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23. ソフィアと馬車に乗って。

 ボストンバッグを抱えて馬車に乗り込んだルイは、着膨れするほど着込んでいた。シャツ、ベスト、ジャケット、厚手のコート。黒いリボンが付いたブラウンの中折れ帽も被り、防寒は完璧だ。


 彼が向かう異国は国土のほとんどが砂漠で、昼は暑く冬は寒い。朝早くに出発しても到着は翌日の夜になる。到着して朝を迎えたら、コートから順番に脱いで暑さを凌ごうと考えていた。


「たかが楽器のために遠い異国へ行くなんて、あなたも変わってますねえ」


 以前から事情を説明しており、きたるその日には異国まで馬を走らせると約束した御者がぼやく。


「ユスティーナさまのためです。僕は彼女のために生きておりますから」

「ははっ、あなたの忠誠心には感服させられますよ。おや? ソフィアさま」


 御者の視線の先には、城から出てきたソフィアの姿があった。ボアコートを羽織り、肩をすくめる彼女は、ずいぶんと寒そうだ。


「おはようございます。どうされたのですか、こんな朝早くに」


 馬車から降りてルイが尋ねると、ソフィアは目を丸くした。開け放たれた馬車の扉を一瞥し、


「なんだか早く目が覚めてしまって、散歩に出ただけよ。ルイこそどうしたのよ。そんな大荷物を馬車に積んで」


 と強い口調で答える。


 昨日は彼女の機嫌が悪く、異国へ出ることを伝えることが出来なかった。執事として、主人のひとりに挨拶をせず城を出るのは望ましくない行動だ。出発前に会えて安心する。


「ユスティーナさまの楽器を買い付けに行くため、異国へと旅立ちます。半月程度、城を空けます」

「異国ってどこ? レオの国に行くならあたしも行こうかな」


 向かう予定の国を告げると、片眉を歪めて素っ頓狂な声を上げた。


「はあ? ユナのためにそこまでするなんて、ルイは本当におかしいわね。いいなあ、あたしもルイみたいに暇だったら、異国へ行ってみたかった」

「ソフィアさまはこの半月、公務やスクールのご予定は特にないと記憶しておりますが。……ともに行きますか?」


******


「まさか突然異国に行くことになるなんて、朝起きたときのあたしには想像もつかなかったわ。てか、ルイには皮肉が通じないのね」


 ソフィアはげんなりとした様子で馬車に揺られている。隣に座るルイは、そんな彼女を気にすることもなく、異国の情報をぺらぺらと話していた。


 見知らぬ異国に興味を示した彼女を誘った後、すぐに荷造りに取り掛かった。砂漠という地形ゆえ、持って行かなければならない服の数は膨大で、馬車の中が荷物で一杯だ。


 念の為、王にソフィアの外出を届け出たが、ルイの予想通り彼はあっさりとそれを認めた。義務を果たしていればそれで良い、あとは自分の知見を深めることに時間を使って欲しい、というのが彼の娘たちに対する考えだった。


 王が時折、「娘たちにも異国の景色を見せたい」と語っていたのを、ルイは知っていた。


 早く目が覚めてしまった、と言ったソフィアは、馬車が十五分程度走ったところで眠ってしまった。馬車の揺れは心地良い。寝不足の彼女には、車輪が砂利を踏む音さえ子守唄に聴こえた。


 ルイは鉄格子越しに、流れる景色を眺めていた。隣国のコーレイン王国が派手な色使いであるように、国ごとに街の景観や文化が大きく異なる。豪奢な造りが目立つ先端の国や、藁で編んだ家々が並ぶ国。


 いつかここで暮らす自分を想像してみても、自分の姿だけが浮いて感じられ、エングフェルト王国から出る気には到底ならない。


 ソフィアの同行によって、馬車で一夜を明かす予定を変更し、道中の宿に宿泊する方針になった。そのため到着は二日後の朝になった。


 車内でソフィアは、寝ているか、スクールの課題をこなしていた。彼女の邪魔をしないようにルイは静かに過ごすまま、目的地が見えてきた。


「ジャングルに囲まれているので建造物は見えませんが、緑が生い茂るあの辺りですね」


 声を掛けたが、ソフィアは何も返さない。お疲れですかと言っても、黙って首を横に振る。


 じっと見ているうちに、彼女はルイのコートの袖をきゅっと掴んだ。


「ルイはいつもあたしたちのために働いてるのに、暇とか言ってごめん」


 やけに険しい表情で謝った。プライドの高い彼女が自分から謝るのは非常に珍しい。ルイはぽかんと口を開ける。


「……なんの話、でしょうか?」

「全然気にしてなかったなら良いんだけど! はあ、もう! 謝って損した!」


 わけが分からないルイを置いてけぼりにして、ソフィアは怒った。この会話以来、ジャングルで馬車が停まるまで、ソフィアは一言も声を発さなかった。

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