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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

男「実体験ってリアリティ出るよな」友「そうだな」

作者: ましろ

男「というわけで怖い話をしようと思う」

友「なんでだよ」

男「いやずっとあっためてた実体験だけど意外と話す機会なくて」

友「俺をダシにすんな」

男「これは俺が一人暮らし始めてしばらくした頃の話なんだが」

友「話聞く気ねぇな」


俺は地方で働くことになり、安アパートを寮代わりに一人暮らし生活を満喫していた。その日は夏も目前に控えた六月下旬で、梅雨明けの晴天ということもあり、一日の休みを丸々使って引越しの荷物の残りやらを片付けていた。すっかり綺麗になった部屋で俺は気持ちよく寝ようとしていた。そこで俺は見てしまった。雑巾掛けしたての床を這いずる黒く素早い不気味な生物、そう


友「ゴキブリじゃねぇか」

男「実体験だぞ。霊とか期待してんじゃねぇ」

友「してねぇわ。ゴキブリはしょうもなすぎるだろ」

男「人類の根源的恐怖だぞ。しかも俺掃除したばっかだったのに」

友「お前の個人的感情じゃねぇか」

男「奴に恐怖を覚えた俺は手近にあった段ボールで奴を抹殺することにした」

友「無視かよ」

男「虫だけに」

友「言ってねぇ」


油断していた奴の頭上にクリーンヒットする段ボール。俺は勝利を確信したが、念には念を入れるため、段ボールの上から奴を踏み潰した。足元から伝わってくる何かの潰れる気配。厚手の段ボールですらそれを封じ込めるには不十分だったのだ。俺は吐き気を堪えつつ考えた。今この段ボールを除いて俺は正気が保てるのか? 間違いなくこの下は悲惨なことになっているだろう。バラバラになった外殻、得体の知れないゲル状の内容物、それらの隙間から覗く毛深い六本の脚。奴の死体を一瞬だがリアルに想像してしまい俺はベッドの上に舞い戻った。夜中にそんなものを見ては確実に精神が持っていかれる。俺は暑い中布団を頭まで被り朝日が昇るのを待つことにした。


友「ヘタレか」

男「誰にでも無理なものはある。だが真の恐怖はここからだ」


奴との一戦を終え、ようやく心拍数も正常に戻った頃、俺は耳慣れない音を聞いた。キチキチキチ……という何か機械的な、ただ同時に有機的でもある不快な音だ。気のせいだろうと思いつつ、先程の死闘を乗り越えた俺の五感は鋭く警告を伝えていた。単純なノイズではない。俺の脳は急速に回転し、以前に読んだ思い出したくもない奴の生態についての一説を引きずり出してきた。奴らはピンチの際に仲間を呼ぶため、鳴き声を上げる、と。俺は総毛立ち、消していた明かりを煌々と灯した。音の中心は完全にあの段ボールの下だった。俺は飛び上がり、再度念入りに段ボールを踏みつけた。虫程度で警察を呼ぶ奴がいると聞いた時はチキンハートにも程があるだろ食物連鎖って知ってるかなどと思ったものだが今理解した。奴らは悪魔だ。人類を滅ぼすために地球が寄越した悪魔だと。俺は段ボールの上でジャンプを繰り返し、若干凹みができたことを確認して床に就いた。


友「必死か」

男「殺されると思った。次の日に段ボールは処分して床はアルコール消毒した。薬局行って忌避剤大量に買い込んで部屋にばら撒いた」

友「必死だな」

男「あれ以来ゴキブリ対策は怠ったことがない」

友「お前んちいつ行っても異常に綺麗だったのはそのせいか」

男「お前はあの鳴き声を聞いたことがないから余裕ぶってられんだ。仲間がいたら俺殺されてたぞ」

友「殺されはしないだろ。ゴキブリの十匹や百匹程度。あっ」

男「えっ」

友「いや、何か黒いのが横切った気がして」

男「お前それ冗談だったら殺すぞ」

友「お前が殺そうとしてんじゃねぇか。いやあれは間違いなくゴキブリだわ。もう見えてるもん」

男「弁当屋の息子よ。そなたこそ選ばれし勇者。奴を倒し世界に平和を」

友「馬鹿なこと言ってんじゃねぇ。武器寄越せ」

男「凍結するやつか? それとも固めるやつか?」

友「スプレーにオプション持たせてんのかよ。なんでもいいわ」

男「全部やる! やるから殺ってくれ勇者よ!」

友「勇者ではねぇ。やっぱ早いな。ちょっと避難してろ」

男「お前……俺もし女だったら惚れてるわ」

友「お前にモテても嬉しくねぇわ。お、これマジで凍ってんの。紙とか持ってない? トイレにでも流すわ」

男「よくやった勇者よ。褒美にこれを授けよう。あとでゴミ箱に捨てといてくれ」

友「勇者の扱い雑すぎんだろ。まあ良いけど。ミスドでも行こうぜ。お前の奢りで」

男「二個までな」

割と実話

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