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 講義を受けている最中も、俺はイリーナに独自理論の魔法を教えていた。

 口で言って覚えてもらうより、やって覚えるほうが早いと思うが、イリーナは丁寧に理屈を知りたがった。


「なるほど……」


 講義そっちのけで、イリーナは俺が教えたことをメモしていく。


「詠唱も一切不要っていうだけで、打ち合いになればかなり有利だよね」

「はい。それに、僕が提唱する魔法は精霊の属性に関係なく発動させられます」

「属性に関係ない?」


 こくり、と俺はうなずく。


「覚えてしまえば、肉体強化など物理的な支援魔法も自分に使うことができますから」


 へぇぇぇ、とイリーナは目を丸くしている。


「本当にすごい……」


 だからこそ、だ。

 年齢制限に俺が引っかかってしまったので――。


「イリーナさんには、何としても選考会で選抜メンバーに選ばれてもらいます」

「もちろんだよ。負けるつもりはまったくないからね」


 瞳がやる気に満ちている。

 イリーナは記念すべき一人目の弟子だ。

 なんとしてでも彼女に活躍してもらわないと。


「代表選考会は、週明け月曜日に行われます。選考会の資格は一〇歳以上で、ギルドルフ君は、今回は見学となりますね」


 選抜メンバーに年齢制限がある以上、選考会も同じ条件になるとは思っていた。


 選考会の内容はというと、参加者がつけるバッヂを制限時間内に奪い合うというもの。

 バッヂの数はもちろん、戦闘内容や状況判断なども審査の項目に含まれる。


 場所は、学院の敷地内にある演習場として使われる広大な森。


 ひそひそとそこかしこで話し合う声が聞こえている。


 個人戦という説明だったが、気の置けない仲間と複数で動いたほうが効率もいいし勝率も上がるということか。

 競技会では、一〇対一〇の模擬戦があるので、支援、援護という能力も査定に含まれるようだ。

 あの様子だと、チームを組むのは暗黙の了解なのだろう。


「ルシアンくんの独自魔法を試すいい機会……わたしは、一人で十分……」


 イリーナがしたり顔で頬をゆるめている。

 力試しをしたい気持ちはわかるが、俺としては誰かと組んで安全にいい成績を収めてほしいのだが……。


「んだよっ……いいだろ、入れてくれても」


 そんな声が聞こえてくるので目をやると、細眉のライナスが舌打ちをしているところだった。

 ライナスは、入学初日に俺にいやがらせをしようとして返り討ちにあった。

 そのあとそれを指示した講師であるゲルズにいやがらせの失敗の責任を負わされそうになり、俺が助けたことは、記憶に新しい。


 いやがらせのときは二人ほど従えていたが、今はもう一人ぼっちのようだ。

 ……俺の魔法で仲間割れするように仕向けたからな。


「ライナス、みんなに断られてるね。まあ、自業自得というか」


 呆れたようにイリーナが言った。


「嫌われているんですか?」

「はっきり言っちゃうとそうだね。強いのはたしかなんだけど、それを鼻にかけて威張っていたから」


 前後左右にライナスは声をかけるが、結果は同じ。

 わかりやすく肩を落としていた。


 自分が撒いた種とはいえ、少し可哀想になってくる。

 講義が終わると、イリーナと仲のいい女子がイリーナに話しかける。


 内容は選考会のチームの誘いだった。


「大丈夫。わたしは、一人で」


 誘いに乗ってくれればいいのだが、笑顔で断っていた。


 こうなっては、誰とも組まないだろう。


 俺は椅子からおりて、うなだれているライナスのところへ向かった。


「よ。ルシアン、どした」


 明らかに元気がない。

 言葉にも所々ため息が混ざるありさまだ。


「ライナスさん、イリーナさんを援護してくれませんか?」

「イリーナを? オレが?」


 意外な提案だったのか、ライナスは目を丸くしていた。


「はい。本人は単独でやる気満々なんですけど、誰かサポートしてくれたほうがいい成績が収められると思うので」

「イリーナは、一人がいいんだろ?」

「だから、こっそりと彼女をサポートしてあげてほしいんです」

「ルシアン、おまえ……」


 落ち込んでいた表情だったが、ライナスはニヤリと笑う。


「好きなんだな、イリーナのこと」

「は?」

「いや、いい、いい、いいって。言わなくても」


 手を突き出し、ライナスは俺が何か言おうとしたのを遮った。

 もうずーっとにやにやしっぱなしだ。


「あんなふうに世話焼いてくれるし可愛い。結構人気あるんだよな、イリーナは。おまえからすれば身近なおねーちゃんって感じだろうし、憧れちゃうのもわかる」


 うんうん、とライナスはうなずいて俺の肩を叩く。

 何もわかってないな、こいつは。


「そういうわけでは……」

「大好きなおねーちゃんを守りたいってことだろ?」

「イリーナさんは、好きとかそういうアレではなく――」

「いいよ。わかった。わかったって。おまえには退学になりそうなところを助けてもらったこともある。おまえのねーちゃん、オレが守ってやんよ!」


 自信満々な顔で親指で胸を指差すライナス。

 すさまじい勘違いをされてしまった。


 ……まあいい。

 協力者を得たという事実は変わりない。


「表立って協力すると、イリーナさんは拒否すると思うのでこっそり」

「ああ、わかった」

「イリーナさんは、僕にとっては弟子のような存在で」


 俺が誤解を正そうとしていると、ライナスは周囲に人がいないことを確認した。


「こっそりおっぱい触っちまっても、おまえなら許されるぜ。意外とデカいからな、イリーナは」


 声を潜めてそんなことを言う。

 下衆め……。


「うらやましい」

「あの、だから……」


 はあ、と俺はため息をついた。

 この状況では、何を言っても聞いてくれそうにないな。





 放課後。

 生徒の自主練習用に解放された演習場で、俺はイリーナとライナスの前に立った。


「イリーナさんには、引き続き魔力器官による魔法発動の練習をしてもらいます」

「ルシアンくん。ライナスがなんかいるんだけど」


 ちらりとイリーナがライナスを一瞥した。


「『なんかいる』はねえだろ。オレもルシアンに特訓してもらうんだ」

「えぇ~。わたしだけでいいのに」


 唇を尖らせ、イリーナは不満を口にする。


 意外とイリーナは独占欲のようなものが強いのかもしれない。

 一人で選考会を戦うというのも、すべてを自分の功績にしたい、という気持ちの現れなんだろう。


 そんな人材のほうが、俺の独自理論を広めてくれそうなので、そういった意味でもイリーナは適材だった。


「そう言わないでください。イリーナさんは、自分が扱える魔法を魔力器官を通じて発動できるか確認もしてくださいね」

「はい!」


 いい返事だ。


「ルシアン、オレは何を?」

「ライナスさんは、土魔法メインの魔法戦士、でしたか」

「ああ。バリバリ前線で戦うタイプだ」


 影から支援するという意味では、適しているわけではないが、イリーナにとっては周囲全員が敵となる。

 こっそり背中を守ってあげるだけでも、大きく違うはずだ。


「ライナスさんには、肉体強化系の魔法を覚えてもらいます。イリーナさんが練習している魔力器官の使い方も」


「なんじゃそれ」


 こうして、イリーナとライナスの特訓がはじまった。



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