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11.消えたアメリア


 強い日差しが照りつける。


 王都エターニアから馬車で約一時間のところにある森と湖。その湖の側には一本の川が流れていた。川は森の途中で二手に分かれ、一方は森の奥深くへ、そしてもう一方は森を抜けて街道沿いに流れていく。


 その森と街道がちょうどぶつかる辺りを、馬に乗った青年が軽快に駆け抜けていた。


 青年は川に差しかかると、いつものように速度を落として馬から降りる。


 森の恩恵を受けられるそこは、彼のいつもの休憩場所であった。木々の下の日陰は夏でも涼しく、水は年中通して冷えている。馬を休ませるのにもうってつけだ。


「さ、ちょっと休憩しようか、スバル」


 青年は愛馬(あいば)に声をかけ、手綱を引きながらゆっくりと土手を降りていく。


「いいよ、好きに飲んでおいで」


 下まで降りたところで青年は手綱を放し、一度は手近な岩に腰かけた。が――すぐに立ち上がる。


「あれは……?」


 彼は気付いてしまったのだ。小石だらけの川岸で、下半身を水に浸けたまま倒れている少女の姿に。


「――ッ!」


 刹那――彼は少女に駆け寄った。

 冷えた身体を抱き上げ、声を上げる。


「君! 大丈夫⁉ 返事をして!」


 けれど返事はない。――このままでは……。


「――スバルッ!」


 彼は愛馬を呼びつけると、少女を抱きかかえ一気に土手を駆け上がった。

 スバルも主人について土手を上がる。


「ごめんね、スバル。疲れてると思うけど、急ぎなんだ。頼む」


 すると主人の言葉に応えるように、愛馬はひと鳴きした。同時に青年の表情が凛としたものへと変わる。


 彼は少女を抱えたまま(くら)(また)がると、慣れた手付きで手綱を左手に持ち、一気に馬を走らせた。


 *


 今しがたアメリアが倒れていた川岸に、ルイスは一足遅れて辿り着いた。


「アメリア様! アメリア様!」


 彼は声を張り上げる。


「アメリア様! 聞こえますか⁉」


 ルイスの頭には王都とその周辺の地形が全て叩き込まれていた。当然この森も例外ではなく、アメリアが流れつくならこの川岸以外にはないと彼は確信していた。


 だがどれだけ探してもアメリアの姿はない。


「……どういうことだ」


 呟いた刹那、ルイスの身体が一瞬ふらつく。

 彼はバランスを崩しかけ、けれどどうにか持ちこたえた。


「――くっ」


 額から汗が噴き出る。心臓の鼓動がいつになく早い。

 それは一刻も早くこの場所に辿り着こうとして使った、力の反動だった。


「は……っ、さすがに、きついか」


 彼は両足に力を込める。その覚束(おぼつか)ない足取りを立て直すべく。


「しっかりしろ……」


 こんなところで時間を無駄にしている場合ではない。


 自身にそう言い聞かせ、ルイスはもう一度辺りを見回す。何か手掛かりがあるはずだ、と周辺を探索し――そしてついに発見した。


「……濡れている」


 川岸から土手の上まで長く続いている水跡。それだけではない。


(ひづめ)……? 馬か!」


 彼は蹄の跡を追い土手を駆け上がった。

 するとそこにはまだ真新しい馬の蹄の跡が、ずっと先まで続いている。


「この先は……」


 王都エターニアに次ぐ都、アルデバラン――。


 ルイスはアルデバランへと続く街道のその先を、鋭い眼光で見据える。


「……まったく、あなたという人は――」


 独り呟いて、ウィリアムの元に戻るべくその場を後にした。


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