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恋を教えてくれた彼

私は今日結婚する。

旦那さんは素敵な人で優しくておもしろい。

私の初恋もそんな相手だった。




「開やめろって!あはははー」

「大和弱すぎー」

中学2年にあがってすぐの遠足、移動で東京に向かうバスの中で初めて彼と話した。

私は気になって後ろを向いて声をかけた。

「なにしてんのー」

「あ、ども」

(人見知りなのかな)

「奏やばい、大和めっちゃくすぐり効く」

彼の隣に座っているのは遠藤開、去年同じクラスになって仲良くなった男の子。

「おい!」

「えーそーなのー、わたしも参加しようかな〜」

「いやですよ!」

「なんで敬語笑」

「え、あすみません。じゃないや、えっと名前は?」

「佐倉奏ですー。須藤くん覚えてないのー?一昨日みんな自己紹介したばっかなのに」

「いや!覚えてたんですけど!自信がなかったというか!じゃなくて!ちゃんと覚えてましたよ!」

「怪しいなあ」

「逆におれのことわかるんすか?」

「わかるよー、須藤大和くんでしょ?」

「なんで知ってるん、、」

「だから自己紹介したじゃーん」

これが彼、私の初恋の相手との出会い。中学だからなんてことない出会い方だけど、今でも覚えてる。


この時、中学2年生まで私は恋、好きというものを知らなかった。どの気持ちが好きなのか、好きになったとしてどうすればいいのかわからなかった。

それでもなぜか私は彼の事が気になってはいた。

不器用だけど優しくてでもおもしろくて、まっすぐ気持ちを言葉にする彼に次第に惹かれていたのだと思う。

目で追ってちゃうし、声がすればドキドキするし、でもこの関係が終わるのが怖くて気付かないふりをしていたんだと思う。


でもそんな彼の目の先には私じゃない女の子が映っていた。彼は本当に分かりやすい男の子でその女の子と他の女の子では話し方も目も表情も何もかも違っていた。

彼が好きな子はおそらく、私と同じ部活の友達で山瀬志穂ちゃんという女の子。

私よりも可愛くて、学年でも人気な女の子。


私は完全に「女友達」だった。

それでも当時は楽しかった。次第に打ち解け、須藤は私のことを「奏」と呼び、私は「須藤」と呼んでいた。

いつもと変わらない日常、距離感、それでいいと思っていた。

ただ、あのときを除いてはいつもと違っていた。


あれは中学2年も終わりになり、クラスで打ち上げをした後のこと。

「じゃあこれから公園行くひとー!」

「はーい!」

クラスの何人かが行くことになり、私は須藤に聞いてみた。

「すどーは行くの?」

「いくよ!てかさーいつまで須藤呼びなんだよ、もうちゃんと話して1年経つぞ」

「いやだってすどーはすどーじゃん」

「あはは、なんだよそれー」

「いいじゃん!」

「てか奏は行くの?」

「どうしようかなー、距離あるし」

「じゃあ、乗ってく?後ろ」

「え?」

「チャリだから乗せてくよ」

「えっと、じゃあ」

私は須藤の自転車の後ろに乗り、須藤は自転車を走らせた。

「おっとと、あぶねー」

「ちょっとーだいじょーぶ?」

「いけるいける!1回ちゃんと乗っちゃえば、、ほら!」

須藤はよろけながら自転車を漕ぎ、その後は安定させた。

「2年もおわっちゃったねー」

「そうだなー」

「3年も同じクラスになれるかなー」

「どうだろーね、仲良い同士はあまり同じクラスにならないってきくけど」

「仲良いんだ」

「そりゃいいだろ!」

「すどーは、、」

「なに?なんか言った?」

「いやなんでもない!」

「なんだよー気になるじゃん!」

「受験がんばろーねって言っただけ!」

「うわー来年の2月とかだっけー、勉強したくねー」

「すどーって頭良いじゃん」

「塾行ってるしな、少なくとも奏よりはいいぞ」

「うるさいなー」

日が暮れそうになる3月の終わり、風を切る空気が当たる中、いつもとは違う時間は過ぎていった。




3年生も同じクラスになり、最初の出会いが嘘のようにお互い気を使わない仲になっていた。そんな日常もすぐに終わり、私と須藤は無事高校に合格し卒業式を終え、校舎を出たタイミングでばったり会った。


「すどー卒業おめでとー!」

「奏もだろ!」

「じゃあわたしもおめでとー」

「なんだそれ笑」

「すどーは高校行ってもサッカーやるんでしょ」

「やるよーそれしかないし」

「がんばってね!」

「そっこーでスタメンとってやんぜ!」

「楽しみにしてる!すどーはこのあと打ち上げいく?」

「いくよー」

「じゃあまたあとでね」

「はいはーい」


打ち上げのときは特に話もしないでなにもなくその日は終わった。



そんな卒業式から1週間ぐらい経ったある日、スマホに通知が来た。

あれ、開からだ。

いま隼人の家で大和とか部活のみんなで泊まってるよー

(え!隼人の家ってうちから近いじゃん!)

なんで大和の名前出すの?

いやだって好きなんだろ


この時、確信した。私は須藤のことが好きで、須藤ぐらい分かりやすい人間ということを。


大和にRINEしてやれよ

うん



私はすぐに須藤にRINEした。

すどー

なにー

いま隼人の家に泊まってるんだって?

なんでしってんの

開からきいたー

そーだけど

明日の朝、会おうよー


既読がついたが、5分ぐらい時間が空いて返ってきた。


いいよなんじ?

やったー!6時!

はえーな、わかった

色々買ってくね!

なにをだよ笑

たべもの!

じゃあおれはのみもん買ってく

よろしく!


私は会う前の日にコンビニでいろいろ買っておいてすぐに家を出れる準備をして眠った。


次の日、アラームを設定した1時間前に起きて少しそわそわしながら準備をしながら須藤にRINEを送った。


すどーちゃんとおきてる?

おきてるよ

隼人の家の坂下ったところにベンチがあるからそこに集合ね

わかったもうすぐ出る

わたしもいまいえでる!


3月の下旬でも朝方は寒く、陽も上り始めていた。

私はそんな中、自転車を漕いで待ち合わせ場所に向かった。


まだ来てないのかあ、場所わかるかなー。連絡しとこ、、あ!いた!


「ごめん!おまたせ!」

「ううん、いまきたとこ」

(なんだろうこのきもち)

須藤はレジ袋の中から飲み物を取り出した。

「寒いからあったかいもん買ってきた!」

「ありがとー!」

「ココアとほっとレモンどっちがいい?」

「ココアがいいー」

「ほい」

「ありがとー!ほら座って座って」


私と須藤はベンチに座りながら買ってきた食べ物を広げて食べながら話をした。


「すどーは中学校生活どうだった?」

「んー色々あったけど楽しかったよ」

「そっかーそれはよかった!」

「奏は?」

「わたしもすっごくたのしかったー!」

「それはそれは」

「ねえ、すどー、わたしと初めて話したときのことおぼえてる?」

「覚えてるよ!中2の遠足のときでしょ」

「覚えてるんだー」

「これでも奏よりは頭良いからな」

「ばかのくせにー」

「うっせえ。それで?」

「んーきいてみただけー」

「なんだよそれ」

「すどーはさ、どんな高校生活にしたい?」

「んーそうだなー、今みたいに卒業したときに楽しかったって言える高校生活にしたいな」

「おー!なんかいいこと言ってるー」

「それだけ中学校生活が楽しかったってこと!奏は?」

「わたし?そうだなー、すどーみたく部活頑張るってかんじじゃないし、、また今度言うよ」

「ずりいー」

「いいじゃん、じゃあ、、わかった!それを見つけるための高校生活にする!」

「どんな高校生活にしたいかを見つけるための高校生活?よくわかんねー」

「国語が苦手なすどーじゃわかんないよ」

「おい、それ言うな」

「国語だけは私の方が点数上だし!」

「それは自分を褒めてんのか?」

「とーぜん!」

「あははっ、ばかみてえー」

「ばかじゃないしー」

「ばかじゃなくて天然だな笑」

「もうー、ほらほら部活で体力つけなきゃなんだから今のうちにたくさんたべときなー」

「おかんか!」


それから他愛もない話をして時間は過ぎていった。

「やべー、隼人からRINEきてる」

「なんて?」

「どこいったって」

「何も言わずにでてきたのー?」

「まあ、だってほら」

「なに?」

「別になんでも」

「じゃあそろそろ帰る?」

「うん、わりいな」

「ううん」

「、、、」

お互い何を話すでもなく数秒、時が止まった感じがした。


「じゃあ残りは持っていってみんなで食べて!」

「わりい、ありがとな」

「ううん、ほら行った行った!みんな待ってるよ!」

「おう」

須藤は自転車のかごに残った食べ物と飲み物を入れて自転車にまたがった。

「じゃあ」

「うん!またね!」

「おれ、、、」

「ん?」

「いや!サッカー頑張るわ!」

「うん!じゃあまた!」

「おう!またな!」

須藤はそう行って自転車を走らせていった。


あーやっぱ、わたし須藤のこと好きだったんだ。

告白、、すればよかったなあ。



最後に会ったのも連絡をとったのもそれっきりで、高校で部活が忙しくなったのか連絡も取らなくなって会わなくなって、今どこで何してるかすら分からない。


あれから10年かあ。結婚式来て欲しかったような来て欲しくなかったような、どっちにしてもいまの住所わかんないし、連絡先だって消しちゃったし。

それでもあのときの想いは私の宝物。


「奏?どうしたの?」

「ううん、行こっか」

でも、どこかにいるあなたへ届いたらいいな。

ありがとう、と。

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