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26.クリフの捜索(そのよん)

 -王都、中央商店街-


 冒険者御用達の靴屋さんで、歩きやすいと評判の革靴を買った私。久しぶりに歩きやすい靴を履いたこともあり、リベンジの準備は上々です。

 冒険者の革靴と、お嬢様のドレスの絶妙なバランス。外した感じが、逆に上級者のお洒落的な? とにかく楽だし。これから社交界で流行るかもしれない、かもしれない。

 ……昼間のティーパーティーなら、本気で有り? 今度、出入りのドレスデザイナーさんに、ダメもとで相談してみましょう。


「さぁ! クリフを見つけたら、走るわよ」

「…………」


 ともかく、今日の目標はクリフを捕まえること。ルドルフの情報により、商店街の通りから一歩引いたところに隠れながら、クリフを待つ。

 謎のファッションの後押しもあり、なぜか走るのが楽しくなってしまった私は、ストレッチをしながら、テンション高く宣言した。


 勝負のプロは敗因分析から。さっきは短距離走のつもりで、最初から全力疾走してしまったのがダメだったかも。次は、長距離を視野に入れて、余力を持って走りましょう。

 アキレス腱を伸ばしながら、そう決意を新たにしていると、ルドルフが冷たーい目線を、私に送りながら呟いた。


「なにを考えているか分かりませんが、努力の方向が全く違うかと……」

「そんな訳ないでしょ。ルドルフの案より安全だし」


 危険思考のルドルフには、言われたくない。

 大体、この世界、簡単に誘拐だの処刑だの、危険思考の人が多すぎない? 私にとって、安全はなにより大事なんだから。

 なんなら、アムスベルク家の標語にしてもらってもよいくらい。あ、エントランスホールに「安全」って貼ってもらってもよいかも。ちょっと、工場みたいだけど。


 よいアイディアを思いつきましたが、どうですか? そんな気持ちから、溢れる笑顔でルドルフを振り返ると、冷たーい視線のルドルフと目があった。

 あれれ、まだ、そんな冷たい視線を送ってるの? そのうち、王都に氷河期が来ちゃうよ? ひゅるる〜。


「…………はぁ」


 そんな心配から首を傾げる私に、ルドルフの深いため息が聞こえた。そんなため息を吐くと、幸せが逃げちゃうんだぞ?

 まったく困ったものだと首を振りながら、商店街に視線を戻すと、クリフらしき人影を見つけた気がした。


「あ、」

「どうかなさいましたか?」

「いた。あれ、クリフじゃない?」


 よし、今度こそ捕まえてやるんだから。さっきの反省を生かし、見つけたクリフめがけて、静かに走り出した。




 *******




「ちょ……まっ……」


 せっかく静かにスタートしたものの、警戒していたクリフは、先ほどよりよっぽど素早く反応し、逆方向に走り出した。すぐに行動を改善するクリフ、恐ろしい子。


「ゼェ……ゼェ……」

「…………」


 完全に呆れながら追走するルドルフも含めて、再現性の高い事態に、むしろ自分の才能を感じる。

 経験をリピートする。そんな厨二病的な能力を開発してしまったかもしれない、かもしれない。


「ゼェ……ゼェ……」

「ねえねえ。……ちょっといいかな?」


 冗談を言う気力も無くして、ひたすら走る私の横に、気付いたら、冒険者然とした男性が併走していた。

 くたびれた風情なのに、息切れ一つしていないこの余裕。なんなら鼻歌でも歌い出しそうです。

 くっ、それに比べて、ぜえぜえと息切れしながら走る私……なんだか悔しい。

 やはり、もう少し身体を鍛えるべきね。無事帰ったら、クリフと一緒に、毎朝走りましょう。怠惰で勢いだけの私が、続けられるかどうかは別として。


「ねえねえ。ちょっと話を聞いてよ」

「余裕がっ……ありません、……のっ!」


 隣の冒険者然とした男性に、なんとかそれだけ伝える。もう、冒険者さんと呼べばよい気がする。

 困ったような顔をしながら並走する冒険者さんは、悪い人ではない気がする。が、とにかく話す余力がないのです。


「分かった……じゃあ、適当に質問するから、イエスなら手の親指を上、ノーなら手の親指を下、ね」


 なんだか分からないが、私が話す気力がないからと言って、諦めるつもりはない様子。簡単なハンドサインを教えてくれたため、素直に頷いておく。


「で。追いかけてるあの坊ちゃんは、お嬢さんの家族なの?」

「ゼェ……ゼェ……」


 ですです。親指を上に向けて答える。


「ふーん……念のため聞くけど、家族であの坊ちゃんに虐待とかしてないよね?」

「ゼェ……ゼェ……」


 そんなことあるわけないじゃん! 親指に怒りを乗せて、思いっきり下に向ける。


「ははっ。そう怒るなって。お嬢さんは、そういう感じじゃないもんなあ」

「じゃあ。肝心な質問。オレは冒険者な訳だが、お嬢さんはオレを雇う気ある? 報酬によっては、代わりに捕まえてやるぜ?」


 あ、そういう感じ? 本物の冒険者さんでしたか。真剣に話をする気になった私は、いったん、走るのをやめて冒険者さんに向き合った。


「おいおい。あの坊ちゃん、逃げちゃうぜ? いいのかよ」

「ゼェ……ゼェ……」


 ちょっと待って。若干焦っている冒険者さんを手で制し、呼吸が整うのを待ってもらう。


「はぁ……はぁ……」

「はぁ、……雇うならちゃんと、……はぁ……条件を、ちゃんとしたいの」

「なるほどね」


 だいぶ落ち着いてきたので、冒険者さんにしっかり向き合って、希望を伝える。


「とにかく最優先は安全だから。クリフを捕まえるとき、怪我は絶対させないでね」

「へいへい。りょうかい。……で、報酬は?」

「そうね……」


 期待に目を輝かせる冒険者さんに、私は条件を提示した。

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