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20.クリフの父?

 私とクリフの教育が順調に進んでいた、ある日の朝。エントランスホールが、ザワザワと騒がしいのに気がついた。


 何事?! と気になってしまい、侍従ルドルフを伴ってやじ馬気分で覗きに行くことにした。


「だから、アムスベルク侯爵にちょっと会いたいだけなんだよ! 直接歩いていくから、そこどけよ!」

「あ、お待ちください。勝手に歩かれては、困ります!」


 おおー。この家ではなかなか見ない、粗野な振る舞いさんですね。侍女を含めて、この家の使用人たちは、普段と勝手が違うのか、強気に出れない様子。わらわらと周りに集まるものの、行動を阻止するまでには、至っていない。


 こ、これは、大捕物的な? むしろ、私が裏口から外に逃げて、警備隊でも呼びに行く的な??


「……フィーお嬢様。柱の影から覗くのは、淑女らしくないかと」


 突然、降って湧いた自分の重要な役割にワクワクしていると、私の後ろにいたルドルフが、静かにそう指摘してきた。


「もう、ルドルフ! 静かにしないと気付かれてしまうでしょ。そんなことより、私たち、警備隊を呼びに行くべきかしら?」


 ひそひそ声でルドルフに注意しながら、柱の影に引っ張る。こっちに気付かれたら、通報できないではないか。


「……フィーお嬢様。通常、貴族は、家の事情に警備隊を踏み込ませません」


 ルドルフは、せっかくの私のワクワクをばっさり切り落とす。


「えー、でも、だったら、あの粗野な振る舞いさんはどうするの?」


「通常、ああいった輩は、門番が決して家に入れませんので。入れるだけの根拠をお持ちなのでしょう」


 あ、普通は門前払いな訳ね。そりゃそうか。つまり門なら屈強な人が対応できるけど、家に入れちゃうと、紳士な振る舞いにしか対応できないと。

 うーん、粗野な振る舞いさん、長いので略して、粗野さんは、どんな根拠を持ってるんだろうか。


「何しに来たんだよ!」


 おっと、ここで、新たな登場人物として、クリフが参戦してきた模様。


「おお、クリフ! ちょうどいいところに来た。アムスベルク侯爵にちょっと会いたいだけなのに、邪魔されて困ってたんだ。お前がなんとかしてくれよ」


 粗野さんは、クリフに近づくと、肩にポンと手をかけようとしたが、クリフは全力でそれを振り払って叫んだ。


「触るな! 侯爵様が、いちいちお前になんて、会う訳ないだろ? 今すぐ帰れよ!」


 おおっと、これは、クリフの新たな一面が出ています。この家に来て、あんな怒っているクリフを見たことがあったでしょうか、いや、ないですね。これが、初めてではないでしょうか。


 これは、獣的な男らしい一面でしょうか? いや、それよりは、犬のキャンキャン的な、むしろ可愛いの延長? そうですね。今、ジャッジから、可愛い認定が出ました! いやー、可愛い道は奥が深いですね。


 ハラハラと見守る侍女たちの中にも、キュンキュンしている子がいるに違いありません!


「フィーお嬢様……心の声が漏れてます」


 カーンとゴングが鳴った気持ちで、プロレス実況風に叫んでいた心の声が、出てしまっていたらしい。ルドルフに指摘され、慌てて両手で口を塞いだが、クリフに睨まれてしまった。


 興奮のあまり、柱の影に隠れることを忘れていた。流石に、今の小声は届いてないと思うけど、つい面白がってしまったのが伝わったかもしれない。

 ルドルフに振り返り、セーフかどうかを目線で確認すると、首を振られた。ふむ、アウトですね。わかりました。後で謝りましょう。


「これはこれは。ようこそ、ヴェルガー男爵。本日は、先ぶれもなく、いかがされましたか?」


 奥から、執事に呼ばれたのか、アムスベルク侯爵が優雅に現れた。


「アムスベルク侯爵! いやー、会えてよかった。実は、急に用立てないといけない事情が出来ちまったもんで」

「我が家は、便利屋ではないんですけどね。まあ、奥で話を聞きましょうか。ほら、君たちは自分の持ち場に戻りなさい」


 侯爵がパンパンと手を叩くと、集まっていた使用人たちが、それぞれの場所に散っていった。


「侯爵様! 僕も同席させてください!」

「ダメー。子どもは、子どもがやるべきことをこなしなさい。もうすぐ、家庭教師が来る時間でしょ?」

「っ!……はい……侯爵様。分かりました」


 クリフの反応を待ってから、侯爵は粗野さんを引き連れて、その場から優雅に立ち去った。


「……ヴェルガー男爵といえば、クリフ様のご生家ですね」


 万能辞書の侍従ルドルフが、私に、小さな声で説明してくれた。クリフは、侯爵と男爵の二人が見えなくなっても、消えた方向をキツイ目線で睨み続けていた。

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