第1章 #9 「初日」
お久しぶりの更新です。
夜のエレモア王都は、昼とはまるで別の顔を見せる。
灯りの落ちた路地、酒場から漏れる笑い声、そして人知れず蠢く影。
「……ここ、ですか?」
小さく声を落とし、ミナトは周囲を見渡した。
目の前にあるのは、古びた石造りの建物。表向きは倉庫――だが、夜にも関わらず人の出入りが絶えない。
「間違いありません。紅蓮教団の集会所のひとつです」
フードを深く被ったキリナが静かに答える。
耳も尻尾も隠し、今はただの人間のメイド……いや、護衛だ。
「……意外と堂々としてるな」
「ええ。彼らは“正義”を語っていますから。隠れる必要がないのです」
その言葉が、妙に重く響いた。
ミナトは一度、小さく息を吸い――建物の中へと足を踏み入れた。
⸻
中は簡素な造りだった。
だが、人は多い。老若男女、貧民らしき者から、身なりの整った者までいる。
そして、壇上に立つ一人の男。
「――皆さん。今日もよく集まってくださいました」
赤い布を肩にかけた、細身の男。
穏やかな声、優しい笑顔。
「私たちは、奪われてきました。
貴族に、軍に、権力に」
ざわり、と空気が揺れる。
「ですが……女神イスタルテ様は、見捨ててなどおられません」
その瞬間。
集まった人々の目が、一斉に輝いた。
(……うまい)
ミナトは内心で舌を巻いた。
怒りを煽るだけじゃない。“救い”を用意している。
「力なき者が踏みにじられる世界は、間違っています。
だから我々は――“正しい世界”を取り戻すのです」
拍手。歓声。
信者たちは疑いを持たない。
「……」
ミナトは、ふと隣を見る。
キリナは微動だにせず、ただ静かに周囲を観察していた。
(本当に……宗教ってやつは……)
日本で見た光景と、どこか重なる。
――その時。
「そこのあなた」
声をかけられ、ミナトの肩が僅かに跳ねた。
赤布の男が、こちらを見ている。
「見慣れない顔ですね」
「……最近、王都に来たばかりで」
即座に言葉を選ぶ。
「この国……正直、息苦しくて」
わざと視線を落とし、弱さを見せる。
「……なるほど」
男は、満足そうに微笑んだ。
「なら、あなたも“気付いた”のですね。この国の歪みに」
「……はい」
「ようこそ。紅蓮教団へ」
その一言で、周囲の信者たちが一斉にこちらを見る。
期待、共感、仲間を見る目。
(……簡単すぎる)
取り入るには易いようだ。だが油断は出来ない。しっぽを出してはならない。そしてできるだけ中枢に入り込む。
「そちらは……」
「ん?キリナのことか?」
キリナの方へ目を向ける。出発前、なぜかは話しては貰えなかったが、私はフードを被りお供します。とまるで姿を見せたくないかのように
「………」
キリナはムスッとそっぽを向いてしまう。相変わらず人と話すのは苦手なのだろう。
キリナの反応に、周囲の視線が一瞬だけ訝しげに揺れた。
――まずい。
ミナトは即座に口を開く。
「……無口なやつで。俺の連れで用心棒なんですよ。腕だけは確かなんですよ?」
そう言って、さりげなくキリナの前に半歩出る。
“守る側”の位置取りだ。
「ほう……」
赤布の男は興味深そうにキリナを眺めたが、すぐに柔らかな笑みへ戻した。
「力を持つ者が、力なき者を守る……それもまた、我々の理想ですね」
周囲から同意のざわめきが起こる。
どうやら、不審は最小限で済んだらしい。
「今宵は歓迎の意味も込めて、集会の後に“語らいの場”を設けています」
「ぜひ、参加なさい。同志として」
「……ありがとうございます」
ミナトは深く頭を下げた。
(語らい、ね……十中八九、選別だ)
信仰の深さ、使える人材かどうかを測る場。
ここを越えれば、より内側へ行ける。
⸻
集会は熱を帯びたまま終わり、信者たちは三々五々、奥の部屋へと誘導されていった。
ミナトとキリナも、その流れに乗る。
通されたのは、倉庫のさらに地下。
石段を降りた先にある、円卓の部屋だった。
灯りは最低限。
だが、壁には赤い紋章――炎に包まれた天秤が刻まれている。
「……露骨だな」
ミナトが小声で呟くと、キリナがわずかに頷いた。
「象徴を刷り込む……精神操作の基本です」
「詳しいな」
「……経験、ありますから」
その声は、ほんの一瞬だけ硬かった。
円卓には、先ほどの男を含め、数名が着席している。
どれも一見すれば普通の人間――だが、纏う空気が違う。
「改めて、名を伺いましょう」
赤布の男が、穏やかに問いかける。
「俺は、ミナトです」
「私は――」
一瞬、キリナの言葉が止まる。
ミナトは息を殺した。
「……キリナ」
短く、それだけ。
「ほうほう…」
下卑た笑み。男は満足そうに頷き、指を鳴らした。
「では、問いを一つ」
空気が、ぴんと張り詰める。
「もし――この国を正すために、誰かの犠牲が必要だとしたら……」
「あなたは、その手を汚せますか?」
汚せますか……か…正義を掲げてる者の言葉としていかがものかと思うが正義の形は様々だ。だが、今は…
ミナトは、少しだけ考える素振りを見せ――静かに答えた。
「……守るためなら」
迷いを滲ませ、しかし否定はしない。
「見捨てるよりは、ずっとマシです」
部屋の奥で、誰かが満足そうに息を吐いた。
「素晴らしい」
赤布の男は、ゆっくりと立ち上がる。
「あなたには、資質があります」
そして、笑顔のまま――言った。
「次は、行動で示してもらいましょう」
その言葉と同時に、扉の奥から引きずられてくる一人の男。
顔は青ざめ、口には布。
明らかに、信者ではない。
「……これは?」
ミナトの胸が、嫌な音を立てる。
「“裏切り者”です」
「我々の正義を、外へ漏らそうとした」
赤い紋章の下で、男は淡々と告げた。
「さあ、ミナト」
「あなたの“正しさ”を、見せてください」
逃げ場はない。
ここで拒めば、疑われる。
従えば――一線を越える。
ミナトは、拳を握りしめた。
今は従わなければならない。怒りも悲しみも哀れみも…全ての負の感情を塞ぎ込み情報を得るために動かねばならない。
「…………はぁ…」
「……キリナ?」
ガッ! ドッ! バキッ!
「痛い!やめでぐれぇ!」
「何故君が?」
「この男。腑抜けでして、暴力を好まないので私が変わりにと」
まさか、キリナが代わりに出るとは思いもせず。あっけらかんとしているとキリナが腕を引っ張る
「すみません。この男は見てるだけでも精神的にダメなようなので休ませて来ます。よろしいでしょうか?」
「良いでしょう。私たちも少し強情になってしまった点。謝罪申し上げます。」
「ここを右に曲がると宿がございますので……ゆっくりお休み下さい。また明日……お話出来ると嬉しいものです。」
不吉な笑と共に見送られ、キリナのサポートのもと、一時的に離脱することに成功した
だが、想像以上。想像以上だった。潜伏。ここまで精神をすり減らされるとは。まだ初日。このまま持つのだろうか。
石段を上がり、倉庫の外へ出た瞬間――
夜気が、やけに冷たく感じられた。
ミナトは、無意識のうちに止めていた呼吸を吐き出す。
「……っ」
肺の奥に溜まっていた緊張が、一気に抜けていく。
隣では、キリナが無言のまま歩いていた。
だが、その歩幅はいつもよりわずかに速い。
倉庫から距離を取る。
角を曲がり、人通りの少ない裏路地へ入る。
そこでようやく――
「……もう大丈夫だ」
ミナトが小さく言った。
キリナは立ち止まり、周囲を一瞥する。
気配を探るように耳を澄まし――
「……尾行はありません」
そう断言してから、ゆっくりとフードを外した。
露わになる獣の耳。
月明かりを受けて、銀の毛並みが淡く光る。
そして。
「……すまない」
キリナが、ぽつりと呟いた。
「勝手な行動を取りました」
「いや」
ミナトは首を振る。
「助かった」
あの場で、自分が手を下していれば――
戻れなくなっていたかもしれない。
任務のため。
潜入のため。
そう言い訳はできる。
だが、“自分自身”が、それを許したかどうかは分からない。
「……あの男」
キリナが低く言った。
「殺してはいません」
ミナトは顔を上げた。
「本当か?」
「頸動脈は外しました。気絶しているだけです」
淡々とした口調。
だが、その奥にある微かな安堵を、ミナトは聞き逃さなかった。
「……そうか」
二人の間に、短い沈黙が落ちる。
遠くで、酒場の笑い声が響いた。
世界は、何も変わっていないかのように回っている。
「……なあ」
ミナトが口を開く。
「キリナ。お前、“経験がある”って言ってたよな」
地下室での言葉。
――精神操作の基本です。
――経験、ありますから。
キリナの耳が、ぴくりと揺れた。
「……」
答えない。
だが、否定もしない。
代わりに。
「……紅蓮教団は、危険です」
静かに言った。
「彼らは、信仰を装っていますが……本質は“選別”です」
「選別?」
「価値のある者と、ない者を分ける」
その声には、明確な嫌悪があった。
「価値のない者は、排除される」
ミナトの脳裏に、先ほどの男の姿が浮かぶ。
青ざめた顔。
震える身体。
助けを求める目。
「……あいつは」
「まだ生きています」
キリナは即答した。
「ですが……長くは、持たないでしょう」
「……」
「裏切り者は、“再教育”されます」
再教育。
その言葉の意味を、ミナトは聞かなくても理解できた。
沈黙。
重い空気。
やがて――
「……それでも」
ミナトは言った。
「俺たちは、入るしかない」
キリナが、彼を見る。
「中枢まで潜る」
「証拠を掴む」
「そして――止める」
迷いはなかった。
恐怖がないわけじゃない。
だが、それ以上に。
見過ごせなかった。
「……危険です」
キリナの声は、わずかに弱かった。
「あなたが思っているよりも、ずっと」
「かもな」
ミナトは苦笑する。
「でも」
そして、キリナを見る。
「一人じゃないだろ」
「……」
キリナの瞳が、わずかに揺れた。
「お前がいる」
その一言。
それだけで――
キリナの胸の奥に、何かが灯った。
消えかけていた、小さな火。
「……はい」
今度は、はっきりと答えた。
その時だった。
――カツン。
石畳を打つ、靴音。
二人は同時に振り向く。
路地の入口。
そこに、一人の男が立っていた。
赤い布を肩にかけた――
「……おや」
穏やかな声。
先ほどの男。
「こんなところでお会いするとは」
笑っている。
だが、その目は笑っていない。
「……偶然、ですか?」
ミナトが、静かに問う。
「ええ」
男は頷いた。
「同志の体調が心配でして」
一歩、近づく。
「少しだけ……様子を見に」
空気が、凍る。
尾行はないはずだった。
だが――
(最初から、疑われていた……?)
キリナの耳が、警戒で伏せられる。
男は、二人の前で止まった。
そして。
「キリナさん」
その名を、正確に呼んだ。
ミナトの心臓が、跳ねる。
「……何故」
キリナの声が低くなる。
男は、微笑んだまま。
「あなたのような“方”を、我々が知らないとでも?」
その瞬間。
キリナの瞳が、明確な動揺を見せた。
「久しぶりですね」
男は、優しく――
残酷に告げた。
「――“元・候補者”」
「元…………候補者?」
謎の男。 候補者の謎。 選別。
キリナ
謎は謎を呼び。すり減った精神を休ませず叩き起すのであった
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「うーん。また君かい?ほんとに懲りないね。」
青髪。高身長。爽やかイケメン。『仁神』はある男と相対していた。
「懲りる。懲りないじゃぁないよぉ。僕は強欲なんだ。欲しいものは全部手に入れる。そうして僕は不死、不老を手にし、禁書目録も超越瞑想魔学も手に入れ世界でただ一人の男になったんだよ?はぁいいよねぇ1番ってさぁ…でもまだ足りない。足りないんだよ。知識も力も……形も全部!全部欲しい!だから…君の権能も加護も……隠し持った『神権』も……僕が貰わなきゃ…気が済まないってものさ…それが僕、『強欲』の咎人……アサシン・クブルトその人なのだから」
「そうだったね……君はそういう人だ。でも…ちょっと邪魔されると困るんだ。そよに行ってくれると助かる。結界の維持もあるからね。」
「だからさぁ!っておいっ!」
パッ
「ごめんね。君の相手はまだするつもりはない…というよりできないんだ。」
そう。できない。何も。この6000年の古傷を塞いでいる間は…
久しぶりだとキャラを忘れることもしばしば




