入院先で……
今回は一人称視点を利用したお話にしていきました。2話目、ちょっと想定より短くなってしまいましたが、今回も実験に近い作品になったと思います。
「は?」
俺は何を行っているのか分からなかった。まさしくこんな理由のわからないまま、厄介事に巻き込まれているような気がする。人が死ぬとかそういう臭いがして、気分が悪い。
「ちょっと待ってください、赤羽さん!」
赤羽さんは驚いてる様子もなかった。この事自体は予期していたように見える。いや当然か。ただ俺には身寄りがない、記憶もないわけだから選択の余地はない。これからどうなるかもわからない日々に俺はぶち込まれることとなった。
「赤羽さん、ここにいたんだ。」
アリサが俺の病室に入ってくる。赤羽さんとは知り合いと昨日聞いていただけに驚きはなかった。
「ねぇ、赤羽さん。ハルト君も退院したら『住み込み』で魔法師にするために特訓するの?」
まァ身寄りがない以上俺には選択の余地のないこと、赤羽さんの話からして記録はあるみたいだけど、家族は生きていないようだ。仮に生きているならすぐに見舞いに来るはずだろう。でもそんなこともなく一週間、世間ではGWの期間で人はたくさんいるのに俺はアリサと赤羽さんしか来ない。
「行く宛がないからすることになると思ってる。それでアリサって家族居るの?」
「私にも居るよ、ママとパパが。でも退院後に赤羽さんの家に泊まり込みで魔法師になるための修業をするの。」
そうアリサは言うと悲しげな顔をしていた。本当のことを言えばいいのに何で隠すのか俺には分からなかった。記憶がないから経験がない。知識はあるけどそれを生かす「経験」がないのだと自分で理解してしまった。変に傷つけてしまったと、俺の心がどんよりと沈むように眼の前が暗くなっていく。
「アリサはさ、なんで入院してるんだ? 見た感じしなくても良さそうな病状じゃ。」
俺は話題を切り替えるように話を続けた。今の話を続けてもアリサが傷つくように感じてしまったからだ。
「私は普通に病気だよ。3日後に退院する事になってるんだよね。風邪をこじらせちゃって……。」
ああ、そうなのかと俺は、妙に納得気味だった。
「じゃあ、アリサ。病室に戻ろうか。」
「はい、赤羽さん。」
二人は何処か隠しているように病室を離れていった。俺は「魔法絡み」のことで隠してるとしか思えなかった。でもそんなことやってるくらいなら、俺の記憶のこともなにか知ってるんじゃ……。
◇
私と赤羽さんは病室に戻り、今後どうするのかという話をしていた。
「赤羽さん、ハルトを『魔法師』にするために『住み込ませる』んですか?」
私は本気で疑ってる。魔法師は精神に負荷がかかる仕事だから、魔法災害の被災者であるハルトには荷が重い仕事だと思ってる。それに……記憶喪失したことが「魔法災害」による被害なら、と薄っすら最悪の可能性さえ浮かんでしまう。
「僕は『魔法師』として育てるべきだと思っている。多分ハルトの記憶喪失は魔霊による『魔法災害』ではないだろうね。第一奴らがやるとしたら大切な人との『記憶』を消す、いやもっと悪辣なやり方で苦しめるはず。それも廃人になるまで。」
赤羽さんは私の前で見せたことのない顔を見せた。とてもこわばっていて、過去になにかあったんだと私に思わせるそんな顔だった。
魔霊とは人が抱くあらゆる恐怖を具現化した存在、そして魔力の強い人間にしか見えない存在。私もそうだけどハルトにも恐らく見える。魔法災害は生き残ることさえ難しい、自然現象として具現化するのか不審死として具現化するのかそれとも事故として出てくるのか分からないけど私の今までの経験から分かる。遭遇した人は亡くなるのは必然、生き残るのは魔法適正の高い人だけ。
だから私は分かる、ハルトは魔法師としての才能があると。だからこそ、この病院に連れてきたのだと。
「あとアリサ、ハルトも同じ日に退院させることになった。その日はアリサが僕の車まで案内してくれる?」
「はい、もちろんです。」
私はそう言うとベッドに横たわった。家族も居ないわけでは無いけど、赤羽さんしか来ないから暇で暇で仕方ない。スマホで私の好きな配信者さんの動画でも見ようかな……。そう思って私はスマホを持つ。
◇
「みなさんおはこんにちは~」
明るい声が私のイヤホンの中に入ってくる。ユナ=ブロッサム、私の好きな配信者さん、実のことを言うとリアルも知っている。桜ユウナ、私の先輩魔法師で赤羽さんが見抜いた才能の一人、異名は『絶歌』、絶えぬ歌という意味で名付けられたらしい。
ピンク髪の特徴な3Dモデル、彼女はリアルでも美少女と言われるほどではあるけど本人は気楽に動けるこの姿を好んでいるという。
私は配信を見ることに没頭した。
今回ちょっと専門用語多めになってしまった気がすごいします。
なので次回から後書きに設定資料を載せていこうかな…と思います。