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13.間話:アムスベルク侯爵

「なんてことだ……」


 大切な14歳の誕生パーティー当日、私の娘ゾフィーが家出した。ゾフィー付きの侍女フィーナの響き渡る悲鳴に、執事と顔を見合わせた私は、慌てて娘の部屋に向かった。もぬけの殻の部屋からは、一遍の手紙だけが見つかった。


 -旅に出ます。探さないでね。

 ゾフィー=アムスベルク


 どうして、わざわざ誕生パーティー当日を狙ったのか。今日は、第二王子のフィリップ殿下も訪れる特別な日、やり直しはできない。一体どうすれば……椅子に力なく座り込み、呆然としてしまった。


 今日、この危機をどう乗り越えるか。悩む私の目に、ふと、震えながら跪いている、侍女フィーナが目に入った。そのとき浮かんだ、娘の家出すら霞んでしまう、乱暴なプラン。乱暴に思えるそれを、忙しなく頭の中で整理しながら、侍女フィーナを近くに呼び寄せた。


 私の考えた乱暴なプラン。それは、侍女フィーナに、誕生パーティーで娘役をやらせようというもの。考えれば考えるほど、悪くない案に思えた。フィーナには、娘の希望もあって、ずっと一緒に教育を受けさせていたから、ダンスも礼儀作法もできて都合がいい。……いや、あまりにも都合がよすぎる、か?


「そっか……」

「……フィーナ。ゾフィーがきみを孤児院で見つけて、側に置きたいと言い出した5年前から、今回の件は本気だったのかもしれないね」


 もしかすると、ずっと前から、愛する娘はこの家を捨てるつもりだったのか。自分が呟いたその考えがすとんと胸に落ち着いて、ずきっとした痛みを生み出した。


 フィーナに入れ替わりを提案すると、提案した最初こそ怯えていたものの、意外と腹が据わっているのか、覚悟を決めたのか、入れ替わりの条件をつけてきた。それで前向きに取り組めるというなら、多少の無理は聞いておこう。


 しかし、郊外に住むところと資金なんて、必要ないとおもうんだけど。これって、誕生パーティーが終わったら、私が切り捨てるとでも思っているのかな?


 今まで冷酷な言動を、したつもりもないんだけど……フィーナが成長したら、よい嫁ぎ先でも見つけようと思っていたのに、娘に続いて、フィーナからも信頼されていないようで、悲しい気持ちになった。


 まあ、今日はとにかく気を強くもたないと。気を取り直してフィーナと契約の魔術を交わすと、使用人たちが集まっている広間に急ぎ、上位貴族だけ行使できる、記憶を上書きできる魔術をかけた。さあ、これでフィーナはゾフィーになり、今日の誕生パーティーの主役になった。……そして、この家に娘が戻ることはできなくなった。


 そう、もう私も、この侍女フィーナを、()()()()と呼ぶべきなんだろう。


 なんとか開催にこぎつけた誕生パーティーは、無難に終わらせることができた。もちろん、侍女意識が抜けきれず、無意識に、来客に低姿勢になってしまうゾフィーにはヒヤヒヤしたが、私の娘だって、気に入らないことがあればお皿を割ったりして、周囲を引かせていたかもしれない。


 今日は、足りないものではなく、ゾフィーが無難にパーティーの主役をこなしてくれたことを、喜ぼう。




 *******




 ゾフィーは、パーティーが終わると、三日も寝込んだ。無理をさせて体調を崩したかと慌てたが、寝ている様子を診てもらった医者によると、単に寝ているだけとのこと。


 体調を崩していないことにほっとしたものの、だいぶ無理をさせた自覚はあったので、侍女たちには、このまま自然に起きるまで休ませるように、と指示を出した。


 さて。まずは、娘の捜索。……といっても、この家に娘の居場所が無くなってしまった現状、ほかの居場所を確保してからでなければ、迎えに行くことはできない。見つかったら、安全に暮らせているかを確認して、大丈夫そうなら、しばらく遠くから見守るか。


 どちらにしても、私を避けて逃げたのだったら、私の話なんて聞いてくれないかもしれないし……まったく、母親を早くに亡くして、不憫なあの娘を、私も盲目的に可愛がりすぎたのかもしれない。娘の帰る場所を無くしておいて、こんなことを言う資格はないけれど、それでも、これから幸せになってほしいと願った。


 後日、目を覚ましたゾフィーに、婚約者のことを相談したら、想像もしていなかったのか、侍女に戻りたいとか、一生独身ではダメなのかとか、第二王子は死んでもいやだとか、娘の身代わりを頼んだときより、よっぽど強く拒絶された。


 その理由が、恋をしたいとかいう、夢みがちなものだったから。


 ゾフィーが退室した後、この事態を誰より早く受け止めてそんな夢を呟く、彼女の意外な強さが頼もしくも面白く、久しぶりにひとしきり笑った。


 この突飛な入れ替わりも、彼女なら上手くやってくれるんじゃないか。この事態に陥って初めて、そんな前向きな気持ちになった。

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