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異端なる貴方へ贈る異世界人生  作者: ハル凪
第1章 『異世界なんて…』
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第1章 #7 『努力 それは 美しく』

d(≧▽≦*)

エレモア大国・東地区。

“大国”とはいえ、広さゆえに人が寄りつかぬ過疎区も多い。

その多くはスラムと化し、荒んだ空気が街を覆っていた。


「……依頼は、どうなりましたか?」


祈りを終えて顔を上げた女の声は、驚くほど柔らかく澄んでいた。


「まぁ――あんたが言ってた人間はぁ、始末したよ?」


ケタケタと笑いながら報告するカルマ(陽)。

対してカルマ(陰)は冷めた口調で、


「無駄に抵抗する者もおった。あれは腹立たしことだったがな」


「……それは良かったです。穢れし魂に、浄化と祝福があらんことを……」


女は静かに涙をこぼし、祈りを捧げる。

自ら殺しを命じたにも関わらず、その死を悼む彼女を見て、

カルマ(陰)は やはりこの女は狂気と悟る


「……では、報酬の件だが」


「はい。こちらをどうぞ」


差し出された袋を受け取った瞬間、カルマ(陽)が眉を上げた。


「あれぇ? 少し多いんじゃなぁい?」


「あなた方の“本来の目的”は果たせなかったと聞いています。その上乗せ分です」


カルマ(陰)は袋を重く感じながらつぶやく。


「……それを上乗せするなら、この国の情報をもらいたいものだが」


「それは契約外です」


「ち……腹立たしいことよ」


カルマ(陽)は剣ををし鳴らせると


「あのさぁ? ここでこの女も殺っちゃうべきじゃない?」


と軽い調子で告げた。


その瞬間、女の瞳に鋭い殺意が宿る。


「殺りますか? 私を…

 穢れた魂は裏切り、蹴落とす……ええ、来るなら来なさい」


カルマ(陰)もカルマ(陽)も、一瞬動きを止める。


次の瞬間――


彼女の周囲に、十数挺の魔導ライフルが虚空から出現した。

すべてカルマたちを正確に捕捉し、砲撃の準備を整える。


「来なさい。穢れし魂。今ここで焼き払って差し上げましょう。」


さっきまで泣いていた者とは思えない殺意に、空気が震えた。


「いやぁ……今はやめておこうか?

 今暴れたら、敏感になってる王国騎士団がすっ飛んでくるだろぉ?」


「……癪だが事実だ。貴様も見境のなく暴れるほど愚かではあるまい」


実際、戦えば勝機がないわけではない。

だがこの状況で騎士団と三つ巴になるのは両者にとって最悪だ。


「……はぁ。早々に立ち去ってください」


「そうさせてもらうよぉ」


「ふん……」


冷たい風がスラムを駆け抜ける。

女は独り、再び祈りを捧げた。

荒ぶる魂に。救いを求める魂に――。


 ――――――――――――――――――――


 王都北地区襲撃から一ヶ月。

 ヴェル爺は無事回復。ミナト自身も回復。犠牲者もそれなりに出たがほとんどが軽傷とのことだ。

そして身体が回復したミナトはというとクリスに頼み、自分も戦えるようになるため、“魔法基礎学”を学び始めていた。担当してくれるのはクリスのお墨付きの教師、ヴァンジャン・タートン。狐目で細身そして前髪ぱっつんと特徴的な姿をしている彼は王国内でもトップレベルの魔法使いだそうだ。


「はい、カルマくん? 魔法基礎学の本髄は“想像”と“出力”です♪

 魔法陣は二層構造――この二つが揃って初めて魔法は発動できます」


「なるほど……イメージ、か」


「聞くだけでは学びになりません♪ これから外で実践しましょう♪」


「おお! 実践! それっぽくなってきた!」


祭りの時、魔力があることは分かっていた。

だからこそ、やっとこの日が来たというワクワクが胸に広がる。


「ではまず、貴方の魔法属性を調べましょう♪

 この魔水晶に魔力を注いでください」


透明でざらついた水晶を受け取り、魔力を流し込む。


「…………」


「…………?」


「……あの、バンジャンさん。いつ色、変わります?これ」


魔力の流れはあるのに、水晶は沈黙したまま。


「ふむ……魔力は確かに感じます。石が反応しないということは……

 珍しいですね。無属性です♪」


「……無属性」


火、水、風、土……どれでもなく、無属性。


「それって……すごいのか?」


淡い期待を込めて問う。


「実は、無属性はまだ研究が進んでいないんです。

 この一万年で確認された無属性の人はひと握りしかいませんし……

 皆あまり目立ったものがなくて」


「ハズレ……いや、現実は甘くないか」


「落ち込まないでください♪

 あの“仁神”も無属性なんですよ?」


「へぇ……あいつと同じ」


『仁神』。彼もおなじ無属性ということには驚きだが、たとえそうだとしても彼との差は歴然…素直には喜べなかった。


「無属性でも初級魔法は扱えます。

 ただ、適正がないので中級以上は……かなり厳しいですね」


「だよなぁ。強い魔法も使えると思ってたんだけどな……」


 せっかく強い魔法とか色々試したかったが無属性の魔力となるとちんけなものだ。アリスの使っていたような大きな魔法は使えないだろう。



「はーい♪気を落とさない落とさない♪魔法属性がなくとも鍛えれば戦えるレベルになります♪なので!しっかり鍛えて行きましょう!」


 そうだ。俺は戦えるように、強くなるために勉強をしているのだ。ここでクヨクヨしている暇はない。


「お願いします!


「では、まずは初級魔法の〈アン・ショット〉から始めましょう♪

 無属性でも確実に扱える、最も基本の魔法です」


クリスはそう言うと、手のひらに小さな魔法陣を展開した。

淡い光が収束し――


ビュンッ!


光の弾丸が空を裂いて飛んでいく。


「こんな感じです♪」


「よし……やってみるか」


ミナトは手を前に出し、深呼吸する。

魔力が体の中心から手のひらに流れ込む感覚は、もう掴めている。


「想像……小さな、弾丸……!」


一層目の魔法陣がふわりと浮かび、そこへ魔力を流し込む。

すると――


「おお……!」


薄い灰色の光球が生まれた。


「では次は “出力”! 魔力を押し出すイメージで――」


「いけッ!」


パンッ!!!!!


……爆発した。


光球は前に飛ばず、その場で破裂。

ミナトの髪がぼさぼさになり、顔が真っ黒になって煙が上がる。


「いったぁ……!」


「ふふ♪ 初めてにしては上出来ですよ?

 ちゃんと魔力を形にできています♪」


バンジャンの言葉は慰めではなく、本気のようだった。


「もう一回! 今度こそ前に飛ばす!」


ミナトは意気込み、再び魔力を集める。

すると――


「…………?」


バンジャンが小さく首をかしげた。


「どうかしました?」


「……いえ、少し変ですね。

 貴方の魔力ほかと少し違う……?」


「え?」


ミナトは自覚がない。

だが確かに、魔力の流れがさっきより太く、温かく感じる。


「ん〜無属性故あまり感じにくいですが…

 魔力回路が少し特殊かもですね」


「なに?魔力回路って」


「説明してませんでしたね♪人間には血管があるように魔力経路というものがあります♪魔力経路が長ければその分魔力があるということになるのです♪」


「なるほど…」


 

クリスの目が依然真剣である。



「……ミナトさん。もう一度、撃ってみてください」


ミナトは頷き、魔法陣を展開する。

灰色の光球が今度はより鮮明に輝き――


ビュッ!!!


「おっ!? 飛んだ!」


光弾は大きな木に命中し、バァン!と軽く砕け散った。


クリスは驚きに目を見開く。


「……これは、やはり……」


「やはり? なにが?」


「ミナトさん…貴方の魔力!聖練された魔力ですよ♪」



「……聖練された魔力て…たしか……」


聞き覚えのある名前だ、たしか…


「アリスさんと同じですね♪聖練された魔力…透き通っておりほかの者に比べセンスある魔力です♪王位継承の必要事項でもありますよ♪」


「それだ!」



 アリスが話していたではないか、約4ヶ月も前のことのため忘れていた。


「なるほど。そうなると貴方の可能性はもしかするともしかしなくてもはるかにあるのかもしれませんねぇ…」


バンジャンの声はわずかに震えていた。


「久しぶりに期待できる教え子で腕と魔力がよく鳴りますねぇ♪」


「……腕と魔力…」


こちらの世界ならではの言葉ではある。


「でも、だからこそ、軽はずみに判断はできません。修行とお勉強はさらに慎重にかつ厳しく行きますよ♪

 ――さぁ、もう一度、限界まで魔力を出してみましょう」


「限界……か」


ミナトは深呼吸し、額に汗を浮かべながら魔力を集め始める。


胸の奥が熱くなり、手のひらに集まる光が太くなる。


「……ッ!」


バリッ……!


空気が揺れた。


魔法陣が二つ、三つと勝手に重なってゆく。


「な……! 自動で魔法陣が重層化している!?」


バンジャンの声が裏返る。


通常、魔法陣を自作で複数展開するものといえば上級魔法クラスだ

初心者が扱えるはずがない。


「お、お待ちを!それは上級以上の――!」


「やばい……制御できないかも……!」


光球が脈打つように暴れ始めた。


バンジャンが急いで防御陣を張る。


そしてミナトは目を瞑る


ドォオオオンッ!!!


光柱が一直線に空へ突き抜け、衝撃波が周囲の地面を跳ね上げた。


土煙が晴れると、ミナトは尻もちをついていた。


「……はぁ……はぁ……やっべ……」


「……ミナトさん」


バンジャンはゆっくりと彼に近づき、真剣な眼差しを向けた。


「ふぅ…一時はどうなるかと思いましたがさすがにと言った所でしょうか…魔力操作はお粗末、魔力量も対してないお陰で本来の上級魔法とは呼べ無いものとなってましたが……」


「なってましたが……?」


「鍛えて完成させればとても強力なものとなるのは間違いありませんね♪鍛錬あるのみです♪」


ミナトは冗談のように笑った。


「……まじかよ、俺……」


だがその隣で、バンジャンは別の意味で顔をこわばらせていた。


(…………この子、聖練された魔力の持ち主であるのは分かりましたが、魔力の髄中に加護も権能もない。本来、生きていれば何らかの加護や権能は持ち合わせてなければおかしいのですが…昔読んだ史書に『カラの器』と呼ばれる者がいたと言われていますがこれがそうなのでしょうか……)


 だとすれば異端…世界にもたらすのは最悪の結末か最高の結末。自分はもしかするととても重大なモノを教育しているのかもしれないとバンジャンは一人で息を飲む


「……ん〜。ミナトさん。私はこれから貴方に全力でしごきを入れます。覚悟してくださいね?」


「……はいっ!」


 こうしてミナトの強くなるための過酷な修行は始まった。



 ――――――――――――――――――――――――


 その頃、王都のはずれ。

スラムにいたカルマたちは別ルートで国境に向かっていた。


「んー……ねぇ陰くん。

 さっきの女の周りにあったライフル……あれ、“通常の召喚魔法”じゃなかったよねぇ?」


「……ああ。ありゃあ、召喚というより……“収束兵装”に近い。

 この国で扱える者はほぼおらんはずだがな」


「ふふ……面白くなってきたぁ♪」


カルマ(陽)は蛇のように舌舐めずりをした。


「それにさ……この国、なんか“魔力の流れ”が変じゃない?」


「気づいたか。……王都の中心に、妙な揺らぎがある」


「揺らぎ?」


「魔力の濃度が……一人の人間を中心に、歪んでいる」


カルマ(陽)は笑った。


「それ、“彼”じゃない?」


「……かもしれん」


二人は王都の中心――すなわちミナトがいる方向をじっと見つめていた。


「『カラの器』………実在するとは思わなんだが…あれが今後、吉と出るか凶と出るか。」


「楽しみだねぇ?」


「ふん。ナハト様に何もなければあんなもの興味もない」


「全くカリカリしてさぁ…まぁそういう禁術だから仕方ないけどぉさぁ?」


 こうしてふたりは王都を出て次なる目的へと歩き出すのであった。



 ――――――――――――――――――――――――


「………………」


 聖女は泣いていた。魂の嘆きに、魂の非道さに。


「お父様…私はどうすれば……世界は…明るくなるのでしょうか…」


 涙を流し今日も血を浴びる。

 一人……二人……と殺めていく。それは悪意あるためではなく…ひとえに救済のために…


 

 

 


 


 



 

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