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講義をアレンジしてみた


 剣術の講義が終わり、次の講義がある校舎へ向かおうとしていると、倉庫からひとり言が聞こえてきた。


「どうして私がこんなことを……」


 ライナスとイリーナには先に行ってもらい、俺は声が聞こえた倉庫を覗く。


 そこでは、ゲルズが魔法を試射するときに狙う的を補修しているところだった。


 足下に転がっている布製の的は一〇数個あり、破れた部分をゲルズはご丁寧に、チクチクと針で縫っている。

 俺とソラルが魔法で狙ったあの的だ。


「私は、王国三〇選の魔法使いだぞ……」


 チッ、と舌打ちをして、ため息をつく。


「大変そうですね」

「ん? ああ、君か」


 声をかけたのが俺だとわかると、露骨に嫌そうな顔をした。


「君のせいで、私はこんな雑用を押しつけられたのだ」

「僕、何かしましたか?」


 思い当たる節といえば、入学するときに、ボコボコにしたくらいだ。

 だが、あれは試験中のこと。悪意があってやったことではない。

 ……多少、怒りをぶつけたことは反省したいが、そう思わせたこいつも悪い。


「何かしましたか? ではない。学長も、こんな村人のガキを特別扱いしなくてもよいものを」


 チクチク……。チクチク……。


 しばらく見守っていると、ようやくひとつが直った。


 手は動かしなら、ゲルズは俺への嫌みをつぶやく。


 やれ、貴族しか本当は入学できない、だの、おまえの力はインチキだ、だの。自分よりも格上のソラルが生意気でムカツクだの。


 ……明らかに俺は無関係なものもあったが、すべて俺のせい、ということになっていた。


 ん、と何かに気づいたゲルズが顔を上げた。


「おほん。ルシアンくん」

「何ですか、改まって」

「私からのミッションだ。この的をすべてこのように直してくれるかい」


 自分が直したひとつを俺に見せるゲルズ。


「……嫌です」

「すべてできたら、お菓子をあげよう」


 それで俺が喜ぶとでも思っているのか。


「次の講義があるので」

「私のミッションをしていた、と担当講師に言えばいい。多少の遅刻は許されるだろう」


 本当にそう言えば、「だからといって、遅刻は許されない」という展開にきっとなるだろう。


「先生が任された仕事だと……」

「では、頼んだぞ!」


 持っていた修理品を俺に押しつけて、ゲルズは倉庫を出ていった。


「あれが三〇選の魔法使いか。王国のレベルも知れてしまうな」


 ため息をついて、仕方なく俺はゲルズミッションをはじめる。

 修理用具は置いているので、これで直せばいい

 壊れていない的は演習場に置いたままで、いくつか残っていた。


「ふむ」


 直しても構わないが、すべての的が同じでは、命中精度は上がらないだろう。

 どれも同じ大きさで、最初のうちはいいが、慣れてしまえば訓練にもならない。


『鍛冶』を使い、倉庫を見回して材料を確認する。


「俺がやっていた訓練の難易度を落としたものを作ってみるか」


 的を小さくしたいのであれば、的から距離を取ればいい。だが、そういった訓練者の工夫で解決できないものを作成すれば……。


 工作に夢中になることしばらく。

『鍛冶』の力は絶大で、俺の納得がいく訓練用具が出来上がった。





 魔法実践の講義になり、ソラルと俺たち生徒は演習場へやってきた。


「今日も魔法実践学では、的に向かって魔法を使うわよー。最初は発動させるのもゆっくりでいいから、まず当てること。慣れてきたら百発百中を目指してね」


 と、特別講師のソラルは生徒たちに言って、くるりと振り返ると首をかしげた。


「あれ? なんか的が減ったわね」

「破損した的がいくつもあったので、それを改良しました」


 俺が言うと、注目が集まった。


「へーそうなんだ? それはゲルズがやったって聞いたけど。……ん、改良……?」


 的に仕込んでいた『傀儡』という闇魔法の一種を発動させる。


 離れた倉庫から、一体、二体、三体……計八体の木偶人形が出てくると、こちらに歩いてやってきた。


 うわぁぁぁぁあ!?


 と、演習場はパニックに陥った。


「な、なんだあれ!?」

「か、勝手に動いてる――!?」


 ふふふ。楽しんでくれているようだ。


「怖い怖い怖い怖い!」

「動き滑らか過ぎだろ!?」

「夢に出そう!」


 つんつん、とソラルに突かれた。


「もう驚かないわよ、ゴーレム作った程度じゃ。何よ、あれ」

「見ての通り。動く的です」

「いやいや……魔法をきちんと発動させられるかどうかのヒヨっ子よ?」


『傀儡』を自動化しているため、俺の訓練方針に従い、一体の木偶が魔法発動準備に入った。


「え。ちょっ、嘘だろ!」

「この人形、魔法使うのかよ!?」


 足下に白い魔法陣が広がり、小さな魔力の塊を飛ばした。


 魔法というにはお粗末だし、俺に比べれば発動もかなり遅いが、まあ合格点だろう。


「あのねえ、あんなゴーレム相手に生徒の魔法が当たるわけ――ふぎゃぁあ!?」


 木偶人形を見ていなかったソラルに攻撃が直撃した。


「きゅぅぅ……」


 当たり所が悪かったらしく、ソラルが気絶してしまった。


「せ、先生がやられた――――!?」


 うわぁぁぁぁあ!? と木偶人形から全員が距離を取り、再びパニックに陥った。


「みなさん、木偶たちの攻撃がどんどん行きますよ! ただの人形にやられっぱなしでいいんですか!?」


 俺が発破をかけると、何人か目の色が変わった。名前はわからないが、魔法の扱いが比較的上手い生徒だったはずだ。


 さっそく魔法を使い木偶たちに反撃するが、当たらない。


「くそ、ダメか」

「次だ、次!」


 それはそうだろう。焦れば焦るほど手元は狂う。

 実戦で平静通りに戦える人間はほとんどいないのだ。


「おまえらも援護くらいしろよ!」

「勝手に指図すんじゃねえ!」

「ま、待て、あとちょっとで発動――うわぁぁぁぁ!?」

「もうやだぁぁぁ!」


 演習場は戦場さながら、十人十色の反応をしていた。

 俺の管理する木偶が相手でよかった。

 実戦なら全滅していただろう。


「食らえ! よし! 当たった!」


 ついに木偶人形に一発魔法が当たる。

 が、『反射』によって、魔法がブーメランのように戻っていく。


「うわぁああ!? あぶねえ!?」


 どうにか回避したが、それを見ていた生徒たちから、敗戦ムード一色の絶望感が漂ってきた。

 むう……。難易度は下げたんだが……。

 きちんと観察し、考えれば倒せる設定なのだ。ヒントも与えているし。


「あ、もしかして!」


 イリーナが声を上げた。


「人形の首に巻いてある布! あの色は属性を表すんじゃ――」


 正解だ。

 イリーナの意見を聞いて、どうにか対応しようとしている生徒が大半の中、ライナスがこっちへ走ってきた。


「こういうのはなぁ――! 術者をシバきゃ、それでしまいなんだよぉぉぉ!」


 今回は自動だから関係ないが、そういう魔法使いもいるだろう。その選択は間違いではない。


 うぉぉぉぉ! と雄叫びをあげてライナスが突進してくる。が、急ブレーキをかけた。


「た、倒せねぇぇぇぇぇえ! 無理だぁぁぁぁぁ!」


 膝を屈して、地面を叩く。

 その隙に木偶の攻撃を受けてしまい、「ぎゃっ」と悲鳴をあげて地面を転がった。


「――やった!」


 イリーナの快哉が聞こえる。その先には、水属性攻撃を受けて倒れた木偶人形がいた。


「赤い布には炎属性、それが水色なら水属性。間違った属性は反射する!」


 火、水、風、土……それぞれ、赤、青、緑、茶としている。

 時間はかかったが、よくそれに気づいたな。


 突破の糸口をつかんだ生徒たちの士気は大幅に上昇した。


「呼吸を整えて……」

「ゆっくりでいい、確実に……」

「属性を間違えないようにして――」


 外れる魔法も多いが、一体、また一体と倒れる木偶が増えてきた。

 そして、ついにすべてを撃破した。


「た、倒した」

「やった……!」


 魔法を撃つための術式を木偶に刻み、魔力を少量わけて、自動化させてこのありさまか。

『支援影法師』で俺の動きを再現しなくてよかった。


 パチパチ、と俺は拍手し、へたり込んでいる生徒たちに喝采を送った。


「いい戦いでした。残念な結果に終わった方もいると思いますが、次回があります。頑張りましょう」


「「「「次回、あるの……?」」」」


「慣れてくれば難易度も上げます」


「「「「もうやめて!」」」」


 悲鳴にも似た拒否だった。


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