お味噌汁をあなたに
「俺のために毎日味噌汁を作ってくれ!」
あんた、そんなプロポーズしたんだよね。
覚えてるかい?
いつの時代よって、思わず笑っちゃったよね。
あんたはむくれてたけど、指輪を受け取ってあげたら、喜びすぎて転んでたよね。
まったく、その頃からそそっかしかったんだから。
でも、その日から、本当に毎日お味噌汁を作ってやったね。
私も意地だったよ。
そういえば、初めてあんたに作ってあげたのも、お味噌汁付きの和食だったね。
あれはね、私の母親が胃袋をつかんでやれって言って、死ぬほど練習したんだよ。
うまかっただろ?
あんたはまんまと胃袋をつかまれてたね。
そんな古くさいことって思ってたけど、母親を信じてみて良かったよ。
「あっちに行ったら、もうおまえの味噌汁を飲めなくなるのか……」
なんて、あんたは病院のベッドでそんなことを言ってたっけね。
「安心しな。
私もいつかそっちに行ったら、また毎日飲ませてやるよ」
って言ったら、
「そうか、それは楽しみだ」
って笑ってたね。
「ほら、あんた。
今日の分だよ」
仏壇にいつも通り味噌汁を供える。
あの人の好きだった、豆腐とワカメのシンプルなやつだ。
なんでこんな面白みのないもんが好きなんだと聞いたら、
「おまえが最初に作ってくれたから」
なんて、バカみたいなことを言ってたね。
あ、そうそう。
私ね、由紀のとこで一緒に住むことになったんだよ。
我が娘ながら、気の強い子だけど、情には厚い子だからね。
1人でいてもつまらないし、お言葉に甘えることにしたんだ。
まあ、孫の世話係が欲しいっていう魂胆に、まんまとのってやることにするよ。
孫はかわいいしね。
旦那の義之さんも、自分は次男だから、お義母さんの面倒は見させてくれだなんて、あんたみたいなこと言ってたよ。
だから、安心しな。
私はこれからも、あんたのとこに行くまで楽しくやるからさ。
また会ったら、その時はお互いに土産話でもしようじゃないか。
あ、由紀たちが来たね。
迎えに行ってくるよ。
優しい微笑みの写真が飾られた仏壇には、微笑んでいるかのような温かい湯気がいつまでも揺蕩っていた。




