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1.計画の失敗


「――やられた……!」


 私は焦りと苛立ちを抑えきれず、自身の拳をテーブルへと振り下ろした。


 ここは私の自室である。カーテンの締め切られた部屋は陰鬱(いんうつ)とし、重苦しい空気で満たされていた。

 ウィリアムを招待したお茶会から十日が経ち――私は今日までウィリアムから縁談が取り下げられるのを待ち続けた。

 だが待てど暮らせどその知らせは来ない。それどころか父親のもとに、ウィリアムの父であるウィンチェスター侯爵から息子をよろしくとの手紙が届く始末。

 何かがおかしい――そう思ってようやく執事にウィリアムのことを詳しく調べさせたのが三日前。

 そして今、テーブルにはウィリアムの付き人、ルイスについての報告書があった。


「この男……いったい何者なの」


 ――ウィリアムの付き人、ルイス。

 私自身と、私に対する使用人の評価を調べ上げた張本人。

 だが伯爵家の情報網をもってしても、ルイスについてのほとんどを知ることができなかった。


 出自も年齢も不明。わかったことといえば、彼はもともと孤児であったということ。

 親もなく家もない。そんな彼を、ウィリアムが拾って付き人にしたのだという。

 確かにそれならば出自も年齢も不明なことに納得がいく。けれど、それでは困るのだ。

 常識的に考えれば、ルイスはウィリアムの指示で私のことを調べたと考えるのが妥当である。けれどお茶会でのウィリアムは私について詳しく知っている風ではなかった。

 ということは、指示をしたのはウィリアムではないということ。――なら、いったい誰が?


「可能性として一番高いのは、ウィンチェスター侯爵だろうけど……」


 どちらにせよルイスは知ってしまったのだ。私が全ての人間に対し嫌悪を露わにするわけではないと。

 そして同時に気付いたのであろう。お茶会での私の傲慢で冷酷な態度が偽りであったことに。そしてそれをウィリアムに進言した。

 もしかするとルイスは、私がただの令嬢ではないことにも勘づいているのかもしれない。


「とにかく、このままじゃまずいわね……」


 外堀を埋められてウィリアムと婚約――などとなってしまったら本当に取り返しがつかなくなる。もしそうなったら、彼の命は助からない。

 ルイスについての情報はこれ以上手に入らない。彼がいったい何を考えているのかも、知りようがない。手札がないまま近付くのは危険だろう。

 だがウィリアムにならば、まだ付け入る隙があるかもしれない。


「……こうなれば正攻法よ」


 押して駄目なら引いてみろ。昔からそう言うではないか。お茶会では引いてしまったのが最大の敗因。ならば次は真っ向から断ろう。

 ルイスのいないときを狙い、ウィリアムと二人きりになって直接断れば良い。今さら手段など選んでいられないのだ。


 部屋のカーテンを開け放てば、木漏(こも)()が部屋に降り注ぎ、重苦しい空気が一瞬で霧散(むさん)する。


「ウィリアム・セシル、待っていなさい。私があなたを決して死なせはしないわ」


 私は(おのれ)の心に刻みつける。何があろうと、絶対に彼を死なせはしない――と。


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