ、静かに、しかし重々しい音を立てて扉を開いた。

 中から、ふわりと上品な紅茶と香水の香りが漂ってくる。


 扉の向こうに広がっていたのは、まさに「華やか」という言葉がふさわしい空間だった。


 足を踏み入れると、そこはラウンジのような広々とした部屋。

 豪華なシャンデリアが天井から吊り下げられ、壁一面の大きな窓からは夕焼けに染まる王都の街並みが一望できる。


 部屋の中央には意匠を凝らした巨大な円卓が置かれ、その周囲に数人の男女が腰掛けていた。


「やあ、初めまして。席に座ってくれ、『水精姫』」


 円卓の最奥、上座にあたる位置から爽やかな声がかけられた。


 声の主は金糸のような明るいブロンドの髪と、深い青の瞳を持つ青年。

 その立ち振る舞いからは、隠しきれない高貴さとカリスマ性が滲み出ている。


 彼こそが、学園の三年生にして五天星の序列第一位。


『光の御子』の二つ名を持つ、この国を治めるロンヴェル王国の第三王子、クリストフ・フォン・ロンヴェルである。


 クリストフは、まるで旧知の友人を迎えるような温かくも威厳のある笑みをマリエルに向けていた。


「へえ、彼女が。結構可愛い子じゃないか。花が増えて実にいい」


 クリストフの隣、序列第二位の席に座る少年が興味深そうに身を乗り出してくる。

 彼は赤茶色の髪を少し長めに伸ばし、制服の第一ボタンを開けた少し着崩したスタイルだ。

 その飄々とした態度は貴族というよりは街の遊び人のような気安さを感じさせる。


 彼が二年生にして序列第二位『大地の申し子』アラン・フォーロッド。

 強力な土魔法の使い手であり、その実力は凄まじいという。


 そして残る二人は顔見知りだった。


「……来たか」


 一年生にして序列第三位の天才と呼ばれる『闇の貴公子』ルカ・レグナス。


 彼はいつものように銀糸の刺繍の制服を隙なく着こなし、腕を組んで静かにマリエルを見つめている。


「ここしばらく、挑戦者の相手で激務だったようね。お疲れ様」


 最後にアランと同じく二年生の序列第四位『旋風姫』リーズリット・トレイル。


 彼女は優雅に紅茶のカップを傾けながら、労いの言葉をかける。

 先日マリエルに五天星の腕章を押し付けに……いや、届けに来た時と変わらぬ、洗練された令嬢の佇まいだ。


「どうも、よろしくお願いします。マリエルです」


 マリエルは軽く会釈をし、案内された空席――リーズリットとルカの間の席へと腰を下ろした。


 席に着くや否や正面に座るアランが、机に身を乗り出すようにして語りかけてきた。


「いやあ、いいね! あの粗暴なローランドを倒したっていうから、どんなゴツい子が来るのかと思ってたけど、見た目も結構華やかで!」


 アランはマリエルをまじまじと見つめ、口笛を吹くような仕草をする。


「マリエルちゃん、だっけ。結構僕の好みだなあ。好きなタイプとかある? 僕とかどう? 結構女の子を大事にするタイプなんだけど。よければこの後、二人で出かけ――」


 軽薄なナンパ文句が続く。

 マリエルがどう反応したものかと内心で思案する。


 その時、隣に座るルカが冷ややかな声でアランの言葉を遮った。


「彼女はこの後、俺と先約がある。遠慮してもらおう」


「へえ!」


 アランは驚いたように目を丸くし、それから面白そうにニヤリと笑った。


「あの朴念仁のルカが、もう粉掛けてるんだ! そりゃあ驚きだ。残念だなあ、人の女性を取る趣味は無いし、ここは大人しく諦めるしかないかなあ」


 アランは大げさに両手を上げて降参のポーズをとる。

 だがルカは眉をひそめ、不快そうに反論した。


「勘違いするな。俺とマリエル嬢はそういうのじゃない。少し用件があるだけだ」


「そうなのかい? じゃあ僕もアプローチやめないぜ? 取られた後で文句言うなよ?」


 アランが挑発的に笑うと、ルカは冷たく視線を逸らした。


「……好きにすればいいだろ」


(なんだ、この不毛なやり取りは……)


 マリエルは心底呆れ果て隣のリーズリットの方をちらりと見た。

 助け舟を出してくれるか、あるいは共に呆れてくれるかと思ったのだが。


「……修羅場? 修羅場ね?」


 リーズリットはカップを両手で包み込むように持ち、目をキラキラと輝かせていた。


「いいわあ、初めて見るわあ……。一人の婦女子を取り合う殿方とか、物語みたいで素敵!」


 彼女は小声で熱っぽく呟きながら、ルカとアランのやり取りを食い入るように見つめている。


 どうやら、彼女は生粋のロマンス小説愛好家らしい。

 現実の恋愛劇――に近いが異なる状況を目の当たりにして、テンションが最高潮に達しているようだ。


(……この人たち、大丈夫か?)


 マリエルはいよいよもって呆れ、頭を抱えたくなった。


 この学園の頂点に立つ『五天星』。

 彼らは魔法の実力こそ図抜けているのだろうが、その人格や人間性は控えめに言ってもかなり個性的すぎるようだ。

 少なくとも、真面目な議論ができる空気ではない。


「……まあ、なんだ」


 そんな状況を見かねて、上座のクリストフが苦笑しながら口を開く。


「色々と騒がしい連中だが根は悪い奴らじゃない。皆と仲良くしてくれると嬉しいよ」


「……善処します」


 学園のトップに君臨する生徒たち。

 彼らはマリエルが想像していたような堅物や権力志向の塊ではなく、良くも悪くも我が道をいく強烈な個性を持った面々であった。


 マリエルはこの先、彼らとどう付き合っていくべきか、早くも前途多難な学園生活を予感して密かに頭を悩ませるのであった――。

ちなみに五天星は生徒会とは違うので学園の運営には関わりません。

作中でも触れてますが魔法実技面の特待生とかそういうのです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ