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天界からの手紙  作者: 野田智子
第一章
2/6

2話 青春の1ページ

シュウヤとは、大学時代に出会ったユキの彼氏である。


初めての講義で、隣の席になり、シュウヤと出会った。


当時はお互い、まさか発展するとは予想もせず、慣れない大学生活の中、初めて出会った人として、とにもかくにも、連絡先を交換したのであった。


そこからは特に意識もせず、段々とユキにも友達が増え、何事もなく楽しい大学生活を送っていたのである。


きっかけは、大学二年、秋の文化祭であった。


文化祭にはジンクスというものが存在した。


後夜祭の最後に、打ち上げ花火を上げることが毎年恒例のイベントとなっている。


最後の花火が終わると、すべての照明が消え、あたりが真っ暗になる。


そこで、静かなオルゴールが流れ、曲が終わると閉幕となるのだが、


曲が終わるまでに、近くにいる人とリストバンドを交換すると、関係が長続きする。というものであった。


ジンクスに興味がなく速やかに撤収する者や、前々から交換の約束をしている者もいた。


ユキは、どちらかというと興味がなかった。

しかし、ジンクス。という言葉にはいささか興味があったのである。


特に約束をしていたわけではなかったが、少しだけ、後夜祭の余韻を味わっていた。

あたりは暗く、夜空には星が瞬いていた。


興味本位で、空へ手を伸ばしてみる。夜空の距離はきっと変わらず、逃げられているわけでもなく、ただ手を伸ばしたところで、全く持って届かない存在だと感じたとき、切なさがよぎる。


力なく、伸ばした手が何かをつかむように握る仕草をした後、ユキは手を静かに降ろし、そっと目を閉じた。


余韻を惜しむ人のざわめき、撤収する人の気配、ジンクスに喜ぶ歓声、ひやかし、そしてそのすべてを表情も変えずに見守る、夜空の星。


そろそろ帰ろうかとゆっくりと目を開けると、目の前にシュウヤが立っていた。


「...ユキさんですか?」


ユキは驚いて瞬きをした。


「やっぱり!あの時、初めて講義を受けた時、隣の席だった、ユキさんですよね!久しぶりですね。覚えていますか?」


シュウヤはクシャっと笑った。


ユキは勿論覚えていた。シュウヤの問いかけに、動揺して何回か頷いた。


シュウヤはまた笑って、右手のリストバンドを見せてきた。


ユキは、自分の手にあるリストバンドを見た。


「シュウヤくん、あの...。」


シュウヤは黙って自分のリストバンドを差し出した。


「これ、ユキさんに。偶然ってあるものなんですね。しかも2回も。」


ユキは受け取りながら、シュウヤの目を見て、「ありがとうございます。」といった。

そして、自分のリストバンドをシュウヤに差し出した。


「私も、これ、シュウヤくんに。」


「いいの?」シュウヤは驚いた表情を見せた。そして、

「ありがとう。」と、またクシャっと笑った。


...。


少しの沈黙が続いた。


「あの、さ」


シュウヤが口を開いた。


「俺、今日、ユキさんにこのリストバンド渡せればいいな、と思っていたんだ。」


ユキは驚く。



「初めて講義を受けた日、覚えてる?あの時はユキさんって真面目なんだなぁ。って印象でさ、俺、全然友達とかいなかったから、また、話せたらいいなって思ってたんだ。」


シュウヤはユキの目を見た。


ユキは黙って頷いた。


「だけどなぜか、1年たった今でも、講義を受けるとき、思わずユキさん探すようになっちゃってて、また会って、隣の席に座れるんじゃないかなっていつも期待してたんだよね。」


シュウヤは、笑って、「でも、全然だめっだったけどね。」といった。


ユキは、この1年の間、シュウヤが自分のことを探していた、という言葉にクスリと笑った。

ユキは空を見上げた。


「シュウヤくん、あのね、私のお父さんが昔、本当に思ったことって現実になるって言葉、教えてくれたんだ。」


シュウヤは少し目を丸くして、ユキの話を聞いた。


「シュウヤくん、きっと、私ともう一度、再会できたらいいなって思ってたんだろうなって、そしたらなんか凄くうれしい気持ちになってね。」


「...だから、ありがとう。」


ユキのほほえみに、シュウヤは思わず赤くした。


「ユ、ユキさん、あの、俺、、、」


ユキは首をかしげる。


「もしよかったら、今度いろいろお話しませんか。この1年間で、ユキさんが経験してきた、大学生活、もっと知りたいなって思って。」


ユキは少し驚き、そのあと優しくほほ笑んだ。


「勿論だよ。シュウヤくんの話も聞かせてね。」


シュウヤは黙ってただ、頷いた。


二人で見上げた空は、より一層星が瞬いていたのであった。


それから、何度か食事を重ねていくうちに、シュウヤの方からユキに告白したのである。


ユキは、運命(さだめ)という言葉を知っていた。


人生の選択は、時には悩むことも必要だが、一方で直感がすべてを解決する時もある。悩んでいるうちは前に進まないも同然と考えていた。


人生は、選択の連続であり、”今”という結果が、かつて選択してきた点と点の繋がりでもある。


従って、シュウヤと交際することには、なんの迷いもなく、承諾をした。


お互い大学を卒業し、今ではそれから2年が経つ。


そんな矢先の出来事であった。






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