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天界からの手紙  作者: 野田智子
第一章
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4話 姫君の魂、明日を待つ

ユキは自宅へ帰った。


シュウヤは自宅まで送りたい、と言ってくれたが、


名残惜しくなると、決断をためらう可能性があるので、玄関先で別れることにした。


別れ際のシュウヤは、覚悟を決めたような表情で、


「例えユキが、どんな状況にあろうとも、俺はユキを信じてる。」と言ってくれた。


悲しむこともなく、笑うこともなく、ただ、真っ直ぐとユキを見ていた。


まるで、自分事のように考えてくれたようだった。


その姿はとても男らしく、頼りがいのあるように感じて、とても嬉しかった。


―――――――ほんのちょっとの安心感。


シュウヤに相談してよかった。と思った。


時計の針が、16時を指した。


決断をためらう。ということは、自分自身でも、何か戸惑いがある。ということなのではないのだろうか。


いや、決断とは、勇気あっての行動であり、ためらいは必ずしも伴って同然である。


ユキは自分自身で自問自答をした。


自宅の玄関先で、空を見上げる。


オレンジ色に染まる空。もうすぐ西へ太陽が沈む。


時間は刻々と、そしていたずらに迫っている。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


カイは、既に下界に降り立っていた。


カイの容姿はおおむね、ヒトの形をしているが、肌は白く、白髪であった。


背中からは、体より大きな翼が生えており、空を飛ぶことができる。


カイは空から現代の街を眺めた。


瞳は切れ長で、すっと通った鼻筋、唇は薄く、印象としては整った、美しい顔立ちと言える。


表情には暖かみは感じられず、とても冷ややかであった。


カイは、天界に使える者である。


天界には、(ぬし)という存在がいて、人間の助けとなるべく、見えない力で救いの手を差し伸べるわけだが、時よりの命で、こうして天の使いを出し、人間の元に送り出す事もある。


「主の考えていることは未だ、理解しきれぬ。」


カイは、下界に飛ばされると同時に、主から、"助けの書"を授かっていた。


助けの書には、今回の主からの命と、詳細な内容について書かれていた。


主からの命は”地球に存在する、姫君を見つけ天界に呼び戻せ。”というものであった。


「姫君、とは一体どこの姫なのだろうか。」


きっとその人間も、自分が姫君である、ということを自覚してはいないだろう。


魂が転生するのは事実だ。だとしたら、そのいつしかの「姫君」の魂が、この地球上にて存命している。ということになるのだろうか。


”人間”という生命体は現世に生きる記憶のみで生活しているため、見つけ出すのは非常に厄介だ。


主からは、

―――――心配無用。その姫君には事前に手紙を差し出しておいた。少々の困惑はあるだろうが、姫君の魂だ。鋭い勘が働くに違いない。


姫君の魂は、強大な力を携え、人間という箱が灰となれば、新しい箱に宿り、何度だってよみがえることができる。その力は計り知れないほどだ。無論、無限の可能性を秘めているため、詳細な事は伝えかねる。


確実なのは、姫君の魂は、この平和な現代に存命するのだ。つまるところ、現代に生きる人間対して、悪なる影響を及ぼしているとは到底思えん。


今でものうのうと生きているだろう。では、カイよ、無事を祈る。――――


そう書かれていた。



地球では、”人間”という生命体が主軸となって活動している。

そして、それに見合うように、カイの容姿は変化(へんげ)することができた。


また、助けの書の他に、主からは”変幻の牙(へんげんのきば)”を授かっていた。


現在は、カイの口内に溶けている。


本来ならば、カイの体内であればどこでも溶け込ませることは可能だが、何の気の迷いか、消える瞬間に、主がカイの口の中にぶち込んだのである。


理由は、そのシラけた面が少々ムカついたのだ。と綴られてあったが、主の本質がますます理解できなかった。


”変幻の牙”は、天界の主に仕える、ペガサスの牙でできている。


失くせば天界に戻ることはかなわんから覚悟せよ。と、こうも書かれてあった。


―――――――――――――しかし、


カイは、主の言葉が脳裏に焼き付いていた。


カイよ、一つ約束をしたい。今回の(めい)はお前の(いのち)に関わる可能性がある。それでもなお、人間の為に我が身を差し出す事は出来るか。



我が身を差し出す事...。


この平和な現代に、なぜ、自分の命の危険が迫っているのだろうか。


姫君の魂と何の関連があるのだろうか。


しかし、現代に外的影響を及ぼすことはない。と仮定している、姫君の魂。


とにかく、多少手荒であってもすぐに見つけ出し、天界に連れ戻せばよい、と、カイはそう思った。


時計の針が、19時を指した。


迎えは明日。一旦天界に引き返すことにするか。


カイは翼を翻し、天界へ向かうべく空へと消えて言った。


西日は完全に落ちていた。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


ユキは飽きることなく、手紙に目をやっていた。


今朝には感じなかった。引き込まれる何か。手紙には何かこの世のものとは思えない力が宿っているような、そんな気配さえも感じていた。


相変わらずソファの周りには、本が煩雑に散らばっている。


明日。迎えに来るのか。


姫君って一体何のことなんだろう。


未来は創造できるが、予想は出来ない。分からないことには不安が宿る。


ユキは、これから起こることに対する不安が募り、夜も眠ることができなかった。


しかし、時は止まらず、必ずしも経過する。


これが当然であり、必然なのである。





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