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2章1


 朝の目覚めとともに、ゴーレム一号の様子を観察する。

 ゴーレムは、俺の指令に従い黙々と動く労働力でもあった。

 ここにいる一号は、下宿先である宿屋の掃除を行うように指令を出している。


 ちなみに一号と名付けたのは『鍛冶』魔法を使ってはじめて作ったゴーレムだからだ。

 間借りさせてもらっている宿屋の掃除を、一号は昨日と同じように問題なくこなしていく。


 テキパキ……とまでは言えないが、自動で掃除をしてくれるので、宿屋の主人であるトムソンは大いに助かっていると言ってくれた。


「うおわぁっ!? んじゃこれ!?」


 宿泊していた旅人が部屋から出ると、廊下で掃除をしていた一号に仰天して腰を抜かしていた。

 この光景にもそろそろ慣れてきたな。


「掃除をするゴーレムです。お気になさらずに」

「そ、掃除をしてくれるゴーレム? す、すげえな……」


 モップがけをする一号を旅人は興味深そうに見つめる。

 食堂が開くのはあと一時間ほどなので、俺がその案内をすると、


「ぼっちゃん、ありがとうな。そういや、昨日主人に説明されたっけな」


 ぽりぽりと頭をかいて、もう一寝入りすると言い旅人は部屋へ戻った。


「ロォン……」


 俺と一緒に起きたロンが、眠そうな声を上げる。

 ぶるぶる、と体を震わせると小さく埃が立つ。

 それに反応した一号が、くるりと踵を返し、モップを手にこちらへ戻ってきた。


「ロン! ロン!」


 興奮気味に一号の足下をぴょんぴょんと飛び回るロン。

 相変わらずゴーレムが大好きらしい。


「朝から何よ……うるさいわね……」


 がちゃり、と部屋からソラルが顔を出した。目が半分も開いていない。


「今日は私の講義がないんだから、もっと静かにしてちょうだい」


 寝癖のついた金髪を撫でつける天才美少女魔法使い様は、現在、この宿に寝泊りしながら魔法学院で特別講師として教鞭を取っている。


 元はエリート魔法使いの代名詞、宮廷魔法士だったソラルだが、ちょっとしたことで俺と知り合い、こうして顔を合わせる仲になった。


 ソラルは文句が言いたいだけだったらしく、すぐに部屋の中へ顔を引っ込めた。


 掃除の様子を見にきたトムソンに挨拶をして、夫人がいる食堂へ行き、朝食の準備を手伝う。

 それが終わると、ようやく朝食だ。

 ロンにもパンと水を食べさせ、学院への登校準備をしていると、外から女の子が俺を呼んだ。


 同じクラスのイリーナ・ロンドの声だ。

 夫妻に「行ってきます」と挨拶をし宿屋を出ていくと、イリーナとともに登校する。


「自分なりに、ルシアンくんの魔法の練習をしているんだけど――」


 歩きながら、イリーナは俺が考える魔法理論の疑問を投げかけた。


 彼女は、俺がやろうとしていることの大事な大事な一人目の生徒だ。

 俺は無下にすることなく、既存の魔法と、俺が使っている魔法の違いを説明していく。


「な、なるほど……?」


 まぁ、まだ完全に理解を得られてないようだな。

 俺の……まだ六歳の子供の話を真面目に聞いてくれる純粋な少女である。いずれきっと理解してくれるはずだ。


 既存の魔法は、呪文を唱えることで精霊に呼びかけ魔力と引き換えに魔法を発動させるというもので、便宜上精霊魔法としておこう。

 俺はその精霊がいなくても魔法は使えるということを前世で立証している。

 我ながら画期的な魔法理論であると思っていたのだが、俺が提唱した理論はまったく浸透せず、今でもこうして精霊魔法が使われている。


 そして、その魔法が使えるのは貴族とその血縁者だけという誤った常識が今日こんにちまで定着してしまっていた。


 貴族の血縁関係者だけでなく、本当は、人はみな平等に魔法が使えるはず――。


 前世では神域の魔法使いと呼ばれた俺の目的は、魔法の発展と貢献。


 どうしてそうなったのかわからないが、俺がやろうとしていることとまるで真逆のことがこの世界では当たり前と認識されてしまっている。


 学院で現代の魔法を学んでいくにつれ、俺にも精霊魔法が使えるようになってわかったが、精霊のような働きをする「何か」のことを精霊と呼んでいるようだ。

 当時を知る俺だけしかこの違いはわからないだろうが。


 ともかく。

 いずれにせよ精霊は不要。

 そういった知識を広めて魔法を進歩させるためには、俺の影響力を高めていく必要がありそうだった。






 登校すると、昇降口の掲示板に何かが貼り出されていた。


「あ~。これが噂の……」


 合点がいったように掲示板を見るイリーナがつぶやく。


「噂の?」

「ああ、うん。これ」


 掲示板をイリーナが指さすが、身長一〇〇センチほどの俺が見えるはずもない。それを察したイリーナが体を抱えて、持ち上げてくれた。


 ……なんというか、恥ずかしい……。

 もっと早く身長が伸びてくれればいいのだが……。


「見える?」


 イリーナのおかげで、掲示板の内容が読めた。


『魔法競技会について』


 魔法競技会……。

 要約すると、学院から選抜された生徒たちが魔法技術を他校と競う大会だという。


 ふうん。面白そうだな。


「この大会、有名なんですか?」


 イリーナに尋ねるとうなずいた。


「うん。毎年すごく盛り上がるし、なんと、陛下がいらっしゃるんだよ」


 ほう。御前試合というわけか。

 魔法能力なら世界レベルである俺が出ない理由はない。

 是非出場したい。


 あの魔法は何だ!? と、なるに違いない。

 そうなれば俺は、独自魔法を観戦していた国王ならびに偉い人に説明するだろう。


 俺の魔法理論の新しさが、ついに公になるというわけだ。


「クク……」

「ルシアンくん? 何か変な笑い声が……」


 おほん、と咳払いをして誤魔化す。


 掲示板の内容を読み進めていくと、代表選考会が行われ、その成績優秀者の中から選ばれるようだった。


「……また選抜ですか」


 小さく俺はため息をつく。

 優秀ではあるつもりだが、この学院のモノサシで計った場合、そうだと言える自信はない。


「仕方ないよ。きっとまた上級生中心なんだろうね。あ、でもルシアンくんは、もしかするかもだよ!?」

「そうですかね?」

「そうだよ!」


 満面の笑顔でイリーナは俺のことを推薦してくれる。


 代表者の枠は一〇人……。


 競技会の内容はというと、一対一で戦う個人戦。あとは一〇対一〇の模擬戦。

 この二種類のようだ。


 模擬戦は総当たりになるので、成績に関係なくそれぞれ四試合行われるようだ。


「個人の戦闘能力以外にも、支援や援護が必要だったりしてチームワークが試されるんだよ。見たことがあるけど、毎年かなり盛り上がるんだ~」


 一人でそのシーンを回想しているイリーナは、思い出してホクホク顔をしている。


 俺はイリーナにお礼を言って下ろしてもらう。


 どうにかして選抜メンバーにならなければ。


 講義が行われる教室へ行くと、同級生たちは魔法競技会の話題でもちきりだった。


 代表を目指そうと言う生徒、観戦するのが楽しみだと言う生徒。様々な思いがあるようだ。


 お子様椅子を引きずり、イリーナの隣に並べて座る。

 しばらくすると、講師がやってきて、連絡事項を伝えた。


 その中で、魔法競技会について触れた。


「魔法競技会の代表選考会が後日行われます。腕を試したい人は是非参加するとよいでしょう」


 俺へのメッセージとしか思えないな。


「去年は我がエーゲル魔法学院は総合成績最下位という不甲斐ない結果に終わってしまいました」


 そう嘆くように首を振ると、講師が言った。


「この学院に通う生徒全員に代表になる資格があります。去年の名誉挽回をするのです!」


 うむうむ、と俺がうなずいていると――。


「ただし……一〇歳未満の学院生は、対象外となるので気をつけるように」


 ……俺のことか?

 講師を含め、みんながこっちを見ている。


 うん……俺だな。


 ということは何か? 俺はその魔法競技会へは出られないどころか、代表選考会にも出場できない、と?


 解せん。

 なぜだ。


 イリーナに選ばれて当然というような顔をしてしまった自分が恥ずかしい。


 まあいい。

 理由を考えても詮無いこと。

 そっちがその気なら、俺にも考えがある。


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