騒音
人生を変えたい孝則が、ある男と出会う
「騒音」
山中千
騒音。
それは、音の罵声と暴力で、半殺し、羽交い締め状態。孝則は、大きな音が苦手。
そんな自分を自覚しつつパチンコ屋に、入店。
無数に襲いかかるド、レ、ミ、ファ、ソ、ラ、シ、のパンチで、タコ殴りの世界。渦。悪天候時の竜巻。春巻きは違う……。
異様な世界観。それを体現出来る。
聴覚に難有りの孝則には、ハードな体験だ。
平日の昼間に行くパチンコには、老人が多くいた。孝則のよう高校をずる休みをしてきているような人は見受けられなかった。
そんな中、孝則が気になる男がいた。年齢は50代、背の低い骨太だった。男は黙々と銀色の玉を打ち続け、人生に退屈を感じているように見えた。様々な人間に憑依した跡、精神をすり減らして生きている、そんな具合だ。
ここのパチンコ屋に通うようになったのも、近くの席に座るようになったのも、全て彼に話しかけたい、と思っていたからだ。
将来自分が何をしたいのか、今の自分のしていることが正しいのか、模索していた。この男ならなにかヒントをくれるはずだ。そう思えてならなかった。
今日も男の一台開けて、座った。
横目で、男の様子を伺う、ボロボロのスポーツウェアを着ているのに、付けている腕時計が高価なものだったりする。
どういう人なんだろう、という好奇心が止められない……。
「おい、小僧気づいとるぞ」
男がぽつり、と呟いた。
焦った孝則は、とりあえず謝った。
「……すみません」
男は、溜息をついた。そして
「そんな格好をしておいて度胸のないやつやのう、チキン野郎が」
初対面に向かって、口が悪いな、と思ったが嬉しかった。SM嬢に鞭で扱かれる下僕のみたいに、孝則は快感を感じていた。
「そうですね、あの、僕の名前は孝則といいます。高校3年です。これまでの人生、うまく行かない事ばかりでした。貴方なら、なにかいいアドバイスを貰えそうだと思って、近くに居ていました。ストーカー同然の行為をしてしまいすみませんでした。」
「……そうか、まずはお互いのことを話し合う必要があるな、付いてこい」
そう言い捨てて、席を離れた。
小僧または孝則は、心躍る思いを抱え、背を追いかけた。
ついた先は、喫煙所だった。
この出会いが、孝則の人生のターニングポイントとなることになる。
男の名は、かの有名作家の方舟星海。本名を佐々木といった。
佐々木さんの煙草を一本貰った孝則の肺は、拒否反応を示し、むせたのだった。
その様子に、佐々木さんは、笑った。
芥川龍之介の戯作三昧をモチーフにしました