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3.湖のほとりで


 一時間ほど馬車に揺られてアメリア達が着いた先は――スペンサー侯爵家の領地である――真っ青な野原と豊かな森が広がる湖のほとりであった。

 水面(みなも)()んだ鏡のように空の色を映し出し、気持ちのよい風が豊かな木々の香りと小鳥のさえずりを運んでくる。


「さ、行きましょうウィリアム様! わたくしが案内致しますわ!」


 馬車から降りて真っ先に先頭に立ったのはカーラであった。

 カーラはウィリアムに満面の笑みを向け、彼の腕を掴んで森へと続く小道を進んでいく。


「カーラ、やめないか。私はアメリア嬢と一緒に……」


 ウィリアムはアメリアの方を振り返る。

 けれどもアメリアは、そんな些細なことは気にしないわと手を振り返した。


「わたしのことは気になさらないで。ウィリアム様を独り占めしては悪いですもの」


 ――アメリアはここに着くまでの間のカーラの様子を思い起こす。


 カーラは馬車の中で、アメリアに対して一言も口を利かなかったのだ。それどころかあからさまに敵意のある視線で睨んでくる始末。

 きっとカーラはウィリアムを慕っているのだろう、と察したアメリアは、カーラとウィリアムの背中を笑顔で見送った。

 もっとも、カーラの態度の原因はそれだけではないのだが。


 すると、背後から聞き覚えのある声が降ってきた。振り向けばそこには、エドワードとブライアンの姿がある。


「妹が申し訳ない」

「あいつ、アメリア嬢にウィリアムを取られて拗ねてるんですよ」


 森の中へと消えていく妹カーラに呆れたような眼差しを送る二人は、そもそもの元凶が自分たちの発言であるという責任を感じている様子はない。

 そんな二人に、アメリアは顔から笑みを消す。


「三年前のこと、話したのね?」


 確信があるわけではなかったが、二人がこの場にいることから状況を推測したアメリアは責めるように二人を見据える。すると二人は悪びれもせず、笑い声を上げた。


「やっぱりバレたか」

「話すつもりはなかったんだけど、アーサーに問い詰められてさ。仕方なかったんだ」

「殿下に……? まさか娯楽好きな殿下に知られるなんて、最悪よ。それにあの馬車は何なの? 四頭立てだなんて」


 アメリアが馬車に目を向けると、相も変わらず緊張感なく答える二人。


「ああ、あれなー」

「アーサーと出掛けるって父さんに言ったら、あれ使えって。目立つし嫌だって言ったんだけど」


 確かに王子を乗せるとなれば普通の馬車というわけにはいかないかもしれない。けれどあんなに目立つ馬車で移動するなど、逆に危険というものだろう。

 そもそも今日のアーサーには護衛の一人もついていない。いくら平和な国といえど、王子に護衛をつけないとはいったいどういう了見なのか。


「平和すぎるのも考えものよね……」


 もし万一アーサーに何かあれば、誰がどう責任を取ることになるのだろうか。――アメリアの憂鬱に拍車がかかる。

 けれど空気を読まないエドワードとブライアンは、突如腹を抱えて笑い始めた。


「にしてもさっきの君の淑女ぶりは傑作(けっさく)だったな! ごきげんようなんて言葉が君の口から出てくるとは! 笑いをこらえるのに苦労したよ!」

「氷の女王様はどこへやら! まさか、ウィリアムは君の本性知らないわけ?」

「あなたたち、性格悪くなったわね。残念だけどウィリアムも知ってるわ」

「なんだ。じゃあここにいる全員、君の本性を知ってることになる。淑女の振りなんて止めればいい」

「そうだ。君には窮屈だろ? それに俺たちは、さっきの君より今の君の方が好きだ」


 今度は真面目な顔をしてそんなことを言い出す二人。

 けれどアメリアは否定する。


「あら、駄目よ。わたし、この自分も結構気に入ってるの」

「……?」

「それってどういう……」


 二人が言いかける。

 けれどアメリアはその言葉を待つことなく、二人に背を向け歩き出した。


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