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13


 選考会翌日。

 俺は登校すると、ゲルズに学院長室まで連れていかれた。


「おはよう、ルシアン」

「おはようございます。学院長」


 本当は、言ってやりたいことはたくさんある。

 どうせ俺を排除しようとして、年齢制限を設けたのだろうとか。

 あれだけの力を示してもサポートメンバーにした理由とか。


 言いはじめたらキリがない。

 大人しくここは用件を訊くことにしよう。


「朝からどうしたのですか?」

「競技会のことを、君はどこまで知っているのかね?」

「競技会のこと、ですか。選抜メンバーが他校のメンバーと戦い、いい成績を残せばいい就職先が見つかる、ということくらいでしょうか」


 何だ。他に何かあるのか?


「競技会に参加する魔法学院は、我がエーゲル学院を含め五校ある。残念ながら、我が校はここ最近総合評価で他校より大きく後れを取っているのだ」


 学院長が言うと、ゲルズがあとを継いだ。


「君がさっき言ったように、競技会は、学院生にとっては進路どころか人生を左右する分岐点となる可能性が高い。なりふり構わず攻撃してくるだろう。幼いルシアンに何かあると我が校の名誉に傷がつく――」

「だから年齢制限をわざわざ用意した、と……?」



 二人は無言でうなずく。

 詭弁だな。

 ゲルズより強い俺が、それ以下の生徒の攻撃で傷がつくはずがない。


「ああ。そうだ。だが、選考会の一件で我々は考えを改めることにした」


 どうやら、二人は何かを隠しながらも思惑を教えてくれるようだ。

 学院長が言う。


「他校より評価が低い我が校も、今年こそはその汚名を返上したいと考えていてね。君の力に頼りたいところではあるが、君に怪我をさせたくはない……。なので、サポートメンバーとして同行をお願いしようとなったのだ」

「朝早くから呼び出して、説明はそれだけでしょうか?」


 長話に飽きたのか、ロンがもぞもぞと鞄の中で動く。

 心配になって鞄を見ると、案の定顔を出していた。


 俺は慌ててロンをまた鞄の中に押し込む。


「ロンっ、ロロ~ン!?」


 ロンの悲鳴を聞かれないように、俺はわざとらしい咳とくしゃみで声をかき消した。


「ゲルズ先生や他の先生とも話し合った。君には、競技の方針や戦略について意見を求めることもあるだろう。そのときは、力と知恵を貸してほしい。監督にはソラルが就くことになっている」


 王都で宮廷魔法士をしていたソラルだ。

 肩書きは十分だし、観戦にくる民衆や関係者にも覚えがいいだろう。


「わかりました。何かあったら、ソラル……先生に意見具申をしたいと思います」

「ああ。頼むよ」

「ルシアン、我が学院は……」

「ゲルズ先生。それはよい」

「ですが」

「変なプレッシャーを与えることになる。だから、伏せておくという話だったろう?」

「はい。そうなのですが、ルシアンならわかってくれると……」


 何だ、何か揉めている……?


 おほん、と学院長が咳払いをして脱線しそうな話を戻した。


「ともかく。君の活躍に期待をしている」

「ありがとうございます。頑張ります」


 こうして、俺は退出を促された。

 ゲルズは何を言おうとしてたのだ?


 選抜メンバーは普通の生徒とは二週間ほど別で、競技会用に演習が行われる。

 そのため、俺は演習場へと急いだ。


「遅ーい! 何してたのよ」


 先ほど聞いたように、選抜メンバーを監督するソラルが俺の遅刻を咎めた。


「すみません。学院長に呼び出されていて」

「……ふうん。さあ。さっさとはじめましょう」


 内容を問い質したり、それ自体を疑う様子がない。

 ソラルも何か知っているのだろうか。


「魔法能力を伸ばすことよりも、競技会対策を中心にやっていくわよ!」


 ソラルがメンバーに声をかけると、ばらばらに声が返ってきた。


 小さくソラルはため息をつく。


「まあいいわ。まずは団体戦用の対策からやるわよ」


 団体戦は、一〇対一〇の模擬戦だったな。

 敵を倒すことだけではなく、支援や情報収集なども重要視される。

 個人戦は、一〇人の中から三人を選び、一五人のトーナメントで優勝を争う。


「演習を見ていて何か感じることはある?」


 さっそくソラルが俺に意見を求めた。

 学院長とゲルズの話だと、俺はブレーン役としても期待されているらしい。


「さっきから思っていたのですが……」


 王都への移動を含めると、こうして対策ができるのは一週間ほど。

 俺はその間にできそうなことをソラルに提案していった。


「ねえ。あんたが作ったあのクリスゴーレム、使えないかしら?」

「あぁ……いいですよ」

「あれをあんたが動かしながら、戦ってもらいましょう。それが一番いい訓練になりそう」


 俺が動かし、俺の魔法を放つのだから、魔法戦という意味では最高のトレーニングになるだろう。


 俺は『遠視』を使い、リモをここまで移動させる。

 クリスではないと知っていても、顔が似ているので、男子がそれとなく意識していた。


「な、なあなあ、ルシアン。このクリス……リモは、中身はどうなってるんだ?」

「も、もしな、魔法があたって服が破けたりしたら」

「別に、別にな、見てえわけじゃないんだが……もし、何か見えちまったら……」


 完全に期待しているな。

 魔法が何かの弾みでリモの制服を切り裂くことがあれば、と。


「服の下は、一般的な女子生徒を再現しています」


「「「…………っ」」」


 ごくり、と生唾を呑む間があった。

 訊いてこなかった男子も、気になっていたらしく、黙って耳を傾けている。

 イリーナやソラル、他の女子たちは、半目でどこか軽蔑するように男子たちを見守っている。


「そうですね……もし服が破れたら――」

「「「や、破れたら……ッ!?」」」

「そのときのお楽しみということで」


「「「うぉぉぉぉぉお! やるぞぉぉぉぉぉお!」」」


 なかなか単純でよろしい。

 男子はこうでなければ。


「顔は変えられますが、他に希望はありますか?」


 これが失敗だった。

 オレがオレがオレが、と口々に好みの顔をいいはじめ、収拾がつかなくなった。

 思春期の性欲は恐ろしいな。


 みんなが知っている美少女ということで、ソラルにしようと俺がまとめた。


「なんでよっ!? び、美少女と言えば私っていうのは、わかるのだけれど――」


 本人は不服そうだったり、美少女と認められたのが嬉しそうだったり、よくわからない感情を持てあましていた。


「「「……」」」


 男子のテンションは、ちょっと下がった。


「な、なんでよっ! あんたたちだけは喜びなさいよっ!」

「ソラルちゃんの顔がイイのはわかるけどさ」

「うん。性格コレだからな……」

「それを知らなかったら、よかったんだが……」


「「「はぁ」」」


「ため息つくなぁぁぁぁ――――!」


 ソラルが喚いている脇で、三人だけの女子メンバーがこっそり俺に言った。


「イケメンにはできない……?」

「できますよ」


 小声で返すと、手を叩いて喜んだ。

 イリーナもやはりイケメンがいいのか。

 じいっと見ていると、視線に気づいたイリーナは二人に聞こえないように俺に言った。


「わ、わたしは別にいいんだけど、先輩たちが、ね……」


 なるほど。後輩も色々と大変らしい。


 どちらも数日試してみたが、男子も女子も意識しまくりで全然ダメだった。

 間を取って中性的な顔立ちの人物にリモを変えてみると、訓練は飛躍的に向上した。



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