はじめての魔法
◆アンナ◆
「だれでも使えるの?」
「うん。誰でも使える。そうあるべきものなんだ。それを誰かが勝手に使えないことにしてて――」
ルシアンの言っている半分も、アンナは理解ができなかった。
ただわかったことは、自分でも魔法が使える、ということ。
「すぐにはできないと思うけど、練習すれば、きっとアンナちゃんにも使えるはず」
小さな両手をじっとアンナは見つめる。
貴族や特別な人間しか使えないとされている魔法。
それが、自分にもできる。
ドキドキ、と鼓動が早くなる。
「お、おしえて! わたしもやってみたい!」
「いいよ。でも、僕、今日の夕方には下宿先に帰るんだ。練習方法だけ伝えるからね」
うん、とアンナはうなずき、ルシアンから魔法の使い方や使うための準備を教わった。
ルシアンが帰り、アンナは一人でずっと言われた通りの練習を繰り返していた。
『マリョクキカンがミハッタツだとすぐには使えないだろうから、まずはキカンのカクチョウとマリョクをシュウソクさせる訓練をしよう』
言葉の意味が難しく、噛み砕いて教えてくれた理屈もわからなかったが、方法だけは理解した。
呼吸を整え、お腹の中心を意識する。すると魔力が集まってくるのを感じる――というが、どれが魔力なのか、いまいちわからなかった。
それでも、何日も繰り返していくうちに、お湯のような温かさを持った何かを感じられた。
今度はそれを留める練習をする。それができたら――。
このようにして、ルシアンに言われた通りのことを繰り返したアンナは、魔法を使うための準備を整えていった。
「できるはず……」
魔力を体内に集束させていき、唯一教わった魔法『ファイア』を試しにやってみると。
ぼっ。
手の平から、一瞬炎が噴き出した。
「あっ――あ! ああああああああああ!? でででで、できたぁぁぁぁぁ! おかーさん! おかぁーさぁぁぁぁぁぁん!」
もうすぐ六歳になろうかという秋。
アンナ・フォルセンは、はじめて魔法を発動させた。




