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 この選考会のいいところは、バッヂを奪われても奪い返せるというところ。


 制限時間内であれば、常に奪取可能なのである。


 その制限時間は三時間。


 イリーナもライナスも、実戦で独自魔法を使ってみたい気持ちはわかるが、少し飛ばし過ぎたかもしれない。


 リモを中心とした視点では、イリーナにバッヂを奪われた者と別の生徒数人が少しずつ接近しているのがわかる。


 これはライナス側も同じ。


 バッヂを奪われたらしい三人が、徒党を組んでいる。


「はあ……。まだ慣れないから応えるね……」


 はじまってまだ二〇分ほど。

 木陰で休むイリーナが水分補給をしている。


 ライナスはイリーナが見える位置にいて、こちらも休んでいる。


「全員が敵ってなると、こりゃキツいな……」


 どこから攻撃されるかわからない、というのも結構な負担になっているはず。


 二人は、自分が思っている以上に消耗しているだろう。


 イリーナとライナスからバッヂを奪おうとチームになっている数人を追い払ってもいいが……。


 様々なことが起きる実戦を経験できる機会はそう多くない。

 ここは静観しておくか。


「クリス! 僕はもうバッヂを八つも集めたよ! 君の調子はどうだい?」


 セナが離れたところからリムに話しかけてきた。

 爽やかな笑顔に白い歯。

 女子にさぞモテるのだろうな。


「……」


 両手をそちらへかざしリムに『アロー』を連射させる。


 ガガガガガガガ!


「うわぁぁぁああ!?」


 叫ぶセナは、慌てて岩陰に逃げた。


「いきなりとはご挨拶じゃないか」


 自分以外は敵というルールなのだ。

 ご挨拶も何もないだろう。


「な、何だ、今のは……? 『アロー』によく似ていたが」


 浅い呼吸を繰り返すセナ。

 一度リムのほうを覗く。

 その瞬間、リムの放った『アロー』がキュン、とセナの頬をかすめた。


「ひい」


 悲鳴を短くあげたセナは、岩陰に隠れながらすごすごと逃げ去っていった。


 ここまで差が出るとは思ってもみなかった。


 さしずめリムは、「場違いな戦力(アンタッチャブルアーミー)」とでも言おうか。


 生徒が戦ってはいけないジョーカー的なオブジェクトとなっていた。


「卑怯よ! 三人がかりなんて」


 イリーナの声がする。

 得意の『ファイア』で敵を牽制し続けていたが、じりじりと距離を詰められていた。


「卑怯? どっちが!」

「そうだぞ! ちびっ子に魔法を教わりやがって!」

「俺たちだってな! 教わりたかったんだぞ!?」


「「「無詠唱で魔法なんてカッコよすぎだろ!」」」


 どういう嫉妬の仕方だ。

 しかし、俺の魔法を覚えたいと言われて悪い気はしない。


 ……あの三人、顔を覚えておこう。


 ライナスはというと、こちらは逆で敵からの魔法で押されはじめ後退をしていた。


「ちッ。束になりやがって――」

「わっ。こっちからはライナスが――!」


 ライナスがついにイリーナにバレた。


「ま、待て待て! 撃つんじゃねえ! オレは味方だ!」


 両手を上げてライナスはアピールをする。


「苦戦してるみてえだな」

「ライナスもでしょ」

「魔法ばっか撃ちやがって、接近の隙がねえ」

「ライナスには有効な戦い方だね。わたしのほうなんて、隠れながら徐々に距離をつめてきて……」


 二人が顔を見合わせる。


「バッヂを持ってなくちゃ戦う意味はねえ。逃げてもいいんだが……」

「うん。でも制限時間内であればいつでも奪っていいからキリがないよね……」


 両手の拳をガシッとライナスは一度ぶつける。


「イリーナ、おまえの敵、オレに任せてくれ」

「それはこっちのセリフ」


 ダッ、とライナスがイリーナを追い詰めようとしていた敵へと猛然と走り出した。

 イリーナはライナスを攻撃した敵を視認すると、制御した『ファイア』を放ちはじめる。


「ド突き合いしてえんならオレが相手になるぜ!」


『硬化』の魔法を使用するライナス。

 正面からまっすぐやってくるので、敵はまとまってライナスを叩きにくる。


「たった一人でイキがるな!」

「ナメんなよ、おい!」

「持ってるバッヂ、全部渡してもらうぞ!」


 それぞれが詠唱をはじめる。

 魔法で形作った剣をそれぞれが手にし、ライナスに仕掛けてくる。


「『リビルド』」

 無詠唱でライナスが魔法を発動させる。

 以前から得意だった魔法だ。


 俺も一度だけ見たことがある。体を部分的に大きくする魔法だったか。

 以前と違うのは、スムーズに大きくなり、魔力消費も以前の半分以下となっていた。


「うわ!?」

「でか!?」


「オッッッッラァアアア!」


 大木のように太く長くなった腕を強引に振り回す。

 魔法の剣よりもリーチは長く、敵の刃よりライナスの拳のほうが先に届く。


 ドガ、ドゴ、ゴン、と一振りで三人を吹っ飛ばした。


「ま、こんなもんよ」


 鼻の下をこすっているライナスだが、疲労が見え隠れしている。


 イリーナは、無詠唱の利点を最大に活かしていた。

 敵が足を止めているところに、移動と発動を繰り返している。

 制御された『ファイア』は低威力ながら確実に敵へ直撃させていた。


「畜生! 一年のくせに!」


 一人が捨て台詞を吐くと三人とも走って逃げた。


 状況に応じて魔法の威力を低減させたのは、見事な判断だと言っていいだろう。


 確実にイリーナもライナスも強くなった。


「疲れた……イリーナ、水くれ、水」

「どうしてないの」

「もう飲んじまった」

「汲んできたらいいじゃん」

「ケチー」


 ライナスがイリーナを詰った。

 本来ライナスはイリーナのサポートだったが、もうこうなったのなら、二人で協力してこの選考会を戦っていけばいい。


 俺もリモを使ってバッヂをいくつか集めよう。

 このままでは、クリスが学校を辞めることになってしまう。


 イリーナとライナスから離れ、俺は見つけた生徒と戦う。


 思った以上にチームとして動いている生徒が多い。


 最初に出会った四人組は、あらかじめ打ち合わせをしていたのだろう。


 足止め役だったり、味方の能力を底上げする魔法を使う役だったり、仕留め役だったり、きちんと分担されていた。


 ……だが、リモにそんなものは関係ない。


 足止め役が引きつけようと細かく魔法を放ってくる。

 そもそもそんな魔法、当たらなければ足止めにもならない。


 簡単にかわし、『アロー』をいくつかの木に向けて数発放つ。


「え? わぁぁあああああああああ!?」


 数本の木がゆっくりと倒れていき、四人組の頭上に落ちた。

 簡易シールドのおかげで大した怪我には至っていないが、木の下敷きになった彼らから持っていたバッヂをすべて奪った。


 あの四人組はなかなか優秀だったらしく他の参加者からバッヂを奪っていた。


 その数七つ。

 これでクリスの分を合わせれば、バッヂは全部で八つとなった。


 セナが八つ持っていると言っていたな。

 これで並んだ。



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