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8.その頃、双子とウィリアムは


 その頃入江では――……。


「あっ、おいカーラ!」

「どこ行くんだよ!」


 ボートが岸に着くやいなや、なにも言わずに森の方へ駆け出していった妹の姿に、エドワードとブライアンは大きくため息をついた。


「あーあ。今あいつ泣いてたぞ。やってくれたな、ウィリアム」

「やっぱり思ってたとおり、修羅場になったな」


 二人は桟橋(さんばし)のビットにボートのロープを結んでいるウィリアムに文句を垂れる。

 するとウィリアムは申し訳なさそうに顔を曇らせた。


「悪い。さすがに言いすぎたかもしれない」


 それは普段のウィリアムからは絶対に出ない言葉で、二人は驚きを隠せない。


「珍しいな。お前が謝るなんて」

「あぁ。初めてじゃないか?」


 ウィリアムがこんなにもあっさりと自分の否を認めるのは、二人の記憶上初めてのことだ。

 だがウィリアム本人にそんな自覚はないのだろう。彼は怪訝そうに眉を寄せる。


「お前たち……いったい俺を何だと思ってるんだ。謝罪くらい……」

「いや、違う違う。そうだけど、そうじゃなくてさ」

「お前、いつもは何やらせたって完璧だろ? 人付き合いだって、良くも悪くも当たり障りないことしか言わないし」

「そんなことは……ないと思うが」

「あるんだよ。鉄壁っていうか潔癖っていうか。隙がないっていうかさ」

「ま、無自覚なんだろうなとは思ってたけど。でも、そんなお前が反省するほど言いすぎたってことは、それだけ本気なんじゃねぇの?」


 二人はいい機会だと言わんばかりに好き放題言いまくる。

 だがウィリアムには二人の言葉の意味がわからなかったようだ。「本気? 何にだ」と真面目な顔で問い返す始末である。――当然、呆れかえる二人。


「あのさぁ、お前、普段は完璧なのにどうして肝心なところでそうなんだよ」

「アメリア嬢のことに決まってるだろ。今まで恋人の一人も作らなかったお前が急に婚約するくらいなんだから、本気なんだろって話だよ」


 二人が脱力すると、さすがのウィリアムも理解したらしい。

 二秒ほど固まった後――はにかむように口角を上げた。


「そうだな……。彼女のことは……愛しているよ」


 ――その言葉が果たして真実なのか、二人にはわからなかった。けれど今までまともに女性と付き合ってこなかったウィリアムが言うのだから、少なからず気持ちはあるのだろう。


「ほらな! 最初からそう言えよ!」

「なぁ聞かせろよ! あのおてんばお嬢様をどうやって口説き落としたのか!」

「やっぱり、彼女の気の強いところに惚れたのか?」


 二人は(せき)を切ったようにまくしたてる。

 するとウィリアムは、二人の言葉に微かに動揺した。


「そういえばお前たち、彼女とはいったいどういう関係なんだ。パブに行く仲というのは本当か?」


 ウィリアムはそう問いかけて――ようやく気付く。アメリアの姿がないことに。

 アメリアだけではない。アーサーとルイスの姿も見えないではないか。

 ――ウィリアムの心に広がる、嫌な予感。


「エドワード、言え。アメリア嬢はどこにいる」

「いや、俺たちは知らないよ。その辺りを散歩でもしてるんじゃないのか?」

「あぁ。でもそういえば、こっちに来るときアーサーと二人で歩いてるのを見かけたな」

「……何?」

 ウィリアムは顔をしかめる。


「俺は彼女を探しに行く。お前たちはここで待っててくれ」


 それだけを言い残し、ウィリアムは駆け出した。


 その背中を見つめ、二人は呟く。


「悪いな、アーサー。時間切れだ」

「俺たちだってウィリアムには幸せになってもらいたいんでね」


 これからまだひと悶着ありそうだ――そんなことを考えながら、二人はウィリアムの姿が森の奥へと消え去るのを、黙って見送っていた。


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