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神界から追放されし少女は叫ぶ。絶対目にもの見せてやるからな!!  作者: 万年亀
第二章 魔法学園

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編入生と五天星

 王都の魔法学園が誇る巨大な野外演習場。

 そこは今、むき出しの土が焦げ、魔法の残滓が火花のように散る荒涼とした戦場と化していた。


「ぐわぁっ……!」


 悲鳴と共に平民クラスの男子生徒が土煙を上げて地面を転がる。

 彼が放った風の刃は、貴族の生徒が展開した魔力障壁に傷一つ付けることなく弾き返され、逆に放たれた炎の塊によって為す術もなく吹き飛ばされたのだ。


「勝者、ガウェイン!」


 教師の無情な宣告が響き、治癒術師たちが慌ただしく怪我人の元へと駆け寄っていく。


 これで、すでに十試合目。

 その全てにおいて平民クラスの生徒は敗北を喫していた。


 それも接戦などではない。

 圧倒的かつ一方的な蹂躙である。


 マリエルは防護結界の外側にて、冷めた視線でその光景を見つめていた。


(……力の差がありすぎる)


 対人戦闘において、貴族側の生徒が勝利するのはある意味で当然の帰結だ。

 彼らは魔法学園の門をくぐるずっと前から屋敷に招かれた一流の家庭教師によって魔法の基礎理論を叩き込まれ、魔力の操作訓練を積んできている。

 中には、幼少期から魔獣との実戦経験を積まされている者さえいるのだ。


 対して平民側の生徒たちはどうだろうか。

 彼らの多くは、ある日突然強い魔力があると発覚し、国から半ば強制的にこの学園へと送り込まれてきた者たちだ。

 魔法の理論も魔力の正しい練り方も、この学園に入ってから初めて学んでいる。


 その差は歴然。

 文字通り、初心者と熟練者並みの格差が存在している。


 魔法の威力を高めるためのイメージの構築速度、術式を編み上げる精度、そして何より魔法を人に撃つという行為への躊躇いのなさ。

 どれをとっても、今の平民の生徒たちが貴族の生徒たちに勝てるはずがないのだ。


(これじゃあ平民側の試験も何もない……)


 マリエルは小さく息を吐き出す。


 ただ一方的に攻撃を受け、防御もままならずに倒される。

 これでは魔力の運用方法はおろか、咄嗟の判断力すら測ることはできない。


 こうなることを学園側がわかっていなかったはずがない。

 生徒の魔力値を事前に把握している教師陣が、この絶望的な実力差を予測できないわけがないのだ。


 これはつまり――。


(貴族側の、ガス抜きか)


 表向きは身分の差はないと謳っているこの学園だが、やはりどうしようもない扱いの差は存在するということだ。


 日頃の厳しい訓練や平民と同じ空間で学ばねばならないという貴族生徒たちの不満。

 そして、学園に多額の資金を援助している貴族の親たちへのアピール。

『あなた方の子息は、これほどまでに優秀に育っていますよ』という成果発表の場。

 そのために平民の生徒たちはサンドバッグとして利用されているのだ。


 とはいえ、貴族としての事前教養の差を学園側に「なくせ」と求めるのも酷な話ではある。

 家庭環境の差まで学園が補填することは不可能だ。

 学園の掲げる実力主義とは強い魔力を持ち、数が多い貴族を基準に構成され、平民はそのおこぼれに与っているにすぎないというわけだ。


 頭ではその理屈を理解していても、目の前でボロボロにされていくクラスメイトたちの姿を見れば、マリエルの胸の奥に鬱屈とした重い感情が澱のように溜まっていく。

 正直に言って腹立たしい。


 そして、次なる試合が告げられる。


「グラム対ルカ・レグナス! 前へ!」


(お、彼か)


 マリエルは少しだけ身を乗り出し、演習場の中央へと視線を向ける。


 先日掲示板の前で、学年一位の座を奪われた悔しさを露わにしていた銀糸の刺繍の制服を着た黒髪の少年。

『五天星』の第三位に座する天才、ルカ・レグナスだ。


 対するは平民クラスのグラムという男子生徒。

 彼は恐怖と緊張で顔をこわばらせ、握りしめた杖の先を小刻みに震わせている。


 どんな戦い方をするのか、少し様子を見ることにする。

 マリエルはルカの一挙手一投足を見逃すまいと目を凝らした。


「はじめ!」


 開始の合図と共に、グラムが必死の形相で呪文を叫んだ。


「ストーンバレット!」


 土属性の魔法。

 足元の地面がえぐれ、こぶし大の石の弾丸が複数生成され、ルカに向かって猛烈なスピードで飛翔する。

 初歩的な魔法だがグラムは持てる魔力の全てを注ぎ込んでいるらしく、その速度は決して侮れない。


 だが、ルカは一歩も動かなかった。

 彼は足先を軽く地面に打ち付ける。


「シャドウブレード」


 静かな詠唱。

 その瞬間、ルカの足元に伸びる影が生き物のように蠢き、そこから漆黒の刃が何本も天に向かって突き出された。


 影から作り出された刃は、飛来する石の弾丸を空中で正確に捉え、まるで豆腐でも切るかのように音もなく真っ二つに斬り裂いていく。

 斬られた石は勢いを失い、ルカの足元に無害な土くれとなってバラバラと崩れ落ちた。


(闇属性魔法か)


 マリエルは内心で分析する。

 物理的な干渉力を持つ影の刃。


 魔力の密度と制御が非常に高いレベルでまとまっている。

 マリエルから見てもその練度は見事なものだ。


「くそっ……! ストーンバレット! ストーンバレット!」


 グラムは諦めず、次々と石の弾丸を生成しては撃ち出す。


 だが、結果は同じだ。

 ルカの周囲に展開された影の刃が、自動で迎撃するように全ての攻撃を切り落としていく。


 今までの貴族側の生徒たちは平民が魔法を撃つよりも早く、強力な魔法をぶつけて一方的に蹂躙していた。

 だが、ルカはあえて魔法を先制せず、受けに回っている。


 しばらくの間グラムの攻撃を受け続けていたルカが、ぽつりと呟いた。


「……そろそろ俺も攻撃に移らせてもらう」


 ルカが右手を軽く振るう。


 それと同時に彼を守っていた影の刃の一本が、地面を這うようにしてグラムへと高速で飛翔した。


「ひっ……! ストーンウォール!」


 グラムは咄嗟に防御魔法を唱える。

 彼の目の前の土が隆起し、分厚い石の壁が形成される。

 即席にしては立派な防壁だ。


 だが。


 影の刃は分厚い石の壁を全く意に介さず、まるで薄紙を切り裂くように真っ二つに両断してしまった。

 そして、そのままの勢いでグラムの首元へと肉薄し――。


 ピタリ、と。

 グラムの喉仏からわずか数ミリの距離で影の刃は完全に静止した。


「ヒッ……」


 刃を突き付けられたグラムは恐怖で声も出せずに固まっている。


「勝者、ルカ・レグナス!」


 教師の宣言が響く。

 ルカは指を鳴らし、影の刃を霧散させた。


「対戦、ありがとうございました……」


 グラムが震える声で頭を下げる。

 圧倒的な実力差を見せつけられ、心底心が折れたような表情だ。


 だがルカはそのまま立ち去ることなく、グラムを見下ろして静かに口を開いた。


「……もう少し、石の密度を上げた方が良い」


「え?」


 グラムが呆然と顔を上げる。


「早さよりも、石の密度を十分に上げてから生成した方が厄介だ。最後の壁も、あれほどあっさり切られては意味が無いだろう? 魔力を外へ放出する前に体内で圧縮する工程を挟むべきだ。術式の構築を見直してみるといい」


 淡々と、しかし的確な助言。

 それは勝者の驕りではなく、同じ魔法を学ぶ者としての指摘。


 グラムは目を瞬かせ、やがてその言葉の意味を理解すると深く頭を下げた。


「あ、はい! アドバイスありがとうございます!」


 ルカは短く頷くと、踵を返して貴族陣営へと戻っていく。


(へえ……)


 その一部始終を見ていたマリエルは、感心したように口角を少しだけ上げた。


 一方的に敵を倒して優越感に浸るのではなく、実力差が十分にあることを把握した上で一度相手に全力を出させて花を持たせる。


 その上で魔法の特性を分析し、敗者にアドバイスまで送る。

 己の力を誇示するよりも、魔法という技術そのものに真摯に向き合っている証拠だ。

 どうやら彼は、平民を見下して嘲笑うだけの他の貴族たちとは少し毛色が違うらしい。


「おいおいルカ。お前なら瞬殺できただろうに。平民なんぞに花を持たせてどうすんだよ」


 陣営に戻ってきたルカに対し、ローランドが不満げに鼻を鳴らした。

 第五位とかいう、あの傲慢な男だ。


 ルカは視線を合わせることもなく、冷ややかに反論する。


「これは向こうにとっても試験だぞ。魔法を使わせないでどうするんだ」


「わかってねーな。あいつらは俺たちの実力を示すためのサンドバッグだぜ? 花なんて持たせなくていいんだよ。圧倒的な力の差を刻み込んで身の程を教えてやるのが俺たちの役目だろうが」


 ローランドの言葉には特権階級としての歪んだ選民思想が色濃く滲み出ている。

 平民は自分たちを引き立てるための舞台装置に過ぎない、というわけだ。


 その言い分が聞こえてきたマリエルは、チッと心の中で舌打ちをした。

 カチンとくる。


 神界で自分を「混ざりもの」と呼んで迫害した連中と思考回路が全く同じだ。

 他者を蔑み、踏みにじることでしか自身の価値を証明できない浅ましい精神性。

 聞いていてひどく気分が悪くなる。


 その時、訓練場に主審の声が響いた。


「次! セリア対ローランド・ベルディア!」


「えっ……」


 マリエルの隣でセリアの肩がビクッと跳ねた。


「おお、俺だな。たっぷりと可愛がってやるか」


 ローランドは首の骨をボキボキと鳴らしながら、残忍な笑みを浮かべて演習場の中央へと歩み出る。


「セリア……」


 マリエルは心配そうに同室の少女を見る。


 相手は五天星の第五位。

 しかも、よりによって一番性格が悪そうな男だ。


「あっちゃー、ついてないねえ……」


 セリアは困ったように眉を下げ、力なく笑った。

 だが、彼女の瞳からは闘志は消えていなかった。


「でも、棄権するわけにはいかないし。まあ、やるだけやってくるよ!」


 セリアは自分の頬を両手でパンッと叩いて気合を入れると、小走りで演習場へと向かった。


 二人が一定の距離を置いて対峙する。


「はじめ!」


 教師の合図が下った瞬間。

 セリアは即座に自身の得意魔法である『身体能力強化』を発動させた。


 体内の魔力を筋肉と骨格に巡らせ、爆発的なエネルギーを生み出す。

 ダァンッ! と土を蹴り上げる鈍い音が響き、セリアの身体が矢のようにローランドへと向かって突進した。


 真っ向からの肉弾戦。

 魔法使い同士の戦いにおいて、距離を詰めることは強化魔法使いにとって絶対の定石だ。


「おせぇよ」


 だが、ローランドは余裕の笑みを崩さない。

 彼が手にした杖の先端にある紅蓮の魔石が、激しく明滅する。


 ローランドの杖から巨大な火球が放たれた。

 それはセリアの直撃コースではなく彼女の足元、進行方向の少し先を狙って着弾する。


「きゃあっ!」


 激しい爆発と熱波が巻き起こり、セリアの突進は強制的に阻まれる。

 爆風に煽られ、彼女は地面をゴロゴロと転がった。

 黒い訓練着の一部が焦げ、肌に痛々しい火傷の跡が浮かび上がる。


「どうした? お得意の突進は終わりか?」


 ローランドは杖を振り回し、今度は炎で構成された長い鞭を作り出した。


 炎の鞭が空気を叩き、セリアの周囲の地面を焼く。

 熱気が演習場の温度を急激に引き上げていく。


 セリアの身体能力強化では、遠距離から放たれる炎魔法に対して為す術がない。

 近づこうとすれば火球で弾かれ、躱そうとすれば炎の鞭で退路を塞がれる。


「くっ……!」


 セリアは何度も立ち上がる。

 強化された身体の耐久力で火傷の痛みを堪え、泥だらけになりながらも前を向く。

 だが、その度に炎の魔法によって嬲られ、吹き飛ばされる。


「随分タフだな。いたぶりがいがあるぜ!」


 ローランドの顔には、明確なサディズムが浮かんでいた。


 彼は一撃で仕留めるつもりはない。

 圧倒的な力の差を見せつけ、相手の心をへし折る過程を楽しんでいるのだ。


「はぁっ……はぁっ……」


 セリアの体力が限界に近づいている。

 息は乱れ、足元はふらつき、これ以上魔法を維持するのも困難な状態だ。


「もう終わりか? つまんねえな。じゃあ、こいつで消し飛べ!」


 ローランドが杖を高く掲げる。

 周囲の空気が一気に乾燥し、膨大な熱量が杖の先端に収束していく。


 現れたのは、先ほどの火球とは比べ物にならないほど高密度に圧縮された『炎の槍』。

 直撃すれば治癒術師が待機しているとはいえ、火傷では済まない威力を秘めている。


「死なねえ程度に加減はしてやるよ!」


 ローランドが杖を振り下ろす。

 炎の槍が轟音と共にセリアへと放たれた。


「……っ!」


 セリアは逃げる余力もなく、ただ目を固く閉じ、両腕で顔を庇うことしかできない。


 迫り来る圧倒的な熱の塊。


 だが――。


 演習場の中央で、凄まじい爆発音が響き渡った。


 それは炎が対象を焼き尽くす音ではない。

 膨大な熱エネルギーと相反する属性が激突した際に発生する水蒸気爆発の音だ。


「なっ!?」


 ローランドが目を見開く。


 彼の放った炎の槍は、セリアに届く直前で突然何かに激突して弾け飛んだのだ。

 瞬く間に演習場の中央は真っ白な水蒸気に包まれ、視界が完全に遮断された。


「なんだァ!? 誰の魔法だ!」


 ローランドが苛立ちの声を上げる。

 水蒸気の向こう側から、静かな怒りを含んだ声が響いた。


「選手交代です」


 風が吹き、白煙が徐々に晴れていく。

 そこに立っていたのは倒れ込むセリアを背中で庇うようにして立つ、一人の少女。


 マリエルだ。


 彼女は右手の人差し指を立て、その指先からは先ほど放った『アクアボール』の残滓である水滴が、ポタポタと地面に落ちている。


 彼女が持つ、安全に制御できる限界の初級魔法。

 それを極限まで圧縮し、炎の槍の軌道上にピンポイントで配置することで威力を完全に相殺して見せたのだ。


「お前……! さっきのチビ女か! 部外者がしゃしゃり出てきやがって!」


 ローランドが顔を真っ赤にして杖を構え直す。


 マリエルは、そんな彼の怒りなど意に介する様子もなく静かに、そして嘲るように言い放った。


「まだやり足りないなら私が相手になりますよ。三下野郎」


 神界から堕ちた少女の瞳に、獲物を狩る捕食者のような暗い炎が灯っていた――。

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