2話 青春の1ページ
シュウヤとは、大学時代に出会ったユキの彼氏である。
初めての講義で、隣の席になり、シュウヤと出会った。
当時はお互い、まさか発展するとは予想もせず、慣れない大学生活の中、初めて出会った人として、とにもかくにも、連絡先を交換したのであった。
そこからは特に意識もせず、段々とユキにも友達が増え、何事もなく楽しい大学生活を送っていたのである。
きっかけは、大学二年、秋の文化祭であった。
文化祭にはジンクスというものが存在した。
後夜祭の最後に、打ち上げ花火を上げることが毎年恒例のイベントとなっている。
最後の花火が終わると、すべての照明が消え、あたりが真っ暗になる。
そこで、静かなオルゴールが流れ、曲が終わると閉幕となるのだが、
曲が終わるまでに、近くにいる人とリストバンドを交換すると、関係が長続きする。というものであった。
ジンクスに興味がなく速やかに撤収する者や、前々から交換の約束をしている者もいた。
ユキは、どちらかというと興味がなかった。
しかし、ジンクス。という言葉にはいささか興味があったのである。
特に約束をしていたわけではなかったが、少しだけ、後夜祭の余韻を味わっていた。
あたりは暗く、夜空には星が瞬いていた。
興味本位で、空へ手を伸ばしてみる。夜空の距離はきっと変わらず、逃げられているわけでもなく、ただ手を伸ばしたところで、全く持って届かない存在だと感じたとき、切なさがよぎる。
力なく、伸ばした手が何かをつかむように握る仕草をした後、ユキは手を静かに降ろし、そっと目を閉じた。
余韻を惜しむ人のざわめき、撤収する人の気配、ジンクスに喜ぶ歓声、ひやかし、そしてそのすべてを表情も変えずに見守る、夜空の星。
そろそろ帰ろうかとゆっくりと目を開けると、目の前にシュウヤが立っていた。
「...ユキさんですか?」
ユキは驚いて瞬きをした。
「やっぱり!あの時、初めて講義を受けた時、隣の席だった、ユキさんですよね!久しぶりですね。覚えていますか?」
シュウヤはクシャっと笑った。
ユキは勿論覚えていた。シュウヤの問いかけに、動揺して何回か頷いた。
シュウヤはまた笑って、右手のリストバンドを見せてきた。
ユキは、自分の手にあるリストバンドを見た。
「シュウヤくん、あの...。」
シュウヤは黙って自分のリストバンドを差し出した。
「これ、ユキさんに。偶然ってあるものなんですね。しかも2回も。」
ユキは受け取りながら、シュウヤの目を見て、「ありがとうございます。」といった。
そして、自分のリストバンドをシュウヤに差し出した。
「私も、これ、シュウヤくんに。」
「いいの?」シュウヤは驚いた表情を見せた。そして、
「ありがとう。」と、またクシャっと笑った。
...。
少しの沈黙が続いた。
「あの、さ」
シュウヤが口を開いた。
「俺、今日、ユキさんにこのリストバンド渡せればいいな、と思っていたんだ。」
ユキは驚く。
「初めて講義を受けた日、覚えてる?あの時はユキさんって真面目なんだなぁ。って印象でさ、俺、全然友達とかいなかったから、また、話せたらいいなって思ってたんだ。」
シュウヤはユキの目を見た。
ユキは黙って頷いた。
「だけどなぜか、1年たった今でも、講義を受けるとき、思わずユキさん探すようになっちゃってて、また会って、隣の席に座れるんじゃないかなっていつも期待してたんだよね。」
シュウヤは、笑って、「でも、全然だめっだったけどね。」といった。
ユキは、この1年の間、シュウヤが自分のことを探していた、という言葉にクスリと笑った。
ユキは空を見上げた。
「シュウヤくん、あのね、私のお父さんが昔、本当に思ったことって現実になるって言葉、教えてくれたんだ。」
シュウヤは少し目を丸くして、ユキの話を聞いた。
「シュウヤくん、きっと、私ともう一度、再会できたらいいなって思ってたんだろうなって、そしたらなんか凄くうれしい気持ちになってね。」
「...だから、ありがとう。」
ユキのほほえみに、シュウヤは思わず赤くした。
「ユ、ユキさん、あの、俺、、、」
ユキは首をかしげる。
「もしよかったら、今度いろいろお話しませんか。この1年間で、ユキさんが経験してきた、大学生活、もっと知りたいなって思って。」
ユキは少し驚き、そのあと優しくほほ笑んだ。
「勿論だよ。シュウヤくんの話も聞かせてね。」
シュウヤは黙ってただ、頷いた。
二人で見上げた空は、より一層星が瞬いていたのであった。
それから、何度か食事を重ねていくうちに、シュウヤの方からユキに告白したのである。
ユキは、運命という言葉を知っていた。
人生の選択は、時には悩むことも必要だが、一方で直感がすべてを解決する時もある。悩んでいるうちは前に進まないも同然と考えていた。
人生は、選択の連続であり、”今”という結果が、かつて選択してきた点と点の繋がりでもある。
従って、シュウヤと交際することには、なんの迷いもなく、承諾をした。
お互い大学を卒業し、今ではそれから2年が経つ。
そんな矢先の出来事であった。