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家族が増える


 翌日、元気になったロンを森へ帰すことにした。


「じゃあ。元気でな」


 肩に乗ったまま全然下りないので、体を持って地面に立たせる。

 くるっとこっちを見て、とことこ、と戻ってくる。


「ロオン……」


 切なそうな顔をするので、どうにも困った。

 飼ってあげたいのはやまやまだが、うちにペットを飼うような余裕はない。

 子供なら駄々をこねそうなものだが、俺の魂年齢はジジイと言える。さすがに分別はつく。


 もしアンナだったら、泣きわめいて飼うと主張しそうだ。


 ロンはくるくる、と俺の足下を回って、すりすりと体をこすりつけてきた。


「俺だって飼ってあげたいんだ」

「ロロン……」


 しゃがんでふさふさの毛を撫でる。

 こっそり飼っても、隠せるような場所はないし、すぐにバレるだろう。


「ん? じゃあ、我が家に余裕ができればいいのか?」

「ロン?」


 くりん、と首をかしげたロンは、まっすぐ俺を見つめてくる。


「たぶんだけど、大丈夫かもしれない」

「ロン!」


 ロンを森に帰すことは一旦保留にし、家に戻ることにした。




 家のダイニングでは、仕事に行く前のサミーが朝食を食べ終えたころだった。


「お父さん」

「なんだ、ルシアン」

「畑は順調?」

「え? ああ、まあ、例年通りといったところかな」


 麦をはじめとした穀物を二種類。

 他に、余った土地で野菜を数種類育てている。


「興味があるなら、お父さんと一緒に畑に出てみるか?」

「うん」


 準備をしたサミーとともに家を出て、農具をしまってある納屋に入る。


 農具はどれも使い込まれていた。

 買い替えたりしないんだろうか。


 鍬と鎌を手に取っていると、使い方を説明してくれた。


「壊れないの?」

「まだまだ。全然。買い替える必要もない」


 そうなのか?

 鍬の先端は欠けたり、錆びついていたりして、本来の姿とは程遠いように見えるが。

 鎌に至っても同じだ。


 サミー自身は、これで慣れているから問題ないように思うのだろうけど、俺からすれば壊れる一歩手前。いつ壊れてもおかしくないように見える。


「……」

「これと、これと、あと他には――」


 納屋で必要なものを確認しているサミーの横で、『鍛冶』魔法を使う。


 昨日の棒を木剣にしたのとは違って、刃を作る必要はない。


 サミーの仕事の効率が上がれば、今まで割いていた時間を別のことに使えるようになる。

 農地を作ったり、作物を仲買い人に預けて町で売っていたのを、自分でできるようになったり。


 そうすれば、自然と我が家の収入が上がる。ロンを迷惑かけることなく飼えるようになるはず。


 ホワン、と鎌が優しい光を放つ。ついでに魔法付与もしておこう。


「……草刈りするかもだから、鎌も一応持っていっておくか。ルシアン、行こう」

「うん」


 外見はさっきと同じだから、とくに気にすることなく、サミーは鎌と他の道具と一緒に持ち出した。


 毎日真面目に仕事をしているだけあって、サミーの畑は綺麗なものだった。

 収穫前の麦やその他作物は、サミーが言ったように、問題なく育っている。


「……」


 これは『創薬』も役に立つな?


「せっかくだから、ルシアンに草刈りしてもらおうかな」

「わかった」


 俺がサミーの仕事に興味を持ったのが嬉しかったのか、サミーは適当な草地を見つけて、「ここの草を刈ろう」と鎌で草刈りをはじめた。


「お父さんの手本をよく見てるんだよ」

「うん」


 鎌を手にしたサミーが、ザクっと一束にした草を刈る。


「あれ? 力を入れずにスパっと……」


 父よ。これが『鍛冶』魔法だ。


 鎌は以前の性能を取り戻したはず。いや、この反応から察するに、それ以上の性能になったようだな。


 前人生では、魔法使いである俺に、道具は不要だった。だから道具となれば、必然的に誰かの物。俺はその性能をわざわざ上げたりするようなお人好しではなかった。


 けど、こうして驚く顔を目の当たりにすると、なかなかどうして嬉しいものだ。


「ルシアン、まさかおまえが――!?」


 言葉を続けようとすると、ザンッ、と周囲の草も同じように切れた。


「えっ? え? え? ここはまだ切ってないぞ――!?」


 風塵魔法の一種――『効果範囲拡大』を付与した。

 切れ味抜群で、しかも鎌を振るった範囲が拡大される魔法の鎌となったわけだ。


「お父さん、僕が魔法を使ったんだ」

「こ、こんなことができるなんて……! ルシアン、おまえはやっぱり魔法に愛された神の子なんだな!」


 神の子というのは、珍しく的を射ている。

 けど、魔法に愛された、なんて表現をされると、なんというかくすぐったい。


 サミーは知識がないせいか、魔法を『便利な何か』くらいに思っているようだ。

 属性もその種類も、まるで知らないらしい。

 これが一般人の魔法知識なんだろうか?


「大したことじゃないよ」

「そんなわけかあるか。おまえにはそうでも、お父さんには奇跡みたいなもんさ」


 サミーは嬉しそうにハハハと笑った。

 俺が優秀だとサミーは嬉しい――親になったことのない俺には、よくわからない感覚だった。


 適当に農具を買ってきてもらい、俺が『鍛冶』『付与』をしていけば魔法の農具になる――。

 ん? このやり口でも商売ができるな?

 ……売れば儲かりそうだ。


「ルシアン……顔がゲスいぞ。どうした?」

「ううん。何でもない」

「でもルシアン、いいかい。あまり人に見せびらかすようなことはするんじゃないよ?」

「うん」


 俺の能力に嫉妬する輩が現れるのも、無理はない。

 過ぎたる力が諍いの種になるのは世の常だ。


「お父さん、ロンをうちで飼いたい」

「ああ。いいぞ」

「え、いいの?」


 確認してなかったので、ダメ元で訊いてみたらあっさり通った。


「どうしてダメだと思ったんだ?」

「うちは、裕福じゃないからペットを飼う余裕はないと思って。ロンは、ニワトリみたいに卵を生まないと思うし、ネコやキツネみたいにネズミを狩ったりしないと思うし」

「そこまで考えたのに、どうして飼いたいと思ったんだ?」

「可愛いから」

「それで十分じゃないのか? 飼う理由なんて」


 サミー……。


 サミーは俺の頭を撫でて、自分の仕事に戻った。


 指示された草地の草刈りを、鎌を使わず風塵魔法で瞬時に片づける。


「え、え――。あれぇぇぇええ!?」


 仰天する父を置いて、俺は家へ戻った。

 ロンを飼っていいかどうかを、念のため母のソフィアに訊くと、渋面を作ったものの「自分できちんとお世話するのよ?」と条件つきで承諾してくれた。


「ロン、よかったね」

「ロンっ」


 こうして、家族が増えた。


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