表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
23/29

23.クリフの捜索(そのいち)

「いいよー」

「ほへ?」

「だから、いいよーって言ったの。ルドルフと一緒に探しに行っておいで。あ、うちの家のが見つけたら、すぐにフィーに伝えたいから、常に場所が分かるようにだけ、しておいてね」


 朝食の席で、アムスベルク侯爵を説得するつもりで、前のめりでクリフを探しに行きたいと伝えたところ、これである。

 あれあれ? 私のこの前のめりな気持ちはどこにやれば? 力強く協力を申し出てくれたルドルフの出番は無い訳ですか?


 あまりに簡単に許可が出たことに肩透かしをくらい、逆に不満顔をしてしまった。


「ふふっ。フィーの望みどおりなのに、何が不満なの?」

「あ、いえ。不満というか、もうちょっと反対されるかなーと思っていたので、意外だったというか」


 侯爵に笑われ、慌てて言い訳をする。


「元々、クリフを見つけたら、迎えに行くのはフィーに頼もうと思ってたんだ。僕が行くと嫌がるかもしれないし……」


 アムスベルク侯爵は、声をだんだんと小さくしながら呟いた。 


「大体、……みんな、ちょっと僕に冷たくない? 僕なりに優しくしてるつもりなのに、クリフは出てっちゃうし、フィーはうちを継ぎたくないって言うし……」

「あ、いえ……あの、お父様は、とっても優しいですよ? たぶん。クリフも、お父様が嫌になって出て行った訳じゃないと思います、たぶん。」


 なんだかしょんぼりしてしまったアムスベルク侯爵を、慌てて慰める。根拠は特にない。


「うわーん。フィーが優しい! よしよししてあげるから、僕のお膝においで?」

「遠慮します」


 泣き真似を始めた侯爵を、能面のように感情を捨てて切り捨てる。もう、そういうお年頃じゃないです。というか、イケメンな侯爵のお膝に座るって、どんな罰ゲーム……


「えー? じゃあ、アムスベルク家を継いでくれる?」

「遠慮します」


 能面のようになった顔を、ますます硬くしてきっぱりと断る。お膝に抱っこの次の選択肢が、侯爵家継承って、ますますどんな罰ゲーム……


「そっか、残念。まあ、その辺はおいおいね」


 おいおいでも遠慮します。そんな私の冷たい空気を気にする様子もなく、侯爵はマイペースに食事を終え、ナプキンで口を拭うと立ち上がった。


「先生方には、僕から謝っておくから。……マダムも、我が家の事情で申し訳ありません。本日はお帰りいただけますか? マダムのお宅を経由して仕事に行きますので、このまま私の馬車で送らせてください」


 侯爵がスマートに手を差し伸べると、これまた優雅に手を乗せるマナーのマダム先生。おお! これで、今日の朝食は、自由に食べれるぞー。やほーい。


「光栄です。……ルドルフさん。本日のお嬢様の様子、後ほど、きちんと報告してくださいね」


 解放されて内心浮かれている私を見逃さず、ルドルフに声をかけるマダム。今日の開放感が、ぷしゅうと小さくなった。顔に喜びを出さないようにしてたのに、なぜか警戒されている様子。ちゃんとお嬢様らしく振舞うのに。なぜだ。


「ルドルフ。フィーのこと、僕にも報告よろしくね。後、日中なにかあったら指示できるように、執事を家に待機させておくから、何かあったら家に連絡してね」

「すべて承りました」


 侯爵からもルドルフに声がかかる。ルドルフは、侯爵とマダムに恭しく礼をした。


 ……しかし、私への信頼度に比べて、このルドルフの信頼され感。日頃の行いの差でしょうか。いや、私、頑張ってるよね?


 ね、頑張ってるよね? という意味を込めて、控えていた侍女に振り向き、目線を送る。侍女は、一瞬目線を泳がせたが立ち直り、私に向かって、にっこり笑ってくれた。うんうん。私、頑張ってるよね。


 にっこりの意味を前向きにそう捉え、一人になったテーブルで、朝食を美味しくいただいた。




 *******




 朝食を終え、急いで部屋に戻る。一人で好きなように食べられる。そのあまりの開放感に、ついたくさん食べて遅くなってしまった。すまん、クリフ。

 部屋に戻ると、くるりとルドルフに向き直り、改めて確認をとる。


「ルドルフ。これから、この部屋で見ることは、お父様への報告禁止ね」

「心得ております」


 ルドルフの淀みない答えに、ほっと一息つくと、あの攻略情報ノートの隠し場所を伝える。


「じゃあ、悪いんだけど、そこの机の奥の、……そう、そこのはめ板を外してくれる? ……あ、ちょっと待って!」


 うっかりしてたけど、ルドルフが触って呪われたりしたらまずい。そう思い出して、慌てて止める。


「あの、……触る前に確認したいのだけど、ルドルフって呪いに詳しい? そのノートなんだけど、……それ、呪われてると思う?」


 おそるおそるそう聞くと、ルドルフは、ノートを取ろうとしていた手を止め、少し考えて、私に向き直る。


「あいにく素養はございませんが。……このノート、すでにフィーお嬢様は、触れているのですよね?」

「そうなの。私の呪いが移るかもしれないから、触らないほうがいいかな? あんまり触りたくないんだけど、不安なら私が開くよ」


 もし呪われてるなら、ルドルフは触らないほうがいいかも。そんな提案をした私の顔をじっと見た後、ルドルフはひょいっとノートを手に取った。

 え? いやいや、そんな適当に扱ったら、元のお嬢様の生き霊が出てきて怖いことになるかもよ?


「あのー……もうちょっと丁重に扱ったほうがいいんじゃない? なにか怖いことが、起こるかもしれないでしょ」


 不安そうに声をかける私を少し面白そうに眺めた後、ルドルフは、ノートをパラパラと振り回しながら答えた。いやいや、そんな扱いしていいの?


「呪い、というと闇の魔術の一種ということになると思います。私に闇属性の素養はありませんが……」

「日々楽しげにすごしておられるフィーお嬢様が、実は呪われているということだけは絶対に無い、と確信を持って言えます」


「……なんだか、バカにしてるように聞こえるんだけど」

「しておりません。フィーお嬢様が、明るくて逞ましいというお話です」


「……逞ましい令嬢ってありなの? まあ、褒めてると言うなら、大人しく受け取っておくけれど」

「もちろん。褒めておりますよ」


 むー……私が逞しいかどうかは大いに反論したいが、ルドルフがノートが怖くないというなら、ありがたい。

 私は二度と開く気になれなかったので、遠慮なくルドルフに触ってもらおう。


「じゃあ、まあいいわ。でね、そのノートなんだけど」

「フィーナへ、と書いてありますね」


「そう。ゾフィーお嬢様が、身代わりになる私のために色々と書いてくれたノートなの。だけど、なんだか、お嬢様の恨みつらみが重くて……」

「正直、私一人では、一生読む気になれなかったから、ルドルフが呼んでくれるなら、助かる」


「なるほど?……ちょっとよく分からないのですが、ゾフィーお嬢様の、恨みつらみが書き連ねてあるノートに、クリフ様を捜索する手がかりが書いてあると?」

「多分ね。いいから、少し読んでみて」


 ルドルフは、私の提案に大人しく従い、パラパラと読み始めた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ