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第6話『火球スイング、炸裂!』

シーン1:ゴブリン襲来と混乱

 その朝、村の空気はどこか張り詰めていた。


 いつもはのどかに鳴く鳥の声もなく、森の木々は微かにざわめいている。羊飼いの少年が草原の外れを駆け戻ってくると、広場で作業をしていた村人たちに叫んだ。


「森から……! 森から何か、来るっ!!」


 緊張が走った。村人たちは作業を放り出し、鍬や棒を手にして集まり始める。


 そして、地鳴りのような足音とともに――あらわれた。


 緑色の肌、鋭い爪、金属片でつくった粗末な武器。十数体のゴブリンの群れが、唸り声を上げながら村へ突入してきた。


「まさかこの村に……!」

 村長が震える声で呟く。彼は長年、この村の治安を守ってきた。しかし今、その老いた瞳に映るのは、なすすべなく狼狽する村人たちの姿だった。


「武器が足りない!」「逃げろっ、家の中へ!」


 広場は混乱の渦だった。


 そのとき――


 カツ、カツ、と馬車のステップを下りる音が響いた。赤いウェアに身を包んだ貴族風の少女、コーデリア・フォン・ロザリンドがゆっくりと現れる。


「ふむ……どうやら歓迎の儀式、というわけではなさそうね」


 悠然とそう言った彼女に、侍女のエミリアが慌てて駆け寄る。


「お嬢様っ、武器がありません! 衛兵もいませんし、逃げるしか――」


「ふふ……心配無用よ、エミリア」


 コーデリアはそう言いながら、馬車の荷台から一本の長物を取り出した。握りしめたその手には――磨き上げられたドライバーがあった。


「ゴルフクラブ、ですか!? まさか、それで戦うおつもりですか!?」


「違うわ、これは**“振るう”ための道具じゃない**。“導く”ためのものよ」


 彼女は、ドライバーのヘッドを軽く撫でながら続けた。


「このドライバー(物理)は――魔力伝導率が高いのよ」


「……どういう意味ですか、それ!? 比喩ですか? 比喩であってほしい!!」


 叫ぶエミリアの声が空しく響く中、コーデリアは前へ歩み出た。


 ゴブリンたちと、芝の広場の中心で――彼女は、構えた。


シーン2:スイング魔法、始動!

 芝生の中央に立つコーデリアの姿は、異様なほどに静かだった。


 目前では、ゴブリンの群れが武器を振り上げ、牙を剥きながら迫ってくる。

 その凶悪な気配にも、彼女は一歩も退かない。


「エミリア、私の背中を守ってちょうだい。……これより、新戦術を試すわ」


「新戦術って! えっ、それ今言います!?」


 悲鳴交じりに叫ぶエミリアをよそに、コーデリアはクラブを静かに構えた。


 ――スッ……。


 彼女の細い指が、ゆっくりとドライバーのグリップを握りしめる。

 その瞬間、彼女の身体からほのかに魔力の波動が広がった。


 赤い粒子が、彼女の腕を伝ってクラブへと流れ込んでいく。


 ギュウウウウ……


 鉄のクラブヘッドが淡く、そして徐々に強く赤熱し始めた。

 音もなく振動する空気。熱が地面にまで伝わり、周囲の草が焦げる。


「“フレイム・ショット”――」


 コーデリアの目が鋭く細まる。


「――発動タイミング、スイングと同時!」


 地を蹴った。


 回転軸を意識し、足元を安定させたアドレス。魔力を纏ったクラブが、豪快な弧を描いて振り抜かれる。


 ――ズバァァンッ!!


 ドライバーのヘッドが空を裂いた瞬間――轟音と共に火球が炸裂した。


 それは弾丸のような速度だった。灼熱の球体は一直線にゴブリンの前列へと飛び込み――


 ドガァァァァン!!!


 凄まじい爆発とともに、ゴブリンたちが火の粉を撒き散らして宙を舞った。


「な……っ!?」


 村人たちが唖然とする。

 煙の中、赤く焼け焦げたゴブリンが地面に叩きつけられ、呻き声を上げる。


「い、今のって……魔法!? スイングで……魔法が!?」


「ゴルフクラブから火球!? そんなことあるのか!?」


 広場全体が騒然となる中、エミリアだけが叫んだ。


「お嬢様ぁぁぁっっ!? ゴルフの範疇から明らかに逸脱してますうぅぅ!!」


 しかしコーデリアは、微笑を浮かべながら次のボール(魔力球)を構えていた。


「ふふ、いい感触だったわ……さて、次のターゲットは――」


シーン3:連続ショット&ギャグ要素

 ――ドガァァァン!!


 爆炎とともに、第二陣のゴブリンたちが地面に叩きつけられる。


 しかし、まだ終わりではなかった。

 獣のような咆哮が森の向こうから響く。


「増援ですっ、お嬢様っ!!」


 エミリアが魔法で風を巻き起こし、視界を確保する。


 見えた。十数体のゴブリンが、木々を押し分けながら突撃してくる。


 しかし――


「次、ドローショットで左から流すわ!」


 コーデリアは一切動じることなく、フォームを整えていた。


 左足に体重を乗せ、リストを柔らかく使いながら、ゆっくりとトップへ。


 ――ズバァァンッ!!


 振り抜かれたクラブから、炎の球体が描くは、美しい弧線。


 軌道は緩やかに左へと曲がり――側面から敵陣に突入!


 ボオオオン!!


「ギャァァッ!」


「クァァッ!」


 ゴブリンたちは火柱に巻かれ、次々と吹き飛ぶ。


 エミリアは、その一撃に目を見開いた。


「お嬢様っ……! 魔力の流れが……“インパクト”で集約されてる……!」


 そう。魔法はただのエネルギーではない。

 フォーム、リズム、タイミング――すべてが一つになったとき、最大の力を発揮する。


「……まるで、魔法がスイングに乗ってるみたい……」


「その通りよ、エミリア。魔法は感情。スイングは、その感情の伝達手段。ならば――」


 コーデリアがもう一度、クラブを構えた。


「フォアァァァァッ!!(炎属性)」


 叫びとともに、火球、連打。


 右へ、左へ、上へ――

 まるで自在に軌道を操るかのように、燃える弾丸が空を舞い、敵をなぎ払っていく。


 ――ズドォォォン!


 ゴブリンの一体が空高く吹き飛び、地面を何度も転がる。

 そのまま、頭から石垣に突き刺さり――ぷすぷすと煙を上げながら、うめくように呟いた。


「……パーって……なんだ……?」


 その場の誰もが、しばし沈黙した。


 次の瞬間――


「ぶっ……はははっ!!」


「ゴブリンが、ゴルフ語覚えてるぞ!」


 村人たちから笑いが巻き起こる。


 火の粉が舞い、爆風が吹き荒れる中――

 芝の上に立つコーデリアの姿は、誰よりも優雅だった。


「ふふ……ゴルフは、命を救うスポーツですわ」


シーン4:戦闘終結と村人の反応(ラノベ形式)

 ――静寂が、戻ってきた。


 吹き荒れていた火球の嵐は止み、森に潜んでいたゴブリンたちはすべて灰と化した。


 空には夕日。焼けた土の匂いと、焦げた木の残り香が漂う。

 しかし村の中心は、ほとんど無傷だった。


「……終わった、のか……?」


 恐る恐る顔を上げた村人たちは、そこに立つ一人の少女の姿を見た。

 紅蓮の残光を背に、クラブを片手に佇むコーデリア。


 そのドライバーは、微かに赤熱を帯びていた。


「すご……かった……」


 ぽつりと呟いたのは、村人A。


「な、なんなんだ……あれは……」


 村人Bが震える声で続ける。


「こ、これは……武器なのか? いや……芸術……?」


「いや……」

 村長が、静かに口を開いた。


 白い髭を風に揺らしながら、彼は誰よりも真剣な眼差しでコーデリアを見つめる。


「新たな“技”……いや、“術式”が生まれたな」


 誰もが言葉を失った。


 これは単なる武器ではない。

 剣でも弓でもない――魔法とも違う、第三の力。


 **ゴルフスイング魔法――“スイング・アーツ”**の誕生だった。


 そこに、コーデリアがクラブを肩に担ぎながら戻ってくる。


「ふぅ……少し、フェースが焼けすぎたかしら。エミリア、あとで研磨をお願いね」


「えっ……あ、はい……」


 エミリアはまだ目をぱちぱちさせている。


「お嬢様……いったい、あなたは何者なんですか……?」


 その問いに、コーデリアは肩をすくめて、微笑んだ。


「ただの元貴族よ。そして、ゴルファーですわ」


 夕日が沈む頃、村には確かに新しい“何か”が芽生えていた。


 それは――

 魔法とゴルフの融合する、新たな冒険の始まりだった。



ラストシーン:進化のドライバー

 あたりには、火球の熱で焦げた芝の匂いが残っていた。


 広場の片隅、まだ湯気を立てるグリーンの中心に、ひとりの少女が立つ。

 その手にはドライバー。魔力の余熱を帯びたシャフトが、微かに脈打っていた。


 焦げ跡の芝が靴の裏で鳴く。

 その中を、エミリアがそっと近づき、ぽつりと呟く。


「お嬢様……魔法の使い方が……変わってしまいました」


 それは畏れとも、畏敬ともつかない、揺れる声だった。


 だが、コーデリアは小さく微笑むだけ。


「違いますわ、エミリア――進化したのです」


 そう言って、彼女はドライバーを軽やかに肩に担ぐ。


 魔法とスイング。精神と筋肉。意識と無意識。

 それらが一点に交わる、**“打点インパクト”**の世界。


 彼女は、それを掴み始めていた。


 風が、吹く。

 焼けた芝を撫でるように、優しく。


 そして、コーデリアはその風に目を細めながら、静かに呟いた。


「さあ、次は――風のホールを作りましょうか」


 その背中はもう、戦いの場ではなく、創造の舞台を見据えていた。


 ――To be continued.







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