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25.クリフの捜索(そのさん)

 -王都、星降る丘下交差点付近-


 街を行き交う住民たち、特に妙齢のお姉さま方が、先ほどから立ち止まっては、チラチラと視線を交わし、少しずつ集まってきた。


 その視線の先には、所在なげに立ち尽くす美少年。あまりに儚いその風情に、彼女たちは母性本能をくすぐられていた。

 あの子にご飯を食べさせたい。そしたら、ありがとうって笑顔を返されたりしちゃうかも、……そんな萌え萌えの思考から、誰が最初に声をかけるか、無言のバトルが展開される。


 -貴方が声をかけなさいよ。

 -いや、貴方こそ。


 気にはなるものの、美少年のあまりの美しさと儚さに気後れした彼女たちは、無言の押し付け合いを始めた。

 そんな無言のバトルが繰り広げられる中、美少年は、力尽きたのか、その場に蹲ってしまった。


 弱った小動物のようなその姿。キュンキュンした彼女たちは、鼻血が出そうになるのを抑えながら、あっという間に一致団結し、全員で美少年の前に進み出ることを決断する。

 とりあえず、みんなでご飯を奢ろう。そう声をかけるため、全員で一歩踏み出した、その時。


「ま〜ち〜な〜さ〜あ〜〜い!」


 大声にびっくりして振り返ると、必死の形相をしたお嬢様が、全力で走ってくるのが視界に入ってきた。その目線は、確実にこの美少年を狙ってる。


 庶民には見かけない薄桃色の髪を振り乱し、レースがふんだんにあしらわれたドレスを、お嬢様らしからぬ高さまで掴んで持ち上げている姿。……お嬢様ってなんだっけ? そんな疑問が、彼女たちの脳内を駆け巡った。


 見えている光景を上手く受け止めきれず、硬直していた彼女たちだったが、我に返ったものから順に、散り散りにその場から立ち去り、あっという間に誰もいなくなった。


 -アカン。これは関わったらアカンやつや。


 彼女たちの思考は、美少年に声をかけるとき以上に、一致団結していた。




 *******




「ま〜ち〜な〜さ〜あ〜〜い!」


 ルドルフの道案内でやってきた交差点。多くの人々が行き交うその場所に、クリフを見つけた瞬間、私はスカートをまくり上げ、駆け出した。

 蹲っていたクリフは、びっくりした顔でこちらを見上げてくる。


 瞬きも忘れて、見つめ合う二人……駆け寄る私。


 これって、なかなかロマンチックなシチュエーションでは? 脳内では、想いあった二人が抱き合って、教会の鐘がリンゴンと鳴る風景が繰り広げられる。

 いや、もちろん、本人の同意なく、抱きしめたりはしませんけどね? 恋人同士でもないですし?


 内心のふふふな思考に、によによと言い訳しながら走る私。……しかし、ダンスで鍛えたとは言え、ここまで全力疾走すると、流石にぜえぜえする。

 ぜえぜえ走る私の後を、ルドルフは平然と着いてくるのが憎らしい。くっ、この走りにくい靴でさえなければ……


 あっという間にぜえぜえ言いはじめた私を見て、ようやく事態を理解したクリフは、無言で立ち上がると後ずさり、逆方向に全力で駆け出した。


「えっ……ちょっ……まっ……」


 息切れした私には、すでに大声を出す気力もなく、あっという間に小さくなったクリフを見て、諦めて足を止めた。


「ゼェ……ゼェ……」

「…………」


 呆れたようなルドルフの、無言の圧力がつらい。とりあえず、無視して、息を整えることに集中する。


「はぁ……はぁ……」

「…………」


 淑女らしからぬ呼吸音がだいぶ落ち着いて、息切れはしているものの、女性らしい息切れ、と言えるまでに回復してきたので、ルドルフに声をかける。


「ルドルフ、……次の、……はぁ……出会いポイント、教えて」

「…………」

「なによ」


 ものすごく不満そうなルドルフの空気を感じ、頭を上げて問いかける。


「いえ。ただ、……貴重な情報を、完膚なきまでに無駄に消費するお嬢様に教えたくない。そう強く思いまして」

「ええ? 私、今、めっちゃ頑張ったよね?」


 人生初と言えるくらい、全力疾走しましたけども、なにか。


「せっかくこちらに気付いていなかったクリフ様に、大声を上げて気付かせるとか……」

「もう! じゃあ、ルドルフならどうやったのか教えてよ。私より上手に、捕まえられるんでしょ?」


 不満たらたらのルドルフに、アイディアを募る。すごくよいアイディアなら、採用しないこともない。


「そうですね。まずは、気付かれないように背後に立ちます」

「ふむふむ」

「睡眠薬入りのハンカチを押し当てます」

「えっ?」

「昏倒したところを、念のため手足を縛ってから、家の者を呼び、馬車に乗せて帰ります」

「ええっ?」


 いやいや、なんだその物騒なアイディアは。犯罪臭しかしない。

 ルドルフは完全な計画、とでもいいそうな顔をしているが、それ、ただの完全犯罪ですから。


「却下で」

「なぜですか?」

「いやいや、誘拐じゃないんだから。睡眠薬とか使っちゃダメでしょ。大体、その薬、安全なの? まさか、今、本当に持ってるとか言わないよね?」

「もちろん持っております。自分でも試したことがありますが、後遺症の残らない高品質のものですから、大丈夫です」

「……いや、見せなくていいから」


 なにが大丈夫か分からない。使ったことがあるってことも、子どもの捜索で睡眠薬をポケットに忍ばせるなんて行動も、意味不明すぎる。

 ルドルフに任せたら、クリフの安全が心配すぎる。そう考えた私は、ルドルフには頼らない、そう決断して話しかけた。


「……分かった。ルドルフの案は却下して、私が頑張ることにする。だから、私に、次の出会いスポット教えて?」

「…………」

「うん。確かに、最初に大声出すのは良くなかったかもね。後、走れる靴を買うよ。ヒールのある靴で追いつけると思ったのは、間違いだった」

「…………」

「もう。こんなに反省してるんだから、いいでしょ。ほら、いいから出して」

「……承知しました。……では、まずは靴屋に参りましょうか」


 とてつもなく不満です。ルドルフは、そんな顔になりながらも、道案内のために、しぶしぶ歩き始めた。

 いやいや、むしろ、犯罪に手を染めないで済んだことを、私に感謝しなさいよね。

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