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9.悪女と呼ばれる理由


「だから俺たちはそれを機に、自分のしたいことをし、言いたいことを言うようにすると決めたのさ。そういう訳で、今でも時々平民に変装して夜の街にくり出してる」

「そう。だからアメリア嬢には実のところ感謝してるんだ。彼女は確かに口調もキツいし、舞踏会を抜け出すような、レディらしからぬお方だけどな」


 そう言って、うんうんと頷き合う二人。

 その姿に、アーサーは思い切り吹き出した。


「ぶっ――あっはっはっは‼ 確かにあるときからお前たちの様子が変わったと思っていたが、まさか彼女が原因だったとは!」


 アーサーは文字通り腹を抱えて大笑いする。


「お前たちが平民の振りをして街歩きをしているなどとクリスが知ったら、きっと卒倒するだろうな!」


 そう言ってひたすら笑い続けるアーサー。しかしカーラはそれを許さない。


「笑い事ではありませんわ! よもやウィリアム様だけでなく、兄さま達までもたぶらかすなんて――わたくし、絶対に許せませんわ‼」


 耳まで真っ赤にし、怒りに肩を震わせるカーラ。

 そんな妹の姿に、エドワードとブライアンは顔を見合わせた。


「おいおい、別に俺たちはたぶらかされてないぞー」

「そうだぞ。今の話ちゃんと聞いてたか?」

「黙らっしゃい‼ 兄さまたちが堕落(だらく)した生活を送るようになったきっかけはアメリア様なのでございましょう⁉ それをたぶらかすと言わずして何と言うのですか‼」


 カーラは二人をキッと睨みつける。

 そしてどういうわけか、慌ただしく部屋を出ていった。


「――あ……おい、カーラ!」

「……ああいう短気なところ、兄さんにそっくりだよな」

「つーか今、堕落って言わなかったか?」

「言ったな」


 エドワードとブライアンはやれやれと肩をすくめる。

 一方のアーサーはそんな二人の態度に何か考える素振りを見せて――何事かを悟った様子で二人に問いかける。


「お前たち、肝心なことを飛ばしたな?」――と。


 すると驚いたように首を傾げる 二人。


「何言ってんだよ。俺たち別に何も飛ばしてなんて……」

「そうだぞ。今の話で全部。嘘なんてついてない」

「――ほう? 街歩きのことをクリスに話したっていいんだぞ?」


 それは確信に満ちた声だった。

 これには二人もさすがに言葉を詰まらせる。――アーサーの言葉が図星だったからだ。


「俺を(あざむ)けると思ったか? 本当は何があった。――彼女と」


 その詰問に近い声に――二人はもう観念するしかなかった。


「はぁ……何だよもう」

「話してもいいけど、他言無用だぞ?」

「こう見えて口が固いのは知ってるだろ? 安心しろ」


 その返答に、やれやれとため息をつく二人。

 こうして二人は、今度こそ事の顛末(てんまつ)を話し始めた。


「さっきの続き……パブに定期的に出入りするようになって常連になると、彼女……アメリアは少しずつ噂を流すようになったんだ」

「……噂?」

「そうさ。彼女の(ふん)するローザは、サウスウェル家にメイドとして仕えてることになってただろ? 彼女はメイドのローザになりきって、本来の自分自身……つまりアメリアについての悪い噂を流し始めたんだ。――アメリアに(いじ)められてるってな」

「二ヵ月、三ヵ月……時が過ぎるにつれ、彼女はやつれた風を装うようになった。口数を減らし、ふさぎ込むような態度をとるようになった。パブの皆はそんな彼女を心配していた。その間に、本来の彼女――アメリアの悪評は社交界にまで広がっていった」

「噂話って凄いのな。パブには他の屋敷に仕える奴も沢山いて、そこから簡単に広まるんだ。尾ひれが付くなんてもんじゃない。中には使用人を自死に追いやったなんて噂もあったよ」

「そんなある日、俺たちは彼女に頼まれた。ローザはメイドを辞めたって、パブの皆に伝えてくれって。俺たちにももう会わないって言われた」

「俺たちは納得できなくて――でも、彼女の考えは変わらなかった。理由も教えてくれなかった。――あれ以来俺たちは他人同士だ」


 二人は締めくくる。


「話はこれで全部。俺たちが彼女と言葉を交わしたのは、本当にそれが最後だ」

「そうさ。社交場で一度だけ話しかけたが、完全に無視されたしな」


 エドワードとブライアンは、これで満足か? とアーサーに視線を送る。


「――つまり……彼女の悪評は彼女自身が流したものだと? なぜ……そんなことを」

「さぁな。何か事情があったんだろ」

「俺たちなんかにはわからない、深い事情ってやつがさ」

「それが急にウィリアムと婚約なんて」

「ああ、驚きだよな」


 先ほどまでは話すことを渋っていた二人だが、一度話してしまったらもう気にならないのか、彼らは素直に思ったことを口にする。

 アーサーはそんな二人の姿を眺めつつ、しばらく何事かを思案していた。

 そして長い沈黙の後――こう言った。


「よし。アメリア嬢に会いに行こう」――と。


 当然、エドワードとブライアンは困惑――否、驚愕する。


「はぁ⁉ まさか理由(わけ)を聞きに行くんじゃないだろうな⁉」

「そんなことしたら俺たちが話したってバレるだろ⁉ 嫌だよ!」

「そうは言ってない。ただ会うだけさ。そもそもウィリアムの婚約者だぞ? 会わないわけにはいくまいさ」


 アーサーの口角が上がる。――が、双子は心の底から嫌そうだ。


「ええー。じゃあアーサーだけで行けよ」

「俺たちは行かないよ。なんか色々気まずいし。今さら初対面ヅラするのも……」

「いいや。お前たちも行くんだ。もちろんウィリアムも一緒にな。あとは……そうだな。カーラ嬢にもご同行願おうか」

「はっ⁉ ウィリアムはともかくカーラはやめろ! 余計ややこしくなる!」

「あいつ嘘つけない性格だぞ! 知ってるだろ!」


 二人は吠えるが、アーサーは意見を変えない。


「男四人にレディが一人では、アメリア嬢とて気分が悪いだろう? それにカーラ嬢もアメリア嬢に会いたいと、そう考えていると思うが」

「それ、会いたいの意味絶対違うけどな」

「はあー。アーサーは言い出したら聞かないからな」

「よくわかってるじゃないか」


 エドワードとブライアンは大きくため息をつく。

 そんな二人とは対照的に、アーサーは満足げに微笑んだ。


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