第1章 #8 「憤怒」
「………………おかえり…2人とも…いや…カルマくん」
貼り付けたような笑み、偽物。その笑みが彼の存在を不気味にそしてただならぬ存在へと昇華させている。分厚いコートに身を包み、フードの奥に見えるその瞳もまた紅く、鋭く二人を睨みつけている。
「ナハト様。任された任務の件…申し訳ございません。情報を得ることはできませんでした…」
「ほぉんと…あのじじぃときたら…口を割らないときたらぁぁ…」
あの襲撃後、約1ヶ月をかけて隣の国、『船上の都』クラシンへと踏み入れていた。『船上の都』クラシン、その名の通り海の上に浮かぶ大量の船、そこの民は船で移動し、船上商業を行い、船上で生活をしている。その背景にははるか昔、突如現れた無刧の影響による土地の減少それに伴う領地の奪い合い。元々陸地にあった国クラシンは争いにより徐々に場所を奪われ最終的に海の上へと追いやられた。争いの終結後、和解と領地返納もあったが、海の上での生活に馴染み、また貿易面でも漁業が売りにできる点もあり今の形を形成したのである。今ではどの国もクラシンから海産物を仕入れている。
その、海の国クラシンでカルマ達は組織のボスであり、『憤怒』の終人"ナハト・ザルギオス・サタンへと定時報告に来ていた。
「それで…今日はどちらにする?………カルマくん」
「…………」
「んぅ………」
変わらない笑顔。ナハトは常に笑顔だ。だが、その笑顔の奥には地獄よりも濃く深く熱く諄い怒り、憤怒が煮えたぎっている。
「今日は陽の方かなぁ…ね?任務失敗したんだからさ…わかるよね?君たちはどっちも死ぬか禁術解除しなければ死なないんだからさ、用心棒で…雇われてる身で…しかも僕直々の命令で…任務のひとつしかも老害から情報も得られないどころか相手に僕の名前を教えて生きて返す?ふざけてるにも程があるよね。僕の言っていること分からないかなぁ。いや、君たちなら分かるよね。得られた成果はなんだい?奪えた命はたった1桁しかも片手に収まる数…おかしいなぁ君たちてそんな弱い存在だったっけ、剣術は?その剣は?偽物かい?飾りかい?お遊びかい?はぁ…こっちにもやらないといけないことがあるのにわざわざこの塩臭い船上の都まで来てあげたのに、聞けた成果がなぁにひとつないじゃないか!意味がわからないよ?ね?ねぇ?ねぇ!!!」
「申し訳………ございません。」
「………………ぁ…ぇ…」
ひしゃげたカルマ(陽)、直接カルマに手を出したわけではない。手を出した訳では無いのだ
話している間に、徐々に身体がひしゃげていったのである
「……僕たちの目的…わかっているかい?ただ1つだ、あの王国エレモアに隠された古代霊機『久遠の改聖』を獲得し、我がストレスの全て…まがい物の愚民どもを排除することだよ。」
「はい。重々承知しております。そのため我々も心血注いでおります。」
「口だけじゃダメなんだよ。口だけじゃ…
次だ……次失敗したら二人共殺す。いいね?期間は無期限だ、この意味が分かるね?猶予なき挑戦で図らず失敗に終われば待っているの死だからな」
「御意に…」
こうして戦慄した近況報告は静かにだが激しい形で終わった。
「それじゃ…僕はこの塩臭いところを後にするよ。次会うときは良き報告が聞けること期待しているよ。」
「御意に」
魔眼組織『無』ボス、『憤怒』の終人、ナハト・ザルギオス・サタン。彼は微笑む。成就するその日を待ちて。理不尽を振りまいて
――――――――――――――――――――――
「んなぁ、ミナトの兄貴。このままアテナ騎士団に入っちまったらどうだ?」
「うむ。たしかにそれはありかもしれんな。行く宛てもないのだろう?」
「…え?」
日々鍛える中で確実に力をつけている実感を得る。ここ最近では魔力を剣に流し強化する。魔法剣術をクリス直々に教わっている。と言うのも、自身の魔力が聖錬された魔力だとわかってからさらに魔法に力を入れていたのだが、目覚しい成長は特に無く。あくまで基礎ができる程度までにしか成長しなかった。そこでクリスの提案で武器を使った鍛錬を始めたのである。
ミナトは転生前、父親に言われるがままに剣道の道に進んでいた為剣術なら行けると思っていたが
「いってぇぇー!」
「はぁい♪よそ見はダメですよ〜」
「今のはクリスさんたちが…」
「話は片耳で、戦場ではよそ見で命を落としますよ〜♪」
どうも甘く見ていたらしい。扱う剣は両刃剣。竹刀と比べてみれば一目瞭然。とても重く。自身の今の筋力が足りない。ただ、幸い魔力を筋力強化に扱えば振ることは可能だが撃ち合いの中でそっちにリソースを割く量が多ければ多いほど差が出てしまう。それは避けたい。
「もう一度…お願いします!」
「おいでませ〜♪」
――――――――――――――――――――――
「いってえ…やっぱ難しいなぁ…」
「とは言ってっけどよ…なかなかいいと思うぜ?俺はよ」
「ふむ。そうだな。ただ…気にのがひとつあるのだが、ミナト殿の構えや動作。あれは桜国に似ているが、そちらの方で修練を積んでいたのか?」
まぁ、剣筋は雑だが…と疑問を投げかけてくる。おそらく剣道でやっていた構えをしていたりしたためだろう。しかし
「俺、その…『桜国』てのが分からないのですが、どういう国なんです?」
「知らなかったのか。ふむ。『桜国』はこの国の真反対にある国でないわゆる島国と呼ばれている。」
『桜国』、エレモア王国の丁度真反対にある国で、周りは海に囲まれている。ただその海は『幻海』と呼ばれ、魔力の濃い霧が桜国の周囲100kmにわたり広がっている。それは濃い魔力により強化されている魔獣。魔力の濃い霧そのものが幻影を見せてくる。常に荒れている天候。と『世界三大死域』と呼ばれている。ミナトの最初に居た『死外の森』もそのうちの一つだ。
『桜国』は独自の文化。倭と和を尊重しており、武装集団『サムライ』、自営警察『新撰連合会』、隠密組織『シノビ』とこの三竦みで自衛。その統括を『将軍』が行っている。そして、ミナトの剣の扱い方はその内の『サムライ』にとても近しいのだ。
「まるで…日本みたいだなぁ…」
「ニホン?ミナト殿。それは一体なんだ?」
「あぁ…ん〜」
そうだ。俺がこちらの世界の人間ではないことはここの人たちには話してはいない。怪しまれる可能性もあるのと、単純に信じて貰えないだろうからだ。
が、
「この際だ、話しておくか…」
「「?」」
「俺さ、異世界転移してきたんだよ…」
「「異世界転移ぃ?」」
2人が頭に?を浮かべる。それもそうだ。
「俺はこの世界とは違う世界から来た。魔法や魔力、魔獣なんてないしいない。この世界に比べれば平坦で平凡で平和な世界だ。俺はそんな世界からこっちの世界に転移してきた。いや、されたと言った方が正しい。」
「…なんだそりゃ…おとぎ話の話してんのか?」
「だよな…そりゃそうなる…。けど本当だ。俺にとって…向こうの…俺のいた世界にとってこっちのような魔法やら魔獣やらの方がよっぽどおとぎ話なんだよ。」
「そんなことあるわけ…」
「いや、無いわけでもない…」
クリスが思い出したかのように口を挟む
「とても古い文献だ…それには、かつて、別の世界から来たと言う人間がおり、その人間が未知なる知識で民を導いたと」
ミナト以外にも転移者がいた。その話を聞き、安心感を覚えるが
「しかし…そうと断言出来るものでも無いからな。」
「まぁ、ミナトの兄貴が嘘をつくとは思えねぇし?俺は信じっけどもよ。」
「私も、君が腹を割って話そうとしてくれたんだ、信じよう。」
すんなりと受け入れてくれた。意外な結果にあっけらかんになってしまう。
「どうしたんだ?ミナトの兄貴。そんなアホ面してよ」
「いや…疑われて、信じて貰えるとは思ってなかったもので…」
「まぁ、疑念もある。ただ、そもそもミナト殿がはじめいた場所が『死外の森』と聞いているからな。あんな所にいく者などこの世界で殆どのものがいないだろう。」
「なるほど…でも、信じてくれてありがとう!」
「おうよ。」
「ふむ。では、ミナト殿その話が本当なのであればどうするつもりなのだ?」
「この世界は悪くないとは思うけどさ…ただ…やっぱ元の世界に戻る手がかりをこの世界を旅して探し回る。元の世界には友人もいるし、家族もいるからな。」
「そうか、分かった。」
「まぁ、もう少しここに残って鍛錬積んでからでていくかな。それまではお願いします。」
「あぁ、いくらでもここにいるといい。」
こうして、元の世界に帰るという目的を果たすための、ミナトの異世界人生が始まった。
「…………………………………」
「おはようございます。」
チュンチュン チュンチュン
翌朝。子鳥のさえずりが普段は心地よいはずが今は心音のせいで遮られ心地良さも覚えられない。
「あのぉ……どちら様でしょうかぁ………」
「………このお屋敷の雇われメイドです。」
「なぁるほどね?えっとぉ、いつからいた感じ?ていうか……見た?」
「そうですね、2時間ほど前からこちらの部屋にいました。そうですね。はい。とてもご立派なものがそびえ立っておられました。」
「んもぉぉぉぉ!!!!」
年頃の男の子にはとても恥ずかしいことである。しかも2時間もの間見られていた恐れを考慮すればなんともまぁ間抜けなことだろうか。恥ずかしさで悶え死にしてしまいそうだ。いや、死ぬか。
「おぉい、ミナトの兄貴。朝から騒がしいけけど、どうしたんだ?」
「このおケモ耳のメイドさんは……どなたですん?」
恥ずかしさから言葉がおかしくなる。
「あぁ…キリナか。ちゃんと自己紹介してなかったんか?」
「気持ちよさそうに寝ていらっしャッ……たので。」
噛んだ…
「改めて自己紹介を。私、このエレモア王国…直属護衛用戦闘メイド。姓をウルファル。名をキリナと申しまめッ…す。どうぞ、キリナとお呼びください。主、クリス・シルヴァの命により、貴方様専用の護衛用戦闘メイドとなりますのでどうぞよろしくお願いめっ……す。」
噛んだ…2回噛んだよ。キリナさん。見た目はやや長身、ウルフ耳に綺麗な白髪に少し緑がかっている。とてもクール系な獣人だが、ドジ属性もあるのだろうか。
「よろしく?クリスさんが命じたって…」
コンコン
「失礼するぞミナト。」
まるで示し合わせのようにクリスが現れる。答え合わせが早くてとても良いがタイミングが良すぎて逆に怖い。
「自己紹介は終わったようだな。どういうことかまだ理解できてないのは仕方ない。ミナト殿。この先旅をするにあたって1人では厳しい場面は多く出てくる。
だからこちらのメイド、キリナを連れて行くといい。戦闘面もそうだが身の回りの事もメイドとしてこなせる。」
「戦闘メイド…ありがいとは思いますけど、どうしてまた…」
こちらに来てからクリスには良くして貰いすぎている。宿に金銭面そして教育と、そしてこちらはと言うと何かしら返せている訳でもない。至れり尽くせりだ。
「姉貴はお人好しなんだよ。困っる人には無条件に手を差し伸べちまう。だからそのうち痛い目見るとは思っちゃいるが…そういう所が姉貴の良さでもあんだよ。」
「お人好しか。たしかに私はお人好しかもしれんな。ミナト殿。これらを恩として返すことは別に考えなくていい。私が勝手にやったことだからな。」
「本当に色々ありがとうございます…」
感謝だけでは足りない。この旅の終わりまでに受けた恩は返す。
「今日からヴァンジャンスはクラシンの方へ魔法学研究のために赴いていて当分帰ってこない。だからその間は自分で鍛錬に励むといい。剣術は私が空いている時相手になる。」
「まじか…そういえばヴァンジャンスさん、お偉いさんだったっけ。」
あの飄々とした姿からは想像できないが、ヴァンジャンスは魔法学研究筆頭なのだそうだ。
「本当であれば、ルイを連れにと思っていたのだがなにぶんこいつはこいつで立場が合ってな。」
「いやいや、このメイドさんでもだいぶありがたすぎる方ですよ。」
「それは良かった。旅をするのだ。仲良くしてくれるとありがたい。」
「それは勿論ですよ。」
「………」
「どうした?キリナ?」
「いいえ、なんでもありません。それでは私もお仕事がございますので一度ここを失礼します。」
「嫌だったかな俺…」
あそこまで素っ気なくされると傷つくというものだ。
「キリナは昔色々あってな、人馴染みがあまり良くないんだ。許してやって欲しい。」
「なるほど」
過去の出来事は今の人格を形成する。これからの出来事もまた、これからの人格を形成していく。これからの旅路で彼女の心境が大きく変わることをミナトは心から願った。
「んじゃ、俺はヴェル爺に顔出しに行こうかな」
鍛錬を始めてから宿はヴェル爺のところからクリスの住む屋敷へと移っていた。ヴェル爺は貴重な働き手がと冗談を、いや半分くらい本気で言っていたが、ミナト自身、申し訳ないところではあったがずっと一緒にいられるわけでもないためいずれ来ることではあったのだ。ただそれでもお世話になったという事実は変わらないため時折顔を出し商売を手伝っている。北地区は襲撃後、数週間で復興。さすが世界一大きい王国だとミナトは思った。復興作業をする人員に一万人人近く派遣したそうで、人数の規模に度肝を抜かれた。ただその分の人件費や、復興費は想像通り高くついておりそこにプラス、襲撃時の損失もある。取引用の貨物もダメになっていたりとそれらの損失を取り戻すのは容易ではなく、早くても半年はかかるとの事だった。
「おーい!ヴェル爺〜!」
「うお!ミナトじゃねぇか!今日はどうしたんだ?」
重そうな箱を四つほど抱えながらこちらへ笑顔を向けるヴェル爺。あの日の治療以来、腰も良くなり今が全盛期と言わんばかりの元気で仕事をこなしている。近所の人たちも驚いていた。
「いやぁ、様子見だよ様子見。復興してからどう?売上とかさ」
「おう。そりゃ上々よ。家具やらなんやら色々売ってるおかげで復興中は周りに支給できたし、その後も通ってくれる客も増えてなぁ。そっちはどうだ?修行中なんだろ?このままアテナ騎士団に入っちまったりな。がはは!」
「はは、アテナ騎士団には入らないよ。俺はもう少しお世話になったらこの国を出て旅をするつもりだからさ。」
「んお。そうなのか。そりゃ寂しくなるなぁ」
「なんだい?あんた出て行っちまうのかい。」
「あぁ、故郷に帰らないと行けないからな…」
「そんな寂しそうな面すんなってのよ!故郷帰んだろ?今からその面じゃぁよ、情けねぇってやつだぜ?」
「それもそうだけど、やっぱ当分会えないってなるとなぁ…さすがに来るものが……」
この数ヶ月。お世話になった人は数知れず。長い付き合いには情が芽生えるとは言うが、長くなくともここまで仲良くなると短い付き合いでも情が芽生えるというものだ。
「恩返しは必ずする。約束するさ。」
「おぉ、そりゃ楽しみだな!出来れば俺が老衰で死ぬ前に頼むぜ?」
「勿論!」
楽しい時間も、つかの間。日は暮れて帰らねばならない時間となった。ヴェル爺との挨拶も終え帰ろうとした時ふと、噴水の方で人集りができているのを見つける。
「なんだあれ?」
「……………皆さん!私たち紅蓮教団に耳を傾けていただきありがとうございます!さて本題!この世界…特にこの国は呪われています!軍事力!権力!薄汚れた貴族の横暴!格差!私たちは差はあれど同じ人間!仲間では無いのでしょうか!かつて戦争で多くの命が失われた!この国はその多くの…価値ある命奪って出来上がった国!このような事が…許されるのでしょうか?女神・イスタルテ様はこのような現状…お許しにはならない!」
「宗教語りか…うちにもよく宗教勧誘来てたなぁ…共感求めて…人集めて…なぁにがしたいのか…」
間違いを語ってるとは言わないし思わない。ただ、押し付けがましい正義は、窮屈で重くて…少しばかり不憫だ…。つくづく思う正しいとはなんなのか。
「まぁ…色々あるんだろうな…」
「おかえりなさいませ。ご主人様。」
「うぉっ!?びっくりさせないでくれよ…」
「この数ヶ月で、口もだいぶ砕けて来ましたね。まぁ、わたくひ…には関係はありませんが…」
「まぁ慣れはあるかなぁ…。てか、ご主人様じゃなくてミナトでいいよ。そっちのが気が楽だし…」
「いえ、あくまで貴方は主人ですので。」
「お堅いのね…まぁ、慣れてからでもいいよ。そのうち主人呼びはぜっっったい辞めさせるからな。」
表情のひとつも変わらない。まるで言いなりの人形。
「じゃ俺、クリスさんの所へ行くけど、キリナはどうするの?」
「…私はご夕食の準備をしてまいりますゆえお気になさらず。」
「そっか。分かったよ。」
ほんとにこれ…この先仲良くやれるのだろうか。不安が過ぎるが仕方ない。今はまず準備だ。旅に出る準備をしないといけない。
「クリスさん」
「ん。ミナト殿か。どうした?」
「あのぉ…もう殿つけないで呼び捨てでいいですよ?」
「ん?そうか?ならミナト。そう呼ばせてもらおう。ところで用事があってきたのだろう?」
「あぁ、旅に出るっ話なんだけど、いつ出るかについでなんだけど…」
ドンッ!
「失礼します!」
ノック無しにドアを開ける大柄の男。鋼の鎧に腰の剣。見るからにアテナ騎士団の者だろう。話の途中に乱入とは、何事だろうか。
「どうした。今話の途中なのだが…」
「ここ最近ようやく落ち着いたと思われていた、教団の信者がまた暴れています!抑えるにも国民ゆえ、力を行使するのもいかがと難航しているのです。」
「ふむ。また暴れだしたか。」
「教団て…紅蓮教団のことか?」
「知っていたか。数年前から紅蓮教団というものが動いていてな。どうもこの国をよく思っていない連中が、人々の共感を煽りこのようなことをしているようなのだ。」
「迷惑極まりないな…」
「ただ、否定してはならない。彼らもまた人であり。各々の意思のもと動いている。意思の尊重は大切だ。」
「しかし、こうも暴れられると…」
「分かっている。奴ら…紅蓮教団の根城とそれを束ねてる頭さえ掴めればな…」
「分かってないの?」
「あぁ、奴ら…基本的に暴れるのは信者でそれ以外、教団自体が表に出てくることはないんだ…」
「なるほど…」
信者がある程度出来ればその信者を使って、さらに信者を増やせる。まるでネズミ講だ。不安や怒りを煽って上手く操っている。
「なら、探すのに適任がいるよ。ここにさ」
「?」
「俺は、多少は戦えて、知名度もないから怪しまれず、信者のフリして情報を取れる可能性がある。どう?」
「それはあまりにも危険すぎる。もしもの事があれば…」
「それは、キリナがいるから問題ない。」
「たしかにキリナが着いていれば緊急時は問題ないだろうが…それでもの万が一がある。」
「でも、成功の可能性もある。俺はそっちにかけたい。」
少しの沈黙後、渋々の表情で頷くクリス。
「せめてこれも持っていけ、固有魔具・足跡の羅針盤だ。」
「それは?」
「これはルイの持つ加護《足撃の加護》専用の魔具だ。合計でふたつあってな。片方は足跡。持たせた対象の魔力を少し喰らい信号の役割をする。もう片方は『目足の羅針盤』、《足撃の加護》保有者の魔力を込めると、足跡の羅針盤の放つ信号を受け取り位置がわかるようになる。」
「なるほど…」
「何かあればこの、固有魔具に強めに魔力を込めろ。そうすればすぐ駆けつける。」
「分かった。」
「キリナ。聞いていただろ?頼むぞ。」
「かしこまりました。」
異世界来て初の実戦。教団潜伏ミッション。実力を図るには丁度いいし何より助けてもらったぶん貢献しなくては。
「さぁて、こっからは俺たちのターンだ。」
新たな戦いが火蓋に手をかけている




