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三男さんが三体いる!  作者: すじお


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1/2

婚約破棄から始まる三重デート地獄!

「――オリヴィア嬢との婚約は、破棄させてもらう」



社交界のど真ん中でそう宣言された日のことを、私は一生忘れないと思う。

いや、忘れられるはずがない。だって、婚約者のあの男、よりによってパーティの壇上でそれを言ったのだ。



音楽は止まり、貴婦人たちは息をのむ。

私はワイングラスを手に、ただ笑って言った。


「……ご自由にどうぞ」


華麗に一礼し、そのまま退場。

涙? あんな人に見せる涙なんて、一滴だってもったいない。

ただ――心の奥のどこかで、私はふと、あの人のことを思い出していた。



金色の午後、学園のカフェテリア。

窓際の席で、一人紅茶を飲んでいた私に声をかけてきた留学生。

黒髪に琥珀色の瞳。少し訛った言葉で、


「お砂糖、二つですか?」


と微笑んだ彼。


そのたった一度の会話が、やけに胸に残っていた。



婚約破棄の噂が広まって一週間。

屋敷にこもってお菓子を焼いていた私のもとに、密偵のアンヌが飛び込んできた。


「お嬢様! 三男さんの正体が分かりました!」

「……三男さん?」

「ほら、以前カフェでお話ししたという“留学生の三男さん”です! なんと、王国アルサラームの第三王子でした!」

「……えっ」


どういうこと?

庶民風の服を着ていたあの人が、王子? いや、それよりも。



「それで、王子様はいま……?」

「命を狙われており、護衛のために影武者が二人いるそうです」

「……影武者って、つまり――」


アンヌは力強く頷いた。



「三男さんが、三体います!!」




密かに届けた手紙に返事が来た。


『昼の十二時に、噴水広場で。君に会いたい』



署名は“三男”。


胸をときめかせながら向かったその日、私はまさか一日に三回、同じ顔の人と会うことになるなんて、夢にも思わなかった。



――午前十時。


最初に現れた三男さんは、穏やかで理知的。


「オリヴィア嬢の瞳は、空より澄んでいる」


とか言ってくれる人だった。


完璧に本物っぽい。私の心臓は跳ね上がる。



――正午。

次に現れた三男さんは、やけに軽い。


「いやー、姫さん、飯行こ!」


と肩を抱いてくる。

……この軽薄さ。絶対に影武者その1だ。



――午後三時。

三人目は、やけに寡黙で無口。

ただ、目だけはやたら熱くて。

ティーカップを持つ指が震えていた。

その緊張した仕草に、なぜか私の心がぎゅっと掴まれる。


「あなた……もしかして本物?」

「……どう思う?」



それだけ言って、彼は唇の端を上げた。

ああ、ずるい。そんな笑い方、反則。




その夜。

机の上には、三通の手紙が並んでいた。


差出人は――三男さん×3。

一人は「国に戻ったら正式に求婚したい」と書き、

一人は「次はもっと派手にデートしようぜ!」と書き、

もう一人は……何も書かず、ただ紅茶の葉を一枚、封に忍ばせていた。



私は手紙を見つめながら、呟く。


「私は……誰の“オリヴィア”になればいいの?」


窓の外、月が三つに割れたように見えた。



翌朝、私は決めた。

本物とか、影武者とか、そんなこともうどうでもいい。

あの人たちは、それぞれ違う“顔”で、私を支えてくれた。


――午前の知性。

――昼の陽気さ。

――午後の沈黙。


全部ひっくるめて、私は三男さんが好き。

だから、手紙を一通書いた。



「どのあなたでも構いません。けれど、次に会う時は――あなた自身として、来てください」



返事は、まだ来ていない。

けれど、どんな顔で現れても、私は笑って迎えるつもりだ。



だって――

三男さんが三体いようと、私の恋は、たったひとつだから。


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