神から授かった力
「ルーくん、もう鬼ごっこしないの?」
「うん。もういい」
そんなことよりも、魔法を試すほうが重要だ。
もらった魔法の『鍛冶』『創薬』――このあたりから試していくとするか。
きょろきょろ、とあたりを見回し、適当な棒と手の平に収まりそうな平たい石を拾う。
『鋭利化』の魔法を石に使い、即席のナイフにした。
デスボアからアンナを助けたときに使った魔法は、一時的な効果を得るだけでその効果は定着しない。
その点、名前通り『付与定着』は、解除するまで魔法の影響下にあるようだった。
手頃な切り株を見つけて腰かけると、むかいにアンナがしゃがみこんだ。
石ナイフを持って、ささくれだった棒を削いでいき、無駄な枝を落とし持ち手を作ってていく。
「なにしてるのー?」
「棒を剣にする」
「くんれんの?」
「訓練用のじゃない」
『鋭利化』の魔法を付与してもいいが、元がただの棒。その効果を上げるためには、棒に刃を作ることが必要だ。
強度に関しては、棒なのですぐに折れてしまうだろうが、そこは試作品。これからどんどんステップを踏んでいけばいい。
シュ、シュ、と棒に研いでいくと、みるみるうちに思っていた通りの木剣ができあがった。
「サクサク行きすぎだろう……」
俺でもさすがに驚いた。もっと時間がかかると思ったのに。
これが神の祝福のひとつ『鍛冶』魔法といったところか。
棒だからすぐ折れるのだろうが……。
アンナから離れて、そばにある木を切ってみると、ズバァァン、とおおよそ子供の腕力では出ないであろう斬撃音がする。
「……」
ゆっくり木が傾いていき、砂煙をあげて地面に倒れた。
「おい、神様。こんなの、ありなのか?」
「す、すごおおおおおおおおおおおおおい!」
アンナが手を叩いて喜んでいる。
「ルーくん、木を木できった!」
さすがにここまでズバン、と切れると思わなかったがな。
心得はあったが、ここまでとは。
神が与えし『鍛冶』魔法、恐るべし。
「アンナも、アンナも、ルーくんと同じのほしい!」
「断る」
「どうしてー?」
「危ないからだ」
「ルーくんは、使ってるのに?」
「僕はいいの。弁えてるから」
「また、いじわる、する……」
ひぐ、と泣くまいとするアンナが口をへの字にする。
「な、泣くな! 泣けばどうにかなると思っている節があるな、おまえ! あと、意地悪じゃないからな。こいつで怪我でもしたら、親に合わせる顔がない」
魂年齢はジジイと言って差し支えないからな。
俺には、子供がそばにいたら危ないことをしないように、管理監督する責任がある。
びえええええええん、とアンナが大号泣をはじめ、泣き声が森にこだました。
「――ああ、もう、わかった、わかった!」
『鍛冶』魔法は使わず、石ナイフで同じように木剣を作成する。
『鍛冶』魔法を使ってないせいか、時間がかかってしまったが、ぱっと見同じ物が出来上がった。
渡してやると、泣き止んだアンナが、にぱっと笑顔になった。
「ルーくん、ありがとう」
「どういたしまして」
「アンナ、うれしい」
はあ、とため息をひとつついた。
俺のようにアンナが木剣を木に打ちつけているが、もちろん切れやしない。
「アンナちゃん、今日はもう帰ろう」
「うん!」
機嫌よさそうにアンナがあちこちを木剣でペシペシ叩きながら歩く。
「プギャォォッ!」
魔物らしき鳴き声がする。アンナがびくっと肩をすくめて、俺の後ろに隠れた。
「ルーくん」
「魔物だ。たぶん、デスボアだと思うけど」
この森をねぐらにしていたのなら、最寄は俺の村になる。
畑を荒らしにくるのも納得だ。
「ロォォン……」
別の魔物の鳴き声もした。こちらは元気がなさそうだ。
「ルーくん、あそこ!」
アンナが指さした先では、デスボアに追いかけられる別の魔物がいた。猫ほどの体格をしていて、走り姿がどこかぎこちない。
猫? キツネ? の魔物か?
足を怪我しているらしく、上手く走れないようだった。
「ビギャァァァォォォ!」
「オン……ロォォン……」
追いかけるデスボアと逃げるキツネらしき魔物。
どっちが悪いかなんて、俺にはわからないけど、畑を荒らすかもしれない魔物をここで放置するわけにもいかない。
『重力』を発動させ、風塵魔法を使い、デスボアを追う。
遮蔽物が多い森の中で魔法を使うより、こちらのほうが早い。
木剣を構えて、振り下ろした。
「ビャァオオゥゥ……」
断末魔の声を上げたデスボアが、どさり、と横たわった。
木剣なのに、凄まじい切れ味だな。
アンナを襲ったデスボアは炭にしてしまったので、こいつは持って帰って食べることにしよう。
『重力』をデスボアに付与する。宙に浮いているのはさすがに不自然なので、地面すれすれで浮かせておいた。
「ロン……」
大きな黒目と長い耳。ふさふさの白い体毛に、こちらもふさふさの尻尾。
噛まれたのか、突かれたのか、足から血がにじんでいる。
はじめて見る魔物だった。