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 その日、クリスから了承をもらった俺は、下宿先の宿屋の一室で作業をしていた。


 クリスの成果として認められ、なおかつ、俺の独自魔法だとわかれば一石二鳥。


 このままでは、選考会に出られないクリスは学校を辞めてしまう。

 彼女なりに努力した結果がこれでは、悲しすぎる。

 この選考会で彼女の父親を納得させられる材料ができればそれでいいのだ。


 神から与えられたスキルのひとつ、『鍛冶魔法』で作ったゴーレムが形になってきた。


「ロン、ロン!」


 ロンがぴょこぴょこ、と跳ねている。

 ロンは、森で魔物に襲われているところを助けた半分獣、半分妖精の不思議な魔物だった。

 猫と狐のような容姿で、綺麗な体毛は触るともふっとしていて、撫でるととても癒される。


「もうちょっと待って。もうすぐできるから」


 俺が作っているのはクリスに似せたゴーレムだ。


『付与定着』の魔法や俺の魔法を駆使すれば、『クリス』を遠隔操作できる。


「……よし。こんなものだろう」


 うつぶせになっている『クリス』に俺は「影手繰り」という魔法を使う。


 手を細かく動かすと、思い通りに『クリス』は動き立ち上がった。


 ただ動くだけで選考会を戦えるとは思っていない。

 あとは俺の独自魔法をこいつで再現できるように調整をしていけば――。


「さっきから何をバタバタしてんのよー?」


 扉がノックもなく開くと金髪碧眼の少女が中に入ってくる。

 ソラルだ。

 通っている魔法学院の特別講師であり、元は最年少宮廷魔法士として王都務めだった少女だ。

 今は俺と同じ下宿先で(といってもソラルは客室だが)生活をしている。


「すみません。騒がしくしてしまって」

「一体何を作って――きゃぁぁぁぁああ!? な、ナニ、ナニよこれ!?」


 叫んだソラルは、扉を盾にするようにして裏に隠れた。


「何って……ゴーレムです」

「またゴーレム!? ほぼ人じゃない!」


 そう見えるのか。よかった。


 実は、容姿が一番問題だった。


 クリスとして出場させるのなら、当然彼女と瓜二つでなければならない。

 周囲を上手く騙す必要がある。

 髪色や体格は本物に近くなったが、顔は上手く似せることができたかどうか、自信がなかった。


「少女のゴーレムです」

「なんで裸なのよ」


 ……。


「それもそうですね」


 まったく考えてなかった。


 クリスに似ているかどうか以前に、学院の生徒なのだから制服が必要だ。

 明日、クリスに言って予備の制服を借りよう。


「あ、あ、あんた、この裸ゴーレムで一体ナニをしようとしてたわけ!?」


 人差し指をぶんぶんと振って俺を糾弾するソラル。


 多感なお年頃というやつだ。

 やれやれ。

 元宮廷魔法士といえども、皮をめくれば一四歳の小娘というわけか。


 学院の教室でもこんな空気がときどきある。

 男だの女だの、好きだの嫌いだの……。

 学院に一体何をしに来たのかとつい思ってしまう。


「何か勘違いしているようなので、説明しておくと――」


 と、俺は今日あった出来事をソラルに教えた。


「あ、ああ、そうなの」


 いやらしい勘違いをしていたソラルは頬を染めたまま、おほん、と咳払いをする。


「じゃ、あんたはこのクリス(仮)を操って選考会に出場して、手柄を彼女のものとするつもりなのね?」

「はい」

「あんたが操っているってバレちゃ、クリスの成果にはならないわよ?」

「わかる人にはわかりますから」

「その魂胆を私は知ってしまっているし……ゲルズ先生も学院長もきっとわかるわね」


 そう。

 年齢制限を設けたのは誰かわからないが、おそらく学院の上層部だろう。

 その誰かに、競技会への出場条件を改めさせられるのであれば、作戦成功だ。


「けど、どうしてこんなに細かいところまで再現しているのよ」

「何かの弾みで肌が露出するようなことがあれば、困りますから」


 半目をするソラルはつんつん、と『クリス』の胸を触る。


「ここまでやる必要ある?」

「凝り性なもので」

「見たの? 本人の」

「そんなわけないじゃないですか」


「…………エロガキ」

「どこが。心外です」


 ただの六歳児ならそうはいかないだろうが、前世の記憶がある俺は、女性の裸を見た程度で理性を忘れることはない。


「とりあえず、服貸してあげるからそれを着させて」

「わかりました。彼女を動かして部屋まで取りに行かせます」


『影手繰り』を発動させ『クリス』を動かす。


「うぎゃ!? 動いた!?」


 驚いたソラルが腰を抜かしそうになっていた。






 翌日の放課後、俺はクリスから制服を借り、下宿先の部屋にいる『クリス』に着てもらう。


「話を聞いているだけでは半信半疑だったが、本当に自分から動いてきちんと制服を……」


 ソラルの服を脱ぎ、制服に『クリス』は袖を通していく。


 今日はイリーナとライナスの二人は自主練としている。

 あの二人なら、きっと学院の演習場で頑張っているところだろう。


「自分ではないが、自分と似た容姿をしているから、ルシアンに着替えをじっと見られるのは恥ずかしいな……」


 たまらなくなったのか、クリスは俺に見せまいと目隠しをした。


 俺は作りはじめたら最後まで作らないと気が済まない性分だったようだ。

 ソラルに服を借りたそのあと、ずっと『クリス』が魔法を使えるように調整をしていた。


 おかげで今日は寝不足だ。


「しゃべることはできませんが、僕が使える初級魔法なら彼女も発動させられます」

「たった一晩で、こんなものを作り上げてしまうなんて。君は、神の使いか何かなのか」


 まあ、その通りだ。


 本当は俺が魔法の基礎理論を考え『魔法の父』と呼ばれるはずが、俺は例の独自魔法を誰にも教えないまま不治の病にかかってしまい病没。


 そのせいか、本来発展するはずだった魔法が発展しておらず、著しく遅れているから、神から様々な祝福を与えられ俺は現代に転生をした。


 独自魔法を広めたい俺と、未発展の魔法を発展させたい神と目的が図らずも一致したのだ。


 制服に着替え終えた『クリス』。


 本人と偽物をずーっと見ていると見分けがつくが、その比べる本人がいなくなれば違和感程度で済むだろう。


 初級魔法が使えるかどうか、きちんと試していなかったので、俺はクリスと『クリス』と一緒に空き地まで向かった。


「ルシアンの初級魔法というと……」

「『ファイア』『アロー』『ウォター』『ロックピック』の火風水土の四種を基本にし、属性を組み合わせてそのときどきでアレンジを」


「ま、待て待て待て。待ってくれ」


 頭痛を堪えるように、クリスはこめかみを押さえた。


「まず、私は一属性しか魔法は使えない。これは私だけではない。だいたいの人がそうだ」

「……のようですね。『クリス』には『アロー』とそれをアレンジした風魔法を使わせましょう」

「アレンジなんてことができるのか?」

「はい。火と風を掛け合わせたり、水と土を掛け合わせたり、応用というやつです」

「そんなことができるなんて、私ははじめて聞いた……講師たちもそんなことは教えてくれなかったぞ」

「土台から違う魔法ですから」

「違う、魔法……?」

「はい。今は、クラスメイトのイリーナさんとライナスさんが覚えようと頑張ってくれています」

「……私にも、覚えられるだろうか?」

「もちろん」


 俺は力ずよくうなずいた。

 さっきまでどことなく申し訳なさそうにしていたクリスに笑顔が戻った。


「では、『クリス』に『アロー』を使わせます」


 試運転をはじめる。

 俺は『影手繰り』の魔法を介し、風魔法そのものを送った。


『クリス』が手をかざす。

 詠唱も魔法名を口にすることもなく、手の平から風の矢がギュン! と放たれた。


 ズガン!


 大きな音を立て『アロー』は壁に突き立った。


「うん。成功だ」

「……ルシアン?」


 クリスが呆然としている。


「はい?」

「私よりもこちらのほうがかなり強いのだが」

「試しに一発撃っただけなので、強度を上げるともっと速くもっと強いものが撃てますよ」


 次は、『アロー』の連射性能。

 初級魔法のような軽い魔法であれば、『影手繰り』を介してでも、このくらいはできるだろう。


 可能な限り俺は『クリス』に『アロー』を連射させる。


 ズガガ! ズガガン! ズガガン!


 三連射のあと一呼吸ほどの間が空き、また三連射。

 これは、遠隔操作故のタイムラグだろう。


 両手から『アロー』を連射させてみると、そのタイムラグはほぼなくなった。

 敵からすればずっと撃たれているように感じるはずだ。


「す、すでに私より強いのだが!?」

「強いほうがいいじゃないですか」

「不自然なほど強いのだが!?」

「これでクリスさんは選考会でかなりの好成績を残せます。学校を辞めることもありません」


「ありがたいのだが、本当にいいのだろうか」

「追い詰められて火事場の馬鹿力が発揮された、ということにしておきましょう」


 俺は『クリス』が自分の思った以上の性能を発揮してくれたことが嬉しくて日が暮れるまで性能テストを繰り返した。



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