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この作品には 〔ガールズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

夜闇を焦がす熱を

作者: 神崎 漓莉

こんにちは、神崎です!

Twitterで載せている「RTの数だけ1500文字」チャレンジを始めてみました! 今回のテーマは夏祭りです。

よろしくお願いします!

「ねぇ千尋(ちひろ)、今度の土曜って夏祭りだよね?」


 いつも通りの気だるい休み時間。

 じりじりと肌に刺さる夏の日差しが少しずつ気力を奪っていく、明るさだけは一等地って言える窓際の席でぼんやりしているときに声をかけてきたのは、侑希(ゆうき)だった。今日もポニーテールが元気に揺れていて、ついでにマシュマロみたいなほっぺたもふにふにで可愛らしい。


「ん、そだっけ?」

「そうだよ~! 前にも話したでしょ?」

「う~ん」

「うぅ、普段記憶力いい千尋がそんな悩んでると、こっちの自信がなくなってくるよ~」


 あ、すごいしょんぼりしてる。

 そんな姿も可愛いからいいんだけど、あんまり落ち込ませても可哀想だから、一応フォロー入れとこ。


「いや、たぶん何か他のこと考えてて頭に入ってなかっただけだから、たぶん侑希はちゃんと言ってくれてたんだと思う……」

「え~!? そ、それもそれで何かへこむよぉ~」

「えっ? あ、いや、そういうつもりじゃなくて! あー、ごめん侑希」


 わぁ、泣き出したっ!

 えっと、そんなつもりじゃなかったから、焦る。とにかく焦るよ! どうやって慰めよう……、えっと、あぁ、もう、こういうのほんとに慣れない。


「あの、あのえっと、何でもするからさ? だから泣き止んで、っていうか、うん。とりあえず、元気出してよ……」

「……、ん、何でも?」

「う、うん、何でも……」

「じゃあさ……」


 キーンコーンカーン


 侑希が何かを企むようにニヤつきながら何かを言おうとしたところで、それを遮るように間の抜けたチャイムが鳴ってしまう。あ、やばっ! 次に課題の発表するのわたしだった!

 あー、休み時間にやる予定だったの忘れてた……、その場でやるしかないかなぁ……。


 そんな風にしてやった課題発表は見事に爆死、めちゃくちゃな方程式を書いた挙げ句に提出課題の存在まで忘れてしまっていたわたしは、とりあえず居残り補習を言い渡される羽目になったのだった……。

 あー、何でだろ、ちょっとだけ嫌な予感がするんだけど……!



* * * * * * *


 そうやって迎えた、土曜日の午後5時半。

 夏祭りに向かおうって言って侑希と決めた集合時間だ。まぁ、予想通りではあるんだけど、侑希はまだ着いていないみたいで、わたしはというと、神社の鳥居で、何組かの楽しそうな笑顔を見送っている。


 ……なんていうか、めちゃくちゃ心細い。

 別に、人混みが苦手とかそんなこと今更言ったりはしないけどさ、なに、誘ってきたのって侑希の方だよね? あー、どうしよう。時間潰すのってあんまり得意じゃないんだよなぁ……。


「あっ、ごめんごめん! なんかうまくメイク乗らなくてさ~」


 そう言って侑希がわたしのところに走ってきたのは、6時ちょっと前。どうやら、お祭り用にちゃんとキメようとしていたのがうまくいってなかったらしい。


「遅いよ」

「ごめんって~」

「帰ろうかと思った」

「うぅ……」

「だいぶ遅れたもんね」

「ごめん~」

「だから、いっぱい回ろっか」

「……、うん!」


 いや、本当はもっと厳しく言うつもりだったんだけどね。なんか、やっぱりこういう夏祭りの日には、楽しそうに笑ってるところを見たいじゃん?

 そう決め込んで回り始めた夏祭りは、それなりに楽しかった。

 射的で景品の量を競ったり、なかなか金魚を(すく)えない侑希を手伝ったり、型抜きで異様な集中力を目の当たりにしたり。その途中で侑希の髪型がお団子になってるのに気付いてちょっと変な気分になったり。


 いつもと違うことばかりだ。

 チョコバナナとか、りんご飴とか、普段食べられないものを食べたり、普段見られないものを見たり。

 起きながら夢を見てるような気分になりながら、夏祭りの数時間はあっさり過ぎていった。帰り道を歩く人波の中、その流れに逆らうようにわたしたちは境内の奥に向かっていく。

 ……いろんなものが目に入ったけど、それは別に関係ないから話さないとして。

 とにかく、わたしは侑希に手を引かれて神社の敷地の奥を目指した。


「ねぇ、どこまで行くの?」

「うーん、あんまり考えてないかも」


 それで歩き続けて、もうどの物陰にも人の気配がないところまで来て。

 木の生い茂る森みたいになっているところ。

 照明もないから、スマホの明かりを頼りにお互いの顔を見る感じになっていた。そこでようやく足を止めた侑希に尋ねる。


「それで、侑希がお祭りでしたかったことって何なの? 何でもするとは言ったけど、」


 そこまで言った唇は、柔らかな感触に塞がれて。

 ただ、侑希の髪から香るシャンプーの香りとか、意外とすんなり受け入れてる自分とか、いろんなことが頭を巡っていって、よくわからなくなっていきそうになる。体の中に走る熱を、止められなくなる。


「――――、これからだよ? ずっと我慢してたんだから」

「………………わたしもだから」

「えっ?」

「何でもない」


 離した後の唇にも、まだ侑希の熱が残っている。


「うちらも、ふたりだけで夏祭りしない?」


 たぶん、それは侑希も同じだったみたいだ。

 ていうか、たぶんそれが侑希のしてほしかった事(・・・・・・・・)なんだとも思う。

 お互いの熱に浮かされながら、わたしたちの吐息が夜の静かな闇を焦がしていく。きっと、わたしたちはこの夜の森から戻ることはできない。

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