戦う運命、守るための訓練。
「はい!皆さんは今!交通事故で死にました!」
ガヤが静まりかえった。
「皆さん、私は政府の人間なのですよお?皆さんは表面的には、状況に応じた死因が割りふてられ、死んだ事になっています。
なぜ、そのような事が出来るかと言うと、これは大王様の指示なのです。」
(だ、大王!?だとう?)
ミケヒロ達が住んでいるこの国はレイシューアという名で、大王といわれる男の親族が、独裁している国である。
何があろうと、大王の指示には逆らえない。
レイシューア民は逆らえないのではなく、大王の一族は非常に有能で、レイシューアという国は、大王によって大きくなれた国と言っても過言では無い。
それ程までに、大王とその一族は凄い存在なのだ。
それゆえ民は、逆らう意思を持たなくなっている。
彼等はこの現実を受け止めるしかなかった。
そして彼等は薄々気付いていたのだ。
多数の人間の為に犠牲となる、
ごく少数の人間に運悪くなってしまった事を。
「...さて、分かってくれましたかあ?皆さんは今日から3か月の訓練をしてもらいます。また具体的な質問などは、実践で戦っている、彼等にきいてください、それでは。」
そういうと、段の上にいた人のリターネア含む若い男女達以外は、扉の向こうへ戻っていった。
そして、スーツ女達が去ったあと、若い男女達は段から直接飛び降りた。
7mぐらいの高さの大ジャンプを全く痛がる様子もなく、着地した。
それを見ていた訓練生達は感覚が麻痺してきたのか、驚く素振りがほとんどなかった。
しばらくして、一人の金髪の男の指導者が言った。
「今日から、訓練指導者としてみっちり鍛えてあげるよ☆」
男は右目を右手の指で下から挟むような形のポーズを取る。
「はーいポチっと!」
その男がリモコンを先ほど降りた段側に向け、ボタンを押すと、大きな扉が開いた。
模様で隠れていて、開く寸前まで気付かなかった。
「みんな、今からそれぞれグループ分けされたリーダーについてきて。」
そして訓練生達は6つのグループに分断される。
それぞれ一人の指導者が担当し、ミケヒロはリターネアの所に所属する事になった。
扉の先は、広間と同じ様な模様が連なっていて、迷路のような分岐と長さを感じる廊下があった。
その先をチーム別で、別々のルートを歩いていく。
ある程度歩いて、チームが独立したように感じたタイミングで、ミケヒロは話した。
「なあリターネア。」
「...何」
「今日も可愛いな。」
「...なんも変わってないわね、貴方。」
「お前も変わってないんじゃないのか?」
「変わったと思うわ。もうあの日常には戻れない、いつも死と隣り合わせの日々だもの。
不思議にも、居心地がいいけど。」
「まあ、少し凛々しくなったかな。前の自己肯定感の低いリターネアも良かったが、今のカッコいいリターネアも悪くない。」
「貴方には少しきつく言ってあげたほうがいいかしらね。」
リターネアは声色を変えた。
「...何?」
「昨日、私達の隊の一人が侵略者に殺された。」
「何が言いたい?」
「もうここは戦場みたいなものってことよ。貴方がふざけていられるのも今の内よ。人型の異質な力を持つモンスターに本気で殺されそうになり、国の為人の為自分の為世界の為、に戦う時にそんな余裕なんて保てない。保てるわけがないわ。」
「どんな場所でも俺ーえのやる事は変わらない。いま生きてくれてたリターネアに感謝してリターネアとその他諸々の為に苦難を乗り越えるだけだ。それに、俺ーえはただふざけてるんじゃねえよ。」
「貴方のそういうとこ、本当に嫌い。」
リターネアの言葉と共にミケヒロ達は、目的地についた。
見た感じ、行き止まりだ。
しかし、リターネアが手をかざすと複雑な幾何学的模様を辿って光りだし、扉となって開くと、大きな金属の外装でできた施設が見えた。
「あそこが訓練場よ。」
また再び歩きだし、
「あーのー、そろそろ質問とかしてもいーですかー?」
小学生高学年ぐらいの小柄な身長、栗毛のロングの少女。
先ほど、質問をしていた女の子だ。
「リターネアさーん、ルトポロアって、どんなのですかー?」
「ルトポロアね。私達が戦ってるルトポロアは、人間の骨格に近く、肌の色がカラフルで触覚が2~3本生えているわ。口は横に開いて、口以外にも体の一部が虫のような生命体よ。そして、非常に獰猛。言語は通じるけど、自己中心的思考で攻撃的、死ぬ寸前まで、人間を殺すために行動するわ。」
話している内にミケヒロ達は建物の扉の前まで来て、
「続きは中に入って話そうかしら。」
ミケヒロ達は中に入ると、また廊下を少し歩き、大きなモニターのある部屋へ連れてこられた。
「説明の続きをするわね、ルトポロアには侵略する時における、とあるルールが存在するの。」
モニターを使って、リターネアは説明する。
「ルトポロアの中には4つの位があり、下から順に下者、平民、実力者、そして王があるわ。」
モニターに映し出されたピラミッド状の図を指をさして説明する。
「下者は、囚人や、周りに嫌われている、単純に弱いなどの理由で、平民より下に位置するわ。そして、実力者とは逆に平民の中から這い上がってきた社会的、経済的、物理的に強い者のことをさすわ。その実力者の中から更に、実力者のような存在が生まれ、そいつがルトポロアという種族全体を支配して動かす。そのような構図になっているわ。
そして、この位は、侵略時にも関係がある。
フェーズが1~4まで存在し、位が下から順に出撃するの。
つまり、フェーズが進めば進むほど、防衛は困難になる。フェーズ別の目的は、
・フェーズ1:相手の戦力を調べるために弱いルトポロアで戦わせる。
・フェーズ2:相手の戦場でフェーズ3に侵略可能になるまで、大幅な敵種族の弱体化を狙う。
・フェーズ3:主なルトポロアの侵略タイミング。
・フェーズ4:最終手段。王が直々に侵略しに来る。
「あーのー、今ってどのフェーズなんですかー?」
「フェーズ1の真ん中、強くはないけど、死人が出ないわけじゃないわ。みんなは恐らくフェーズ1の内に戦場出れるだろうけど、警戒は怠らず、自身の異能力の成長に努めるのよ。」
そして、ミケヒロ達は3ヵ月の訓練に励んだのだった。