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 選考会が終了し、へとへとになった参加者が戻ってくるタイミングで、クリスにはリモと入れ替わってもらった。


「ば、ば、バッヂ六五個……!」


 学院は全校で約二七〇人。

 それを考えればかなりの獲得数になるはずだ。

 手にしたバッヂを数えてクリスが驚いていた。


「ルシアン、これはたぶん過去最多数になるぞ」

「そうですか。リモに不具合が起きると困るので、戦闘はなるべく控えたのですが」

「あれで控えていたのか……」


 呆れたようなクリスだった。

 セナを倒したあと、バッヂを回収した俺は、暫定首位に躍り出た。

 バッヂがゼロでもリモを倒しさえすれば一気にトップになれるため、他の生徒は血眼になってリモを探し、攻撃してきた。

 だが……。


「全員……返り討ちだったな」

「こちらも余力があったので」

「あれだけ魔法を放って、まだ余力があったというのか!?」

「初級魔法ですから」

「とは言うが……普通の生徒なら、二〇発撃てるかどうかだ」


 そんなに少ないのか。

 隙を与えないリモの攻撃なら、二〇発なんて数秒で撃ってしまう。


「このあと、本部に成績上位者を集めるようなので、あとはお願いします」

「わかった」


 こうして、クリスはトップで選考会を終えた。

 そして学校を辞める必要もなくなる。

 セナと結婚しなくても済む。


「あ。ルシアンくーん!」


 イリーナが俺を見かけて声をかけてきた。

 近くにはライナスもいる。

 二人ともヘトヘトなのに、表情はどこか晴れ晴れとしていた。


「本部から見ていました。二人ともお疲れ様でした」

「ほんっと疲れたよ……。でも、あんなに自分が戦えるなんて思ってもみなかった」


 続いてやってきたライナスも会話に加わった。


「オレは三〇個。イリーナは三三個。バッヂを守り切った生徒に一年はいないみたいだぜ」

「守り切ったどころか、わたしたち、成績上位者だよ? すごいよ!」


 誇らしげなライナスと嬉しそうなイリーナだった。


「その数なら、トップ10入りは確実でしょう」

「でも一人、ヤバい先輩がいたよね……。あの人に見つからなくてよかったよ」


 心底安心したように、イリーナが胸を撫でおろす。


「そんなヤバい先輩がいたんですか」


 俺が尋ねるとライナスが同意した。


「いたいた。あれ、人間業じゃねえよ。あんなに魔法を撃ちまくるなんて……てかあれ魔法だったのか?」

「三年生のクリス先輩。反則レベルだったよね」


 どんな先輩かと思えば、リモのことだった。

 人間業ではないというのは半分正解だ。

 リモは人間ではない。

 だが、魔法を使っているのは俺なので、もう半分は不正解だ。


「お二人も、初級魔法ならあれくらいできるようになりますよ」

「「うそっ!?」」


 目を見開く二人。


「ただ、もっと鍛練が必要ですけどね」

「ルシアン……おまえ何かやった?」

「さあ。何のことでしょう」


 イリーナとライナスは顔を見合わせる。

 まあいっかと笑って、一緒に本部のほうへ戻った。


 そこにはすでに、学院長をはじめとした講師陣が揃っていた。

 他には、成績上位者と講師が気になった生徒の合わせて三〇人ほどの生徒がいる。


 学院長が咳払いをすると、ざわつきが静まった。


「今回の選考会、ご苦労であったな。ここに集まった生徒たちは成績優秀だった者や、講師が推薦したい生徒である。この中から、競技会のメンバーを選ぼうと思う」


 場が緊張感に包まれる。


 選抜を確信している者もいれば、祈っている生徒もいた。

 競技会は、学院卒業後の進路を左右する……らしい。

 そんな彼らからすれば、人生の分岐点と言っても過言ではないのだろう。


「えー。まずは、バッヂの過去最多獲得をしたクリス・アーノルド」

「はい」

 と、クリスが返事をした。


「過去最多のバッヂに相応しい戦いであった。文句なしだろう」

「すみません、学院長。よろしいでしょうか」


 次に進もうとする話をクリスが遮った。


「うむ? どうかしたか?」

「今回、私は代表を辞退させてください」


 静まり返っていた本部がざわついた。


「理由を聞こう」


 クリスがちら、と俺を見る。

 ……何か余計なことを言うつもりじゃ――。


「選考会を戦ったのは、私ではないのです」

「何をバカなことを言う」

「本当なのです。私とよく似たゴーレムを……ルシアンが作ってくれたのです」


 これでは、クリスの手柄にならない。

 俺は内心頭を抱えた。

 ただ辞退すればいいだけなのに。


「ずっと、心苦しかった。人生を懸ける生徒もいるのに、私だけこんなふうに自分の力でもない成果を評価されるのは、卑怯だろう、と」


 それが本音か。

 視線が俺へと集まっていた。


「ゴーレムを、作った?」

「ゴーレムってゴツゴツしてて地下迷宮で宝を守っているとかいう、あの?」

「あれはどう考えても人間だったぞ」


 リモが人に見えているのなら、それはよかった。

 制作者冥利に尽きる。


 ……いや、喜んでいる場合ではない。


「ハッハッハ! やはり、あれはクリスではなかったのだな!」


 何だかんだであれからバッヂを集めたセナが笑っていた。


「返事もしないし、僕への態度も冷たい。どうりでおかしいと思った」

「態度が冷たいのはいつもだ」


 セナの言葉をクリスが切った。


 学院長が難しそうな顔をしたまま目をつむっている。


「……ルシアン。君がやったのか? だとすれば、『クリス・アーノルド』の能力が劇的に飛躍したのも、なるほど、合点がいく」

「それは……」


 俺が否定しようとするとクリスが口を開いた。


「そうです。学院長。ルシアンは、あの私によく似たゴーレムを作り、しかもそのゴーレムから自分の魔法が放てるように微調整をたった数日でやってみせたのです!」


 本部にいた講師も生徒もまたざわついた。


「やっぱりルシアンくんの仕業だったんだ」

「そうじゃねえと納得いかねえよ。あんな化け物、何人もいてたまるかよ……」


 イリーナとライナスが俺を見て言った。

 ゲルズが頭痛を堪えるようにこめかみに手をやって話を止めた。


「ま、ま、待ってくれ。では、ルシアンは、代わりとなるゴーレムを、君に似たゴーレムをたったの数日で作り上げ……いや、この時点で驚愕するべきなんだが……、さらに、そのゴーレムを通じて自分の魔法を使えるようにした、と……?」


「はい。そうです」


 クリスが全部はっきりと答えてしまった。


「じゃあ、動いていたのは!? ルシアンは、ずっと本部にいたが」

「ルシアンが、対象の周囲がわかる魔法を駆使しながら、魔法で動かしていました」

「何だ、それは……」


 驚きを通り越してしまったのか、ゲルズが無表情でぽつりとつぶやく。

 ゲルズが振り返ると、学院長は長いため息をついた。


「では、すべてはルシアンがしたことなのか」


 俺がだんまりなので、言葉を求めるようにみんなが目線を寄越す。


「クリスさんが、魔法を暴発させ、選考会に出られないと知ったんです。元々選考会で悪い成績だと学校を辞める約束を父親としていたそうで。だから、これまで関係がなかったのですが、辞めないで済むように知恵を絞りました」


 俺の目的としては、独自魔法の布教と理解を多くの人にしてもらうことだった。

 それも今となっては実現しつつある。

 セナが今までの魔法より、俺の魔法のほうが強く使い勝手がいいとして、頼んでも教えてもいないのに、独自に使いはじめたからだ。


「学院長、いかがいたします? ルシアンは年齢制限があります」


 ゲルズが確認する。


「クリス・アーノルド、君は失格とする。問題児のルシアンは…………」


 ううん、と考える間をたっぷり取ると、学院長は言った。


「一一人目として、選抜メンバーに同行してもらおう。サポートメンバーだ。これは、メンバーに何かあったときのために、代わりに出場できるものだ」


 サポートメンバー? そんなものがあったのか。


「ルシアンくん、よかったね」

「よかったな、ルシアン」


 イリーナとライナスが喜んでくれる。

 想定したものとは違ったが、結果オーライということにしよう。


 それから、順次メンバーが学院長によって発表されていく。

 メンバーはバッヂをきちんと集めた者が中心で――。


「続いて、一年三組のイリーナ・ロンド」

「や、やったぁぁぁぁぁあ!」

「同じくライナス・ガット」

「うぉぉぉぉお、マジかぁぁぁぁあ!」


 イリーナとライナスはガッツポーズをした。


「やりましたね」

「ルシアンくんのおかげだよぅ。ありがとーっ!」


 イリーナにぎゅっと抱きしめられると、ライナスには頭をがしがしと撫でられた。


「競技会の選抜メンバーだぜオレたち」


「おほん。一年生の君たちを選んだのは、その成長率だ。まだ入学して間もないのに、今この場にいる。他の二年生や三年生を押しのけてね」


 学院長が説明するとゲルズが補足した。


「競技会まで、まだ少し時間がある。我々学院は、君たちのその伸び率に賭けた。まだ成長できるだろう、と」


 期待されているのが嬉しいのか、イリーナとライナスは喜色満面だった。


「――以上。先ほど発表したメンバーで今年の競技会を戦ってもらう」


 学院長がそう締めくくると、セナが慌てたように手を挙げた。


「が、学院長! ぼ、僕は、僕はまだ呼ばれていませんが……」


 学院長に目配せをしたゲルズが、説明役を買って出た。


「セナ。君の能力は特筆すべきものはあるが……バッヂの不正な受け渡しをしたという証言がある」

「……は? そ、そんなこと、僕は、何も……」


 旗色が悪くなったのか、モゴモゴと言いながらセナは目をそらした。


「能力を信じ、まともにやっていれば、講師の目に自然と留まり成績が芳しくなくとも推薦されていただろう」


 なんとしてでもクリスをモノにしようとした代償だ。

 不確定な俺の独自魔法では勝てるかわからないから、選考会での成績をより確実にしようとしたのが仇となったな。

 おそらく、俺の魔法に手を出したのも、普通にいつも通りやっていて勝てるか怪しいと判断したからだろう。


「バッヂを買収したとも聞いている。これは、明確な違反であり、売った生徒、買った生徒には厳罰を下す必要があると本部では考えている」


「そ、そんな……」


 呆然としたセナは、足下から崩れていった。

 ゲルズが言うには、成績表にもこの件は記されるらしいので、かなりの汚点となるようだ。


 プライドや体裁を気にする貴族にこれは、かなりの処罰と言えるだろう。

 クリスとの結婚どころの騒ぎではない。


 がっくりと肩を落とすセナに俺は声をかけた。


「あなたが戦いバッヂを得た場面は、モニターに映ることがほとんどありませんでした。リモ……クリスと戦ったとき以外はね。本部が不自然に思うのは当然でしょう」


 セナは鋭く俺を睨んだ。


「おまえがクリスに余計なことをしなければ!」

「ゲルズ先生が言っていたではないですか。『能力を信じ、まともにやっていれば、講師の目に自然と留まり成績が芳しくなくとも推薦されていただろう』と。自分を信じられなかったあなたの負けです」


 俺の独自魔法を信用していれば、買収なんて真似もせずに済んだだろうに。


「僕の魔法に興味があるなら、きちんと教えます。そのときは、一年の教室まで来てください」

「くそッ……」


 床を拳で殴りつけると、セナは聞き取れない何かを喚いて本部から出ていってしまった。


「競技会は再来週だ。それまで選抜メンバーは、通常講義を受けず、メンバーだけで競技会対策の訓練に励んでもらう」


 そうゲルズが説明して、この場は解散となった。



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