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 リモをスタート地点まで移動させる。

リモには『集音』の魔法を付与してあるので、俺には周囲の音は鮮明に聞こえた。

『遠視』の魔法も発動させているので、付近の様子もよくわかる。


 引率の男性講師が改めて説明をした。


「ここからフィールドに入り、合図まで待つように。それ以前の一切の魔法は禁止だぞ。いいな? それが判明した時点で失格とするぞ」


 イリーナやライナスたち一年が先にどこかに潜伏し罠を仕掛けるということもできないのか。

 意外と公平なんだな。

 力量が比較的弱い一年に先を譲るあたり、きちんと考えられている。


 三年はこれで三回目の選考会。

 有利な地形を独占させまいとする配慮だろう。


「この選考会で僕がトップだろうと何だろうと、君は我がセレナダル家に嫁ぐことになる。僕は君に実力を示して好きになってもらいたいんだ」


 セナがリモに話しかけている。


「……」


 リモを介して俺が会話をするようにはしてないので、結果的に無視することになった。


「フン。そうやって無視を決め込む君が、僕に心を許すようになるのを想像すると震えるね……」


 気持ち悪いことを言われた。


 何でも自分の思い通りになると思っている輩だろうな。

 全員がそうでないにせよ、貴族の息子というのはこういった手合いが多いのだろう。


 講師の合図とともに、三年たちが一斉にフィールドへ入る。

 リモも遅れないようにあとに続いた。


 演習で何度か入ったことのある森だが、張り詰めた雰囲気がある。

 今は息を潜め、開始と同時に奇襲を仕掛けようというやつもいるのだろう。


 さて。リモはどう立ち回らせるべきか。

 まずは、ライナスかイリーナと合流したいところだが、二人にはリモのことは話していない。


 イリーナは完全に単独で戦っていると思っていて、ライナスはその付近でイリーナの死角を潰すように言ってある。


 では俺は可愛い弟子二人の様子を観察できるところでボチボチ戦わせてもらおうか。


 本部では、モニターされている生徒たちが配置についているのが見える。

 岩陰に隠れる者。木々の中で息を潜める者。堂々と獣道を歩いている者。

 スタート位置は様々だった。


「そろそろ時間だ。ソラル」

「はい」


 ゲルズに促され、ソラルが近くの扉から外へ出ると、手を空にかざした。


 ぶつぶつと何かつぶやく声が聞こえ、手の平から光弾が放たれた。

 それは花火のように空高く舞い上がると、弾は光の粒子となって飛び散った。


 合図だ。


 血気盛んな生徒は敵を探し回り、遭遇すると先制攻撃をはじめた。

 モニターが賑やかになりはじめた。


 俺もリモを操作してやらないとな。


 リモの戦術は彼らと同じく、遭遇次第撃破。

 逃げも隠れもしない。


「~~、――」


 リモから魔法詠唱のかすかなつぶやきが聞こえる。

『遠視』の魔法のおかげで背面にいる敵に気づいた。

 木陰から詠唱をし、発動準備が整ったタイミングで姿を表した。


「食らえッ! 『ファイア』!」


 一抱えほどの火球がリモへ向かって放たれた。


 だが、この程度――。


 俺は『影手繰り』の魔法を介してリモに『アロー』の魔法を使わせる。


 火球に向けて『アロー』が放たれる。


 ズガガガンッ! ガガガンッ! ズガガガガ!


 威力は低く設定したので、連射能力はかなり強化している。

 リモの『アロー』は無詠唱で一秒あたり三〇発ほど放った。


 属性の相性としては最悪。

 風と火では火に分があるのだが。


 速射砲と化したリモの風の矢は、火球を切り裂き周囲の木々をボロボロにした。


 実戦で使ってわかったが、これは制圧射撃としても有効のようだ。


「う、うわぁぁぁぁああ!? な、何だこいつぅぅぅぅ~!?」


 たたらを踏んだ生徒は背を向けて逃げ出した。


 驚いたのは生徒だけではなく、本部もそうだった。


「な、なななな、何よあれぇぇぇええええ!?」


 ソラルが椅子から転げ落ちていた。


「あ、あれは、三年のクリス・アーノルド!?」

「『ファイア』を無数の『アロー』で無効化したぞ!」

「詠唱はいつしたんだ!?」


 あわわわわわ、とソラルが口をぱくぱくさせている。

 ちら、とこっちを見てくる。


「や、やり過ぎよ、あんなのっ」

「撃っているのは『アロー』ですし、可愛いものかと」

「れ、レベルに合ってないじゃないぃぃぃぃ!」


 ソラルは抗議するように俺を指で突いてくる。


「学院生がどうにかできるわけないでしょ!」


 周囲に俺の仕業だとバレないように、ソラルは小声で文句を言う。


「あんなの、魔法砲台と変わりないじゃない。しかもあの連射性能……前代未聞だわ……」


 クリスには、リモと実力差がかけ離れているので、あまり目立たないでほしいと言われていた。

 だが、さっそく目立ってしまった。


「クリスさんには負けられない事情というやつがありますので」

「それにしたって……ああ、もう。兵器じゃないのよ、あれ。ひよっこの中に未知の兵器を解き放って楽しい?」


 皮肉だろうが、俺は素直にうなずいた。


「はい。自分が時間をかけて工夫し苦心したゴーレムです。それがあんな戦果を上げるんです。嬉しいのが親心というものでしょう」


 はぁ~、とソラルが特大のため息をついた。


「いい性格してるわね、あんた」


 またしても皮肉をつぶやくソラル。

 俺は当初の目的通り、イリーナとライナスを探す。


 その途中、仕掛けてきた生徒を全員返り討ちにしていく。


「うわぁぁぁぁあああ!?」


 ある生徒は恐怖のあまり腰を抜かし……。


「や、やだあ、も、もうやめてぇぇ……」


 またある生徒は、頭を抱えてその場で泣き出し……。


「あ、悪魔だ……。終末がやってくるぞ。この世界は悪魔を召喚してしまったんだ!」


 またある生徒は、リモのことを悪魔呼ばわりで破滅の使者扱い……。


「彼女はクリス……。すべてを破壊し、創造する神なのです……」


 またある生徒は、破壊神として崇めていた。


 圧倒的な戦力差だな。

『アロー』なら魔力消費もごくわずかだし、連射性能も高い。

 有無を言わさず力を見せつけるのには、図らずも一番いい攻撃方法だったようだ。


「これを自律型にして一〇体ほど作れば……」


 簡単に国を乗っ取れる……。


「ちょっと。物騒なことつぶやくのやめなさい」


 すぐソラルに注意をされた。


「『ファイア』」


『集音』で聞こえた声に、俺は反応した。

 リモのほうを視ると、木々の向こうでイリーナが魔法を放っているところだった。


 この選考会では、魔法が直撃しても大怪我には至らないように、自動発動型の簡易シールドが展開される。

 とはいえ、簡易なので直撃すれば痛いし、怪我をすることもある。


「ぎゃぁあ!?」


 お。イリーナが一人やった。


 ぷすぷす、と焦げている生徒に近寄り、イリーナはバッヂを奪う。


「よーし。これで三つ目!」


 やった、やった、と小さくジャンプするイリーナ。


 ……ということは、近くにライナスもいるな?


「『硬化』! るぉぉぉぉらぁぁぁぁぁぁあああ!」


 どこにいるかわからないが、声で近くにいることがわかった。


 俺がライナスにひとつだけ教えたのは聞いての通り『硬化』の魔法。

 魔法戦士という前線で戦うタイプのライナスにはぴったりだろう。


 ぼしゅん、と空気が抜けるような音がした。

 音のほうへ近づいてみると、ライナスは二人の生徒と戦っていた。


「くッ、き、効いてない!?」

「も、もう一度だ! 効いてないなんておかしい!」


 二人の生徒はまた魔法を発動させようとするが、


「だーっははははは!」


 高笑いをするライナスは、再び『硬化』の魔法を発動させ、詠唱の間に接近。


「オラッ、ヌンァァアッ!」


 ボコ、ドゴッ、と生徒二人をあっさり殴り倒した。


「へへへ。余裕だぜ。これで四つだな」


 本来『硬化』の魔法は、体を強化するもの。魔法が効かないということはないのだが……。

 ライナスが木の根元に腰を下ろして毒づく。


「……いってぇ……くそ」


 痩せ我慢をしていたらしい。

 だがそのハッタリは効果てきめんだったようだ。


 イリーナもライナスも順調だった。



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