表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

18/94

6.双子の追憶――貧民街の少年(後編)


 部屋に入ったエドワードとブライアンが真っ先に思ったのは、「ここは本当に人が住む場所なのか?」ということだった。


 まず全てのものが古びている。外観も酷いありさまだったが内装はそれ以上で、壁も天井もひび割れだらけ。家具は今にも壊れてしまうのではと思われるほどで、例えばテーブルの脚は折れそうだし、椅子においては脚が四本揃っていないものもある。

 それ以前に、貴族であるエドワードとブライアンからしてみれば、ここを家と呼んでいいのか怪しいレベルだ。玄関ホールは無く、キッチンも寝室も分けられていない。当然浴室などあるわけがない。

 ベッドも薄いマットの上にボロボロの毛布が数枚重ねてあるだけ。これから寒くなる季節だというのに、これで冬を越せるのだろうか。――エドワードとブライアンはそんなことを考える。


「どうぞ。座ってください。何もないところですが」


 どこから見ても痩せすぎているその少年――ニックは、二脚しかない椅子をアメリア達に勧めた。

 するとアメリアは、何の遠慮もなく片方の椅子に腰かける。――となると残る椅子は一つ。

 二人は悩んだ挙句、立ったままでいることに決めた。


「にしても、ミリア様。今日のドレスは派手ですね。まだ夜会の途中なのでは?」

「ふふっ、そのとおりよ。あまりに退屈だったものだから抜けてきちゃったの」

「それは別にいいんですが。せめてそのドレスは脱いできてもらいたかったです。この辺は物騒だってわかっていますよね?」

「そうね、ごめんなさい。でも大丈夫よ。今日はこの二人も一緒だし」

「どうだか。見たところそちらの二人も貴族でしょう? この辺の奴らには勝てないと思いますよ」


 ニックはエドワードとブライアンをちらりと一瞥し、アメリアに問いかける。


「まさかとは思いますが、今日はこの二人も一緒に……?」


 するとアメリアは、ニコリと笑って肯定する。


「ええ、そうよ。いつものを出してくれる? この二人の分は……」


 話が読めないエドワードとブライアンを置き去りに、アメリアはドレスの(そで)から巾着袋を取り出し、そこから何枚か硬貨を取り出す。


「な――なぁ、俺たち、話が全くわからないんだけど」

「なんで金なんか渡すんだよ? 俺たちの分って、いったい何……?」


 二人は訝しげにアメリアを見つめる。けれどやはり、アメリアは答えなかった。

 彼女は二人の問いをひたすらに無視し、数枚の銅貨を少年に手渡す。


「これで足りるわね。あ、帽子も忘れちゃダメよ?」


 少年は銅貨を数え終えると、満足げに顔を上げた。


「任せてください! すぐ用意しますね!」


 彼はそう言って、駆け足で家から出ていく。

 その足音が聞こえなくなってようやく、アメリアは二人の方を振り向いた。


「出掛けるわよ、二人とも」


 アメリアはニコリと微笑む。――が、当然二人は困惑顔だ。


「出掛けるって、いったいどこに……。俺たち今も外出の真っ最中だと思うんだけど……」

「それに今の子供……君とどういう関係だ? そもそも親は? こんな時間に子供が家に一人ってあり得ないだろ!」

「それにミリアって何だよ。なんで偽名?」


 二人は口々に問いかける。

 するとアメリアは一層笑みを深くした。


「まだまだ夜は長いのよ。この姿じゃ目立つでしょ」

「…………」


 二人は顔を見合わせる。


「まったく。君はいったいどんな教育を受けてきたんだ」

「君の家族はこのこと知ってる……わけないか。普通なら許さない」

「あら。ここに付いてきた時点で、あなた方もわたくしと同じですわ。それに心配せずとも散会(ラスト・ワルツ)までには戻ります。それとも、怖気付(おじけづ)きまして?」


 アメリアの笑みに、二人は観念したように息を吐いた。

 彼らも男だ。そこまで言われて引くわけにはいかない。


「いや、ここまで来たら最後まで付き合うさ」

「ああ、なんなら夜更けまででも――女王様」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ