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幼馴染と森で


 大人たちは、俺が魔法を使ったことに対して、かなり驚いているようだった。


 その隙に、俺は現場を離れ森のほうへと歩いていった。


 久しぶりに使ったが、これといった反動はなさそうだ。あのレベルなら、肉体に支障はないらしい。


「ルーくん、ルーくん」


 ちょこちょこと、ずっと俺の後ろについてきていたアンナが呼びかける。


「何?」

「魔法、どうやったの? どうやったら使えるの?」

「たゆまぬ鍛練と向上心があれば、誰にでもできるよ」

「たゆまぬ……?」


 言葉が難しかったらしく、首をかしげている。


「ルーくんは、貴族サマなの?」

「違うよ。農家の長男だよ」

「でも、魔法って、貴族サマしかつかえないんじゃないの?」

「え?」


 何だそれ。


「そんなことないよ」

「そんなことあるもん! あるったらあるの!」


 どうしてそこまで頑ななんだ。


 しかし、魔法は、貴族しか使えない……?


『貴族の子弟が学ぶことが多いから魔法は貴族しか使えない』という意味か?

『魔法を学んでいる』『魔法が使える』というのは、貴族の世界では一種のステータス扱いだ。

 学ぶのも当然だ。


 だからといって、農家の長男が使うのがおかしいかと言えばそうではないはずだ。


「アンナちゃんは、帰ったほうがいいよ。僕これから鍛練するから」


 森の入口で暗に帰れと伝えたが、鍛錬というワードがどうやらマズかったらしく、食いついてきた。


「たんれん!? 魔法のっ!? アンナもするっ!」

「魔法の鍛錬じゃなくて、むしろ体力作りで……」


 魔法とは真逆。

 何だかんだで、魔法を使うためには体力もある程度は必要なのだ。


 森での鍛練は、今では俺のライフワークの一つにもなっている。

 両親は村のどこかで遊んでいると思っているようだが、本当は森に入って鍛練をしていた。


 さっさと帰ってほしいのだが……アンナにそんな様子はまるでなく、キラキラと目をずっと輝かせている。


 俺はため息をひとつついた。


 まあいいだろう。相手がいないとできない鍛練もある。

 それに、前世の魔法技術や知識を広める第一歩と考えれば、ちびっ子の相手も悪くない。


「じゃあアンナちゃん、鬼ごっこしよ」

「鬼ごっこ? 魔法が使えるようになるの?」


 魔法、まほう、マホー、さっきからずっとこれだ。この子の中には魔法しかないのか。


「そのための準備だよ」

「わかった!」

「アンナちゃんが鬼で、僕に触れたら交代ね」

「うん!」


 元気があってよろしい。


「スタート」


 ぱちん、と手を叩くとアンナが首をかしげた。


「……ルーくん、にげないの?」

「うん」


 さっそく捕まえようと手を伸ばしてくる。

 それをひらりとかわす。むっとしたアンナが触ろうと接近してくると、バックステップをいくつか踏んで、距離を取る。


「む~~~~!」


 接近してきたアンナから逃げることはせず、あくまでも捕まらないようにだけ気をつけた。


 動物を相手にするよりずっといい。こちらが追いかければむこうは逃げるだけで、すぐ捕まえられるし、危害を加えようと追いかけてくるような動物は今のところ見かけない。


 す、す、す。

 アンナの手を足は動かさずすべてかわす。


 いい鍛練だ。

 アンナがムキになりはじめ、やがてうっすらと目に涙を浮かべた。


「っ……。……いじわる……」

「ま、まさか、な、泣いてるのか……!?」

「な、泣いて、ない……もん……泣いて……」


 涙をいっぱいに溜めて、鼻をひくひくさせて、もう泣く三秒前のような顔をしていた。


「顔と言葉が矛盾してる」

「ルーくん、ズルしてる……!」

「ズルじゃない。これが力量差で、現実だ」


 のどをしゃくらせ、ついに泣き出してしまった。

 ……現実を突きつけたのがマズかったのか?


 わぁぁぁぁん、と遠慮することなく大声で喚くアンナ。


「いじわる、するから、かえる~~!」

「意地悪じゃなくて――」


 目元をこすりながら泣いているせいか、木の根に足を取られた。


「あっ」


 このままなら転んでさらに大泣きするだろう。

 仕方ない。

『付与定着』『重力』――二つを同時に発動させる。


 すると、転ぶことはなくふわっとアンナの体が浮いた。


 よし、初の『付与定着』に成功した。


「ういてる」


 泣き止んだアンナが周囲を見回している。

 体を元の態勢に戻して魔法を解いた。


「ルーくん、ありがとう」

「ううん。転ばなくてよかった」

「たっち」


 俺の体を触った。


「む」


 アンナはえへへ、と涙のあとが残る顔を笑顔に変えた。


「るーくん、捕まえた」

「今のはズルだろ」

「終わったって言ってないもん」


 ああ言えばこう言う……!


「ルーくんが鬼ね」

「わかったよ」


 きゃー、と楽しそうな悲鳴を上げてアンナが逃げていく。

 その背中が見えなくなり、追いかけることにした。


『重力』の使い方もわかってきたぞ。

 風塵魔法とかけ合わせたら――。


 アンナを捜索するとすぐに見つけられた。

 大木の後ろに隠れて、体育座りで小さくまるまっている。


「見つけた」


 声に、アンナはこっちを見る。


「え? と、飛んでる~~~~!」


 空中から捜すとかなり楽だった。


 昔は風塵魔法で一時的に浮かぶことはできたが、細かい方向調整もできなかったので、飛行と呼べる代物ではなかったのだ。

 だが『重力』があれば、低レベルの風塵魔法を使うことで方向調整が可能になり、もちろん浮かび続けることも容易になった。


 大木の枝に着地する。

 体力作りの鍛錬と体に魔力を慣らし続けたおかげか、転生後のときのような反動を感じない。


「この体でもずいぶん使えるようになったらしい」


 どこまでなら反動を気にせず魔法を使えるのか試そう。

 神からもらった魔法もだ。


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